第6章
第1話 【ツン】いつも毒舌な妹の様子が、なんかおかしいんだけど【デレ】 1/2
――クリスマスが終わってから、妹の様子がおかしい。
たとえば一昨日。
「なぁ、
「う……うっさい! 兄さんの丸焼きでいいし!! 頭に着火されて、ファイヤーヘッドになれし、マジで!」
たとえば昨日。
「おーい、那由。先に風呂、入ってもいい――」
「あっち行け! 風呂の中に電源の入ったドライヤーをぶち込まれて、名探偵の事件にでもなれし、マジで!」
…………いやまぁ、那由が俺に対して辛辣なのは、前からそうなんだけど。
いくらなんでも、そこまで言う? って返答が多いんだよな。ここ数日。
しかもなんか、目が合ったら「けけーっ!」と、アマゾンあたりの獣みたいな声を上げて走り去ってくし。
いつもの那由をツン百パーセントとしたら、今は百パーセント中の百パーセント。フルパワー那由だ。
――その一方で。
「那由ちゃん、見て見てー! この番組で紹介してるお洋服、すっごく可愛いねっ!!」
「……結花ちゃんの方が、可愛いし」
「うにゃ!? 急にぴっとりくっついてきて……もー、那由ちゃんってば可愛いなぁ!」
「な、那由ちゃん? ちょ、ちょっと自重しようか? 結花だってそんなにベタベタされたら迷惑だと、僕は思うよ!?」
「やだ。結花ちゃんから、離れねーし」
「かわっ……!! ふへへ……那由ちゃん、もっとくっついてていーよ! もぉ。
「ぐぅぅぅぅ……っ!!」
結花に対しては、いまだかつてないほどのデレムーブなんだよな。
おかげで勇海のライフは、ガリガリ削られてるけど。
「……なんだかなぁ」
そんな那由の様子を見て、俺は誰にともなく呟いた。
クリスマスは昔から、
小学生だった那由が友達関係で傷ついて、学校に行けなくなったり。
親父と離婚した母さんが、家を出ていったり。
――色んな寂しい出来事があった。
そんな我が家だからこそ、クリスマスだけは絶対に、家族で祝おうって決めていた。
だけど今年のクリスマスは、俺と結花の邪魔をしたくないって思った那由が、一人で我慢しようとして――ちょっとした騒動になった。
でも。そのおかげで、俺と那由は本音をぶつけ合うことができて。
最終的には、これまでの人生で最も温かいクリスマスにすることが、できたんだ。
…………だってのに。
「結花ちゃん。ぎゅっ、だし」
「きゃー! 可愛いー!! えへへ……那由ちゃん。お
「いぃぃぃ……結花の実の妹は僕なのに……!!」
「なぁ、那由。そんなに結花を独占してないで、少しは俺とでも――」
「う、うっさい! 兄さんはどっか行けし!! そのまま大気圏まで行って、流星になって海のど真ん中にでも落下しろし、マジで!!」
ったく……クリスマスにはあんなに泣いたり、しおらしかったりしたくせに。
思春期真っ盛りの妹の気持ちは、分かんないな。本当に。
◆
そんな感じで、クリスマスから数日ほど、四人でのんびりと過ごしてたんだけど。
もうすぐ年越しの時期ってこともあり、明日の昼には那由も勇海もこちらを発つ予定になっている。
「……あれ? 結花?」
那由のことで、もやっとした気持ちのまま寝入った俺は――眠りが浅かったのか、夜中に目が覚めてしまった。
だけど、隣で寝ていたはずの結花の姿がない。
なんだろう……勇海が実家に帰っちゃう前に、二人で話し込んでるとか?
面倒な絡みをしてくる勇海に、いつも怒ってる結花だけど、なんだかんだ言っても実の姉妹だしな。積もる話でもあるのかもしれない。
まぁいいや。俺は水でも飲んだら、寝直そうっと。
――そんな感じで、廊下に出ると。
那由の部屋の方から、女子三人の話し声が聞こえてきた。
「……なんで那由の部屋?」
よくないことだとは分かってるんだけど、つい聞き耳を立ててしまう俺。
「――はぁ。あたし、マジ馬鹿だよね」
「そんなに思い悩むくらいなら、素直に甘えればよかったのに。ふふ……まったく那由ちゃんは、素直になれない可愛い子猫ちゃんだね?」
「勇海には言われたくないんだけど。あんたこそ、イケメン気取って結花ちゃんに甘えられてないっしょ」
「……うぅぅ」
「はいはい、勇海よしよーし。ちゃんと勇海のことも、大事に思ってるからね?」
那由に言い負かされた勇海に、優しく声を掛ける結花。
そして結花が、穏やかな口調で言う。
「つまり那由ちゃんは、クリスマスのときに、
「……うん。でも、そういうの恥ずかしいから、これまで兄さんにツンツン接してたわけだし。今さらどんな顔したらいいのか、分かんないっていうか……」
「そうやって迷った結果、ここ数日はいつも以上にツンツンしてたんだね。あははっ、那由ちゃんらしくて可愛いじゃない?」
「うっせ」
――ああ、そういうことだったのか。
やたらとフルパワーのツンをぶつけてくるから、俺のメンタルを根こそぎ削ろうって魂胆なのかと思ってたけど。
那由の奴……相変わらず、素直じゃないな。
「うん! 大体分かったよ!!」
廊下で棒立ちになったまま、俺が感傷に耽っていると。
那由の部屋の中から、結花の張り切った声が聞こえてきた。
「ここは私たちに任せて、那由ちゃん! いつも私と遊くんのことを応援してくれてる那由ちゃんだもん……寂しい気持ちのまま、帰ってほしくないから。だから――那由ちゃんが遊くんに甘えられるように。お
義理の妹の悩み事にも一生懸命な結花。
そんなところが、結花のいいところなんだって、そうは思うんだけど。
なんだろう……嫌な予感しかしない。
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