第35話 【超絶朗報】俺の許嫁、ホワイトクリスマスの夢を叶える 1/2

「おかえり、那由なゆちゃん」



 俺と結花ゆうかに背中を押されて、家に入った那由を――勇海いさみは爽やかスマイルで出迎えた。


 ちなみに那由は、まだフリル付きのブラウスと、大きく膨らんだファンシーなスカートという格好をしている。姫カットのウィッグも、同じく。


 そんな普段とは違う格好の那由だけど、勇海はそこには触れず、普通の質問をした。



「熱はどう? 結花が用意した料理がたくさんあるけど……食べられるかな?」

「……うん。なんか外を走り回ってたら、熱下がった……」



 確かにおでこを触った感じ、もう熱くないんだよな。

 咳とかもないし……ひょっとして、知恵熱的なものだったとか?


 いつも傍若無人な那由が珍しく、俺と結花のことでずっと気を揉んでたわけだし。可能性としてはなくもない。



「まぁ、ひとまず元気になったんなら良かったよ。明日は日曜だから病院やってないし、様子見てまた熱が上がったら、休日外来にでも行くぞ」


「大げさだし……でも、うん。分かったよ」


「あははっ! なんだかいつもの那由ちゃんじゃないみたいだね。小さくなっちゃって」


「もぉ、勇海ってば! 那由ちゃんをからかわないのっ!!」


「からかってないよ、結花。ただ……那由ちゃんの気持ち、なんとなく分かるからね」



 勇海は目元に手を当てると――感傷に浸るように、言った。



「僕は文化祭のとき、結花が心配で仕方なかった。昔みたいに傷つくようなことをしないで、笑っていてほしかったから。だから――那由ちゃんが二人に、クリスマスを楽しんでほしいって思った気持ち……分かるよ」


「……勇海」



 勇海と那由は見つめ合って――ふっと、同時に笑った。

 同じ『妹』同士、何か感じ入るものがあったのかもしれない。


 いつも小競り合いばっかりしてる二人だけど、これをきっかけに少しでもトラブルが減ったらいいんだけどな。



「それにしても那由ちゃん……僕の渡したコスプレ衣装、とても似合っているね? まるでお人形さんのようだよ」

「……は?」



 ――そんな願いも虚しく。

 勇海が早速、爽やかイケメンモードに入って、余計なことを言い出した。



「ふふっ、なんて可愛いお人形さんだろう……触れたら壊れてしまいそうな、儚く美しいドール。さぁ、可愛い那由ちゃん――僕の胸の中で、泣いてもいいんだよ?」

「…………うっさい! マジないし!!」



 那由は顔を真っ赤にして声を張り上げると、かぶっていたウィッグを脱ぎ捨てた。


 そして、ガーリーな格好にいつものショートヘアスタイルという、中間体みたいな那由になったかと思うと。



「あんたに泣きつくわけないっしょ! 馬鹿じゃん!? なに調子乗ってるわけ!?」


「あはは、怒った顔も可愛いよ? 口ではつい強く言っちゃうけれど、心の中には――か弱い小鳥を飼ってるんだもんね、那由ちゃんは」


「うっざ! ぜってー許さないし、このイケメンもどき!! あとで結花ちゃんに怒られて泣けし、この豆腐メンタル!」



 あー、もう……。

 これからパーティーしようってときに、何やってんだよ。この二人ときたら。



          ◆



 それから俺たちは――家族四人でクリスマスパーティーをはじめた。


 ちなみに那由は、いつもの服装に着替え直した。


 昔みたいな女の子らしい格好も悪くないけど、やっぱりこっちの方が……今の那由には、しっくりくる。



「わ……すっご。これ全部、結花ちゃんが作ったの?」


「えっへん! そうですっ!! 昨日のうちに仕込んでおいた、那由ちゃんに喜んでもらうための――スペシャルディナーなんですっ!」



 めっちゃ得意げな顔をしながら、腰に手を当てる結花。


 相変わらずの無邪気さを炸裂させる結花に、那由は堪えられなくなったらしく……「あははっ」と声を出して笑った。


 それから、笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら。



「ありがとう、結花ちゃん……マジで嬉しい」


「ちなみにこっちのケーキは、僕が買ってきたよ。那由ちゃん、ショートケーキの方が好きなんでしょ?」


「……兄さん。なんで勇海に、余計なこと教えんの?」


「いいだろ、ケーキの好みくらい……お前こそ、勇海をなんだと思ってんだよ?」



 そんな話をしていたら、ふいにポケットの中でスマホが震えはじめた。


 部屋の中がうるさすぎるので、俺はいったん廊下の方に移動してから、電話に出る。



『メリークリスマス! 愛しのパパだよ』


「いた電なら切るぞ?」


『ノリが悪いなぁ、遊一ゆういちは』



 電話の相手は、俺と結花の結婚を勝手に決めた張本人――俺と那由の親父だった。


 仕事で帰れないって聞いてたけど、いた電する余裕はあんのかよ……ったく。



「で? 本気でなんの用?」


『お前と那由が、元気に過ごしてるか、心配になったんだよ。クリスマスなのに、一緒に過ごせなくて……申し訳ない』


「……そういうところ、ちゃんと気にするよな親父は。大丈夫だよ、俺も那由も……結花たちと一緒に、楽しいクリスマスを過ごしてるから」



 電話口の向こうでホッとしたようにため息を吐くと、親父は言った。



『結花さんに伝えておいてくれ……遊一を幸せにしてくれて、ありがとうって』


「……はい? なんでそんなこと、急に……」


『那由からもらったからな。誕生日会のときの、ビデオメッセージ』



 え……あの馬鹿、録画してないって言ってたくせに、ちゃっかり録ってたのかよ?


 ったく――本当に、何をしでかすか分かんない奴だな。うちの愚妹は。



 そして親父との電話を終えると。

 俺は……込み上げてくる笑いを抑えながら、三人が待つリビングに戻った。



 ――それから俺たちは、四人で和気あいあいとしたクリスマスを過ごした。



 那由と勇海は、なんか口喧嘩するし。

 結花はここぞとばかりに、俺にくっついてくるし。

 調子の戻ってきた那由は、変ないたずらを仕掛けてくるし。



 本当に……普段と変わらない感じの、騒々しいクリスマスになったけど。




 そんないつもどおりこそ――家族団欒なのかもなって、なんとなく思ったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る