第27話 クリスマスに推しと会える幸せについて、語り合おう 1/2

 ――クリスマスイブは、酷い目に遭った。


 帰省してきた那由なゆのスマホを借りて、『アリラジ特番』を観てたのがバレて、結花ゆうかがぷんすかモードになったもんだから。


 罰として、頭撫で撫で一時間し続けるの刑を、食らう羽目となった。



 というわけで頭を撫でまくって、結花のご機嫌を取り戻してから。


 ――こうして、クリスマス当日を迎えたわけだ。



『結花、最後のインストアライブも頑張ってね。あと、クリスマスデートなんて人生初なんだから、ゆうにいさんの言うことをちゃんと聞いてよ。分かった?』


「うっさい! 勇海いさみの過保護ばーか!!」



 スピーカー設定にしてあるスマホに向かって、結花が顔を真っ赤にして叫んだ。

 RINE電話の相手は、勇海。



「じゃあ勇海。こっちに着いたら、家に来てくれ。俺と結花が帰るまで、那由と二人で待っててもらう感じで」


『分かりました、遊にいさん。結花と遊にいさんがデートをして帰ってくるなら、僕も那由ちゃんをエスコートして――二人っきりのパーティーでも、はじめてようかな?』


「……いらね」



 相変わらずな軽口を叩く勇海に向かって、けだるげに吐き捨てると。

 那由は問答無用で電話を切った。


 まったく、今日はクリスマスだってのに――我が家は本当に、いつもどおりだな。



  十四時~  インストアライブin東京 結花が出演、俺が参加

  十七時~  俺と結花で遊園地デート

  十八時前  勇海が我が家に到着 那由と一緒に待つ

  二十時~  俺・結花・那由・勇海でクリスマスパーティー



 結花が考えたクリスマスのスケジュールは、こんな感じだ。


 ライブにデートに家族でのクリスマスパーティーと、やりたいことを全部詰め込んだスケジュールだけど……ライブと修学旅行を両立させた沖縄の予定に比べれば、それほど無茶でもない。



 俺としても、初めて二人で過ごすクリスマスだから、結花に喜んでもらいたいし……那由のために、家族でクリスマスを過ごす時間も欲しかったから。


 色々と予定を練ってくれた結花には、正直感謝してる。



「よーし、それじゃあ出発だね遊くん! 楽しいクリスマスのはじまりだー!! ジングルジングル~♪」


「めちゃくちゃ楽しそうだね、結花……それじゃあ那由。また後でな」


「……ん」



 ――あれ?

 違和感を覚えた俺は、じっと那由の目を見る。



「なんか元気なくない、お前? ボーッとしてるっていうか」


「……え? い、いや、そんなことないし! ……いいから、行ってきなよ二人とも」


「うん、行ってくるね那由ちゃん。あ、冷蔵庫の中にいっぱい料理が入ってるけど……先に食べちゃだめだよ? 夜にみんなで、パーティーするんだからね!」


「食べないし。結花ちゃんがせっかく準備してくれたのに、台無しにするほど馬鹿じゃないっての」



 そして那由は――ニコッと笑った。


 いつもは仏頂面で、つっけんどんな態度ばっかりなくせに……なんだよ、その自然な笑顔は。今日のお前、やっぱり変じゃない?


 なんだか腑に落ちない俺に対して、那由は言った。



「じゃ、待ってるけど。あたしより、デートを優先しなよ兄さん? 誕生日祝ってもらってるし、あたしとのクリスマスは……おまけくらいでいいから。マジで」



          ◆



「おーい! 佐方さかたぁ、こっちだよー!!」


 会場近くの駅で結花と別れて、ストアの入り口に行くと。


 茶色く染めた髪を揺らしながら、ぶんぶん手を振りまくってる、ギャルっぽい雰囲気の女子がいた。


 ブラウスと黄色いロングカーディガンはなんだかおしゃれで。ショートパンツから覗いてる生脚は、白くてすらっと長い。



 見た目はただの陽キャなギャル――二原にはら桃乃ももの


 ただし実はその服装……『花見軍団マンカイジャー』のマンカイヒマワリが、変身前に着てる服なんだよね。胸元のひまわりブローチが、まさにそれ。



 中身は特撮ガチ勢――それもまた、二原桃乃。



「よぉ、遊一ゆういち……いい天気だな。お天道様も、らんむ様たちのステージを祝福してくれてるみたいだぜ……」



 その隣で格好つけたセリフを吐いてるのは、マサこと倉井くらい雅春まさはる


 ツンツンヘアと、黒縁眼鏡がチャームポイント。

 身につけてる紫色のTシャツには、白文字で『アリステ』って書いてある。


 ネット通販で買ったのか、それ。


 もちろん俺も……ピンク地に白文字で『アリステ』って書かれたTシャツ、着てるんだけどね。



「いやぁ、しっかし……二原が『アリステ』のイベントに来るなんて、思いもしなかったな遊一! まさかチケット取るほどに推してるなんて、ビビったぜ」



 マサが二原さんのことを見ながら、しみじみと言った。

 そんなマサにウインクして、二原さんは応える。



「最近かじったばっかの新参者だけどね? 倉井たちみたいなガチ勢には負ける……けど! 和泉いずみゆうなちゃんが可愛いかんさぁぁぁ! もぉぉぉぉ最っ高!! 推せる!」



 目から星を飛ばしながら、和泉ゆうなへの愛を語る二原さん。


 本当に二原さんは、結花が好きだね。普段の結花も、学校結花も、和泉ゆうなも全部。

 チケットも自分で抽選に申し込んで、見事に当てたくらいだし。



「新参とか古参とか、そんなん関係ねぇよ! 『アリステ』を愛する気持ちがあれば、みんな仲間だ!! 俺はらんむ様を、遊一と二原はゆうな姫を――全力で推そうぜ! ゲレンデが溶けるくらいにな!!」


「おっけ! 他人の好きなもんに寛容なとこ、めっちゃいいね倉井!! おっしゃ、今日は盛り上がってくかんね、二人とも!!」



 マサと二原さんが、推しへの愛で熱くなってるのを見て。

 俺の中の『恋する死神』が――疼きだした。



「……よし。それじゃあ行こうか、マサ、二原さん? これからはじまるのは……ただのライブじゃない。クリスマスにふさわしい、聖なる祭典だ! さぁ、喉が張り裂けるくらい――熱くなろうか!!」

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