第26話 【アリラジ特番】『ゆらゆら★革命』、動画でも可愛すぎ問題 2/2

「ってなわけで、はじまりました『アリラジ特番』! 今日は『ゆらゆら★革命』の二人を丸裸に……ねぇ、なんで毎回わたしにオファーするのかなぁ!?」



 開幕からキレ芸全開なのは、和泉いずみゆうなと同じ『60Pプロダクション』所属の先輩声優――掘田ほったでる。


 本当にいつも、この危険なコンビの緩衝材として駆り出されてるよな。


 動画に流れてくるコメントも、『掘田でる遣いが荒い』『スタッフ鬼畜すぎて草』『石油のような安心感』なんて、掘田でる弄りがはじまってるし。



「はいはい。やりますよ、やってやりますよ……ってなわけで。今回もアクが強すぎる二人を、やさぐれながら見守ります。でる役の『掘田でる』でーす」


「アクが強い……あまり自覚はないですね。私はただ、アリスアイドルとして高みにのぼるため、すべてを賭してファンの前に立つだけなので――らんむ役『紫ノ宮しのみやらんむ』よ。私を応援するのであれば、ついてきなさい。全力でね」



 挨拶から、もうアクが強すぎる。


 同じく『60Pプロダクション』所属の声優、紫ノ宮らんむ。


『六番目のアリス』こと、人気投票六位のクールビューティ・らんむちゃんを演じる……ストイックでオーラが半端ない、『ゆらゆら★革命』の一人だ。



 そして、最後の一人は――。



「わーい、みなさーん! 動画ですよー、めっちゃ動きますよー!! 今日もいっぱい、楽しんで帰ってくださいっ! ゆうな役の『和泉いずみゆうな』です、よろしくお願いします!!」



 手を振ったり、ひょこひょこ左右に揺れたりと、最初っから元気いっぱい。


『60Pプロダクション』所属。天然でドジっ子で、いつだってファンに笑顔の花を咲かせて回ってる、若手声優。


 和泉ゆうな――俺の愛する宇宙で一位のアリスアイドル、ゆうなちゃんの声優だ。




「茶髪のツインテも似合うよね、結花ゆうかちゃん。マジ可愛い」


「これはゆうなちゃんの格好に合わせてるんだよ。ゆうなちゃんはガーリッシュな格好を好むから、こういうピンクを基調とした衣装はキャラに合っていて、スカート丈も――」


「うるさ……聞こえないんだけど? 黙って?」



 驚くほど冷えきった声で那由なゆが言った。


 なるほど。そんなに集中して『アリラジ』の世界を堪能しようとしてんのか。いい心掛けじゃん、那由。




「じゃあ今回は、この箱からお題を引いて、二人に喋ってもらいまーす。じゃあ引くよ……じゃんっ! 『二人の大切なものって?』でーす」


「『弟』ですっ!」

「当然『アイドル』ですね」


「はーい、じゃあ次いきまーす」



 笑顔のまま、普通に流した。


 どうしよう……掘田でるが、どんどん二人を捌くのがうまくなってる……。



「『一番印象に残ってるインストアライブは?』……なるほどねぇ。んじゃ、ゆうなちゃんから。思いっきり語っちゃって!」


「は、はいっ! えっと……どの公演もすっごく楽しかったんですけど。一番って言われると、沖縄公演ですね」



 そう言ってから、和泉ゆうなはニコーッと、満面の笑みを浮かべた。



「自分がメインでライブするなんて、初めての経験なので……初回の大阪公演は、とにかくがむしゃらでした。それで、二回目の公演ってなったとき、大阪公演以上のものを見せなきゃ! って……プレッシャーを感じちゃって」


「あー、分かる分かる。前の自分を超えなきゃ、的なプレッシャーね」


「そうなんです! だから、前日はもうガッチガチで……石になっちゃったみたいでした。それで、いっぱい自主練して、いっぱい色々考えて――そうしたら、ふっと気付いたんです。私がどうして、こんなに声優として頑張ろうとしてるのか」



 和泉ゆうなは、ちらっと紫ノ宮らんむのことを見て。

 それから、満開の笑顔で……言った。



「私はファンの人も、身近な大切な人も、みんなに笑っててほしい。私の声や歌が、少しでもみんなの心に届いて――笑顔で毎日を過ごしてほしい。そう思ったら……なんだかライブのときも、楽しく歌えたんです。名古屋や北海道も、そんな気持ちで頑張れたんで……沖縄公演は私にとって、ひとつ階段をのぼれたなって感じでした!」


「……ゆうなちゃんが、真面目に話を……オイルショックならぬ、ゆうなショック……」


「え、なんでそんな反応なんですか掘田さん!? 普通にいい話をしたのにぃ!!」



 普段が普段だからね。掘田でるの反応も、分からんでもない。



 だけど、同時に――俺は目頭が熱くなるのを感じた。


 ハプニングもたくさんあったけど。


 プレッシャーを感じながらも一生懸命頑張って、結花が沖縄公演を成功に導いた姿を……間近で見ていたから。



「じゃあ、次はらんむね。『一番印象に残ってるインストアライブは?』」



 無表情のまま、紫ノ宮らんむは口元に手を当てると、じっと思案する。


 そして――ふっと微笑んで。



「そうですね……私も、沖縄公演です」


「へぇ。らんむはどうして、沖縄が一番印象に残ってるの? ゆうなちゃんの成長を感じたからとか?」


「もちろん、それもあります。ただ、私的な感情で恐縮ですが……懐かしかったもので」


「懐かしかった?」



 掘田でるのツッコミと同時に、俺も心の中で同じセリフを吐いた。



 紫ノ宮らんむは、あまり個人情報を開示していない声優だ。出身地も、趣味も、どうして声優を目指したのかも――どこにも情報がない。


 だから「懐かしい」ってことは……ひょっとして沖縄出身だったりとか?



「え、らんむって沖縄生まれなの? 全然なまりとかないけど」


「いえ。沖縄にゆかりはありません。ただ……懐かしくなるような、そんな情景を見たもので。そのおかげで――さらにアイドルとして頑張ろうと、思えました」


「……へぇ。らんむがそんな風に、自分の感情を喋るのって、珍しくない?」


「ですねっ! らんむ先輩、沖縄で何があったんですか!?」


「――ご想像にお任せするわ。少し謎があるくらいで、アイドルはちょうどいいから」




「……可愛さなら、結花ちゃんのが上だけど。なんかこの人、オーラ半端なくね?」


 すっかり『アリラジ特番』に見入っていた俺の隣で、那由がぽそっと呟いた。

 さすが紫ノ宮らんむ。声優に疎い那由にも伝わるくらいのオーラなんだな。



「ってかさ。なんでみんな、ロングヘアなの? なんなの、オタクは髪が短い女子は眼中にないわけ?」


「何その偏見……『アリステ』にもショートヘアキャラは何人もいるし、声優にもいるっての。たまたま今日の三人が、ロングヘアなだけだろ」


「じゃあ兄さんは、長いのと短いの、どっちが好きなの?」



 急になんだよ。睨みながらそんなこと聞いてきて。



「お前、それは愚問だろ……俺は『恋する死神』。ゆうなちゃんのためなら、心臓を捧げられるくらいなんだぜ? ゆうなちゃんの髪型が、一番好きに決まってんだろ」


「普段の結花ちゃんも長いですもんね、けっ!」



 え、なんでキレたの? 意味不明すぎない?



 ――――コンコンッ!



 そのときだった。

 那由の部屋を、誰かが外からノックしたのは。



「那由ちゃーん、帰ってきてるのー? そっちにゆうくんもいるー?」

「……めっちゃいるし」



 俺は慌てて、ドアを開けられないように反対側から押さえた。

 そして、しどろもどろになりながら、結花に向かって声を上げる。


「ゆ、結花! ちょっと、兄妹で大事な話をしてるから!! 二、三分で終わるから!」



「それじゃあ、そろそろお別れの時間になりました! ってなわけで最後に、二人から東京公演に向けた意気込みを、どーぞ!」


「はいっ! クリスマスなんてロマンチックな日に、みんなの前で歌えるのが、すっごく嬉しいですっ!! みんなにとっても、自分にとっても、素敵な想い出の一日になるよう――全力で頑張ります!」


「最後だろうと、最初だろうと、私のやることは変わらないわ……最高のパフォーマンスを、貴方たちに届ける。クリスマスなんて忘れるくらい……燃え上がる舞台にしてみせるから。覚悟しておきなさい」



「あ、結花ちゃん。そろそろ終わるよ、番組」


「ばっ……那由! お前、それは言わない約束だろ!?」


「うっさい。ショートヘアは眼中にないんでしょ? じゃあ、あたしのことなんて見えないはずだし……どうも。透明人間の那由が、勝手に喋ってます」


「お前が勝手に言い出しただけだろ、それは!!」


「番組? ばんぐ……ま、まさか! 遊くん……『アリラジ特番』観てんの!? 約束と違うじゃんよ! 開けてよ、もぉぉぉ! 絶対に、許さないんだからぁぁぁぁ!!」



 結花がドンドンとドアを叩きながら、絶叫する。

 そんな結花に向かって、俺は全力で弁解を試みる。



「結花! 落ち着いて考えて? 結花に『アリラジ』を禁止されたのは覚えてるよ? だけどこれは、動いて喋る――そう、ラジオじゃないんだよ!! だからセーフ! 圧倒的セーフ!!」


「でもこれ、『アリラジ特番』っつってんじゃん。馬鹿なの、兄さん?」


「馬鹿はお前だ! なんで鎮火しようとしてるところを邪魔すんだよ!?」


「ばかなのは遊くんでしょ、もぉぉぉぉぉぉ! ばーかばーか! ばかばかばか、ばーかばーか!!」



―――――――――――――――――――――――――――――――



『転生したら、テンプレ展開しかない世界に来たんだけど?』のCMですよ? お気軽に『転テン』とお呼びください。


 大好評放送中の『転テン』のブルーレイが、わたしの財力を駆使して、ついに発売決定しました! ねぇ、欲しくなりました? 欲しくなりました?


 初回封入特典は、わたしのブロマイド!

 これを見て好きな妄想をしてくださいね。そう、同人誌みたいに!!



 ふっふふー。ご購入いただけるのを……楽しみにお待ちしてますよ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る