第28話 クリスマスに推しと会える幸せについて、語り合おう 2/2

 そして列に並んで入店した、俺とマサと二原にはらさんは。


 オールスタンディングの観客席で、それぞれ持参したサイリウムを取り出した。



 ――沖縄公演のときは飛び入り参加だったから、サイリウムもオリジナルTシャツも準備できなかった俺だけど。


 今回はフルカスタムで、『ゆらゆら★革命』を推せる……感無量だ。



「おおお、すっごー! めっちゃ人、いっぱいじゃーん!! 『ゆら革』やばくね!?」


「らんむ様とゆうな姫っていう、凸凹なはずなのに奇跡的に溶けあってる、神ユニットだからな……当然の結果だろ」


「実際、今日のチケットって、結構な倍率だったらしいしな。ゆうなちゃん、思えば遠くに来たもんだ……」



 思い思いの感想を口にする俺たち。

 開演までは――あと十五分くらいか。



「ちょっと、トイレ行ってくるわ。本番に集中したいから」


「おお、行ってこい遊一ゆういち! 開演に遅れんじゃねぇぞ?」


「いってらー」



 マサの言うとおり、開演に遅れたら洒落になんないからな。

 俺は急いでトイレに行って用を足すと、マサたちのところへ引き返す。



「あ。遊一くんじゃない」



 すると、聞き覚えのある声で、誰かが俺の名前を呼んだ。

 振り返るとそこには、白いシャツにタイトスカートという、できるOLな見た目の鉢川はちかわさんがいた。



「そっか。東京公演はチケット取れたって、言ってたものね」


「はい。あと俺の友達と、二原にはらさんも来てますよ」


「へぇ、桃乃もものちゃんも? そうなんだ……ゆうなのこと、本当に応援してくれてるんだ。良い友達を持ってるのね、ゆうなは」



 そう呟いた鉢川さんは、なんだか嬉しそうに笑ってる。


 自分の担当声優の幸せを、まるで自分のことみたいに喜んでくれるマネージャーさん。


 そんな良い人がマネージャーをしてくれてるから、結花ゆうかも頑張れるんだと思いますよ……ありがとうございます、鉢川さん。



「それじゃあ、わたしもそろそろ戻らなくっちゃ。遊一くん、ゆうなとらんむのステージ……楽しんでいってね」

「はい。我が命を賭けて」



 そして鉢川さんと別れると、俺はマサたちのところに戻った。



「お、佐方さかた。間に合ったー」

「よし、遊一……気持ち切り替えろ。そろそろ開演だからな」



 二人と軽く言葉を交わしていたら――ふっと照明が暗くなった。


 俺たちはサイリウムを振りながら、声援を送る。

 会場の同志たちも、熱気とともにステージに向かって声を上げてる。


 そして――――。




「『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』――『アリステ』。そのステージを愛する人たちが、こんなに集まってくれたのね」


「すっごいですね、らんむ先輩! 愛がいっぱいすぎて、もう押し潰されちゃいそうなくらいですよ!!」


「この程度で押し潰されてどうするの、ゆうな? 私たちはもっと高みに行くのよ。たとえ今日のライブが終わったとしても――私たちの夢は、終わらないのだから」


「らんむ先輩!? いつもいつも、ハードルを上げすぎなんですってばぁ!!」



 会場が笑いの渦に包まれる。


「らんむ様かっこいいい!」「ゆうなちゃんかわいいい!!」なんて声が聞こえてくる。

 もちろん俺たちも、声を上げてるけどね。



「それじゃあ、行きましょう。最後まで全力で……最高のステージにしてみせるわ」

「よーっし! らんむ先輩、一緒に頑張りましょう!! みんながいーっぱいの、笑顔になりますようにっ!」


「「『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』――新ユニット『ゆらゆら★革命』、インストアライブ! in東京!!」」



 二人の声がハモったかと思うと、この世の奇跡がステージに降り立った。



「皆さん、こんにちアリス。らんむ役の、紫ノ宮しのみやらんむです。こんなに集まってくれて、感謝しているわ」



 紫色のロングヘアをなびかせて、紫を基調とした大胆で妖艶な衣装を翻し――紫ノ宮らんむが微笑む。



「こんにちアリスー!! すっごーい、いっぱい来てくれてるー! 皆さん、集まってくれてありがとうですっ! ゆうな役の、和泉いずみゆうなです。よろしくお願いしまーす!!」



 ツインテールに結った茶髪を揺らしながら、ぴょんぴょん跳ねてる和泉ゆうな。

 ピンク色の愛くるしい衣装で、今日も元気いっぱいに笑っている。



「「そして、私たちは――『ゆらゆら★革命』です」」



 再び二人が声を合わせて、その最高のユニット名を口にした。

 観客一同から、歓声が沸き上がる。



「ついに今日のインストアライブで、最終公演なのだけど……ゆうな、『ゆらゆら★革命』としてライブをしてみて、どうだったかしら?」


「そりゃあもう、緊張しましたよぉ! だって、らんむ先輩とのユニットなんですもん」


「……それは私に対して、緊張するという解釈でいいのかしら?」


「そうですよー。仕事にストイックならんむ先輩だから、自分も頑張んなきゃって――いい意味で緊張感がありました!! おかげで、自分でも成長できたなぁって思います!」


「貴方、意外とズバズバ言うわね……これでも最近、周りから怖く見られないよう、気を付けているのよ?」



 具体的にどこを気を付けてるんだか、気になる。



「あ、そうだ。らんむ先輩、今日はクリスマスですよっ! ライブはもちろん楽しみですけど、クリスマスだってもう……もう!! 雪が降るといいなぁ、ホワイトクリスマス!」


「天気予報だと、今日は快晴だそうよ」


「……ぶー。降らせましょうよ、雪」


「降らせたいのなら、努力をしなさい。降雪機を作るなり、魔術的なもので雪を呼び寄せるなり――様々な手段があるでしょう?」


「……でも、そんなの今日中にマスターできないですもん。あぅ、早く準備しとけばよかったなぁ……」



 ツッコミが不在すぎて、話がわけ分かんない方に向かってる。

『アリラジ』スタッフが掘田ほったでるを重宝する理由が、よく分かるなぁ。



「私は……アリスアイドルの頂点を目指すと誓った日から、クリスマスは決して祝わないと決めているの」



 驚くほどまっすぐな声で――紫ノ宮らんむが告げた。

 それに対して、和泉ゆうなが「えー!?」と声を上げる。



「クリスマスくらい楽しんだって、罰は当たらないと思いますよ? らんむ先輩が上を目指して、いつだって全力で頑張ってることは――神様もサンタさんも、知ってると思いますし!」


「ありがとう、ゆうな……けれど。たとえ神様がどう思ったとしても、私はクリスマスを祝わない。それが、この道を選んだ私自身への、けじめだから。そして、私がこの道を選んだことで――傷つけてしまった、すべての人たちのためにもね」



 普段どおり、クールな表情を崩さない紫ノ宮らんむだけど。

 なんだか一瞬……悲しそうな目をしたように見えたのは、気のせいだろうか?



「……まぁ。私はともかく、ゆうなも会場のみんなも――ライブとクリスマス、まとめて楽しむといいわ。永遠に忘れられないクリスマスにするけれど……覚悟はいいかしら?」


「私たちが、最高のクリスマスプレゼントを、みんなに届けちゃうよ! だーかーら……一緒に笑お?」



「「それでは聴いてください――『ドリーミング・リボン』」」



          ◆



「みんな! 今日は来てくれて、どうもありがとうでしたっ!!」

「また会える日を楽しみにしているわ……ありがとうございました」



 和泉ゆうなと紫ノ宮らんむが、汗を流しながら深々とおじぎをすると。

 会場中から一斉に、拍手が沸き起こった。



「すげぇ……すげぇよらんむ様ぁぁぁぁ!!」


 ハイになって、絶叫してるマサ。



ゆうちゃん……めっちゃ良かった。本当に……凄すぎだって……」


 俯いて、感動のあまりぼろぼろと泣き崩れてる二原さん。



 ――――そんな二人のそばで、俺も涙腺が緩んでいく。


 それくらい胸を揺さぶる、まさにインストアライブの集大成にふさわしい……素晴らしいパフォーマンスだったと思う。



「みんなのクリスマスが……いっぱい、素敵なものになりますようにっ!!」



 ステージの上で大きく手を広げて、とびっきりの笑顔でもって、和泉ゆうなが言った。



 その無邪気で純粋な姿が……普段の結花と重なって。


 俺はなんだか、胸が温かくなるのを感じたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る