第12話 【悲報】入浴中に許嫁と通話してたら、大変なことになった 2/2

 ふへふへ言ってて話にならない結花ゆうかは置いといて、俺はひとまず勇海いさみから状況を聞くことにした。


『まずですね。僕が久留実くるみさんにホテルの場所を教えてもらって、結花のところに来たわけです。アポなしで』


「姉妹じゃなかったら、ギリアウトのやり口だぞ、それ……」


『結花は寂しがり屋の子猫ちゃんですからね。きっと一人じゃ寝られないだろうから、僕が添い寝をしてあげようと思いまして』


『寝られるよ! ゆうくんと同棲するまで、私が一人暮らししてたの忘れてるでしょ!!』



 勇海に向かって、ご立腹な声を上げる結花。


 でも、ごめん。俺もちょっと、結花が一人暮らししてたってこと忘れてた。



『そしたら、結花……スマホを家に忘れてきたって言うんですよ。まったくドジなんだから、結花は……やっぱり放っておけない、子猫ちゃんだね?』


『ばーか!』


「それで、勇海のスマホを借りて連絡してきたってわけか……」



 冷静を装ってみたけど、本当は心の底からホッとしている俺がいた。

 出掛けてから一度も連絡がなかったのは、スマホを忘れてたからだったのか。


 よかった……結花の身に何もなくて。色んな意味で。



『でも、さっきの嬉しかったなぁ……遊くんも、私がいなくて寂しいって、思ってくれてたんだなぁって! えへへっ♪』


「か……からかうんなら切るよ?」


『はーい、ごめんなさーい、えへー♪』



 どっかに飛んでっちゃいそうなくらい、浮かれてる結花。


 失敗した……勇海だと思って、めちゃくちゃ恥ずかしいことを言ってしまった……。



『私も、遊くんと会えなくて寂しいなって、落ち込んでたけど……遊くんの声を聞いたら元気出てきた! あと……こうして電話してると、遠距離恋愛のカップルみたいでドキドキするね?』


 電話の向こうから、いつもどおり無邪気すぎる発言をしてくる結花。


 そんな風に言われると、こっちまでなんかそわそわしてくるんだってば……相変わらず無自覚な小悪魔なんだから。



『遊くん、倉井くらいくんと遊んでくるって言ってたけど、もうおうちに帰ってる?』


「いや……今日は久しぶりに、マサんちに泊まらせてもらってる。徹夜で『アリステ』やったりアニメ観たりする予定」


『わぁ、楽しそうっ! いいなー。私もももちゃんちで、パジャマパーティーしたいなー』



 ごめん。俺とマサのは、パジャマパーティーなんて綺麗なもんじゃないからね?

 ただひたすら、男同士で萌え語りしてるだけだからね?



「おーい、遊一ー? 大丈夫かー?」



 ――なんて、噂をしてたからか。


 マサがガラッと洗面所の扉を開けて、磨りガラスの向こうから話し掛けてきた。


 慌てすぎてスマホを落としそうになったもんだから、俺は両手でがっちりとキャッチ。

 危ねぇ……『アリステ』のデータが死ぬところだった。



「長風呂すぎねーか、遊一ゆういち? さっきビビるくらい元気なかったからよ、死んでんじゃねーかって」


「い、生きてるから! もうすぐ出るから、覗くなよ絶対!!」


「覗かねぇよ!? BLは守備範囲じゃねぇって言ってんだろ!?」


「と、とにかく向こう行ってろって! 十分以内に出るから!!」


「んだよ、ったく……」



 そんな捨てゼリフを残して、マサは洗面所の扉を閉めて出ていった。

 ふぅ……焦ったわ、マジで。



「――ごめん、結花。なんかバタバタしちゃって……」

『ゆ、遊くん……せくしー……』

「はい?」



 湯船に座り直して、俺はスマホを顔の前に持ってくる。


 そこには両手で顔を隠しつつ、指の隙間からちらちら見てくる結花の姿が。


 ――――ん? 結花の姿が?



「……って!? なんでビデオ通話になってんの!? 結花、これは立派な覗きだよ!?」


『ち、違うもん! 濡れ衣だってば!! 遊くんがスマホを落としそうになって、気が付いたら……ビデオ通話に切り替わってたんだよ!』


『あははっ! きっと遊にいさんが、ビデオ通話ボタンを押しちゃったんですね』



 画面に映ってないけど、勇海がなんか楽しそうに笑ってやがる。


 笑い事じゃないって。今は湯船に入ってるけど、さっきバタバタしてたから……。



「ゆ、結花……見て、ないよね?」


『な、なんのコトでしょー? わたしはー、かもめー。なーんにも、分かんないー』


「その反応、絶対に見たよね!? 上半身だけを見た反応じゃないでしょ、それ!?」


『…………にゃっ♪』



 猫語で誤魔化してきた……。


 っていうか、なんで結花が照れた感じで、もぞもぞしてんの?

 恥ずかしいどころか、死にたいのはこっちの方なんだけど?


 そんなどうしようもない状況下で、画面外から――勇海が笑い交じりに言った。



『じゃあ今度は、結花の番だね? 夫婦になるんだから……お互いのすべてをさらけ出して、愛を確かめ合うといいんじゃないかな?』




 そのあと勇海は。


 俺と結花で、しっちゃかめっちゃかに怒っておいた。

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