第11話 【悲報】入浴中に許嫁と通話してたら、大変なことになった 1/2
「
「……おう……分かった……」
「んだよ、お前!? 俺が風呂に入ってる間に、なんでそんな消耗してんだ!?」
大きな声を出すマサの方に、ちらっと顔を向ける。
まだ濡れてるせいで、いつものツンツンヘアがへにょってなってやがる。
ははは――笑う気にもなれねぇわ。
「……風呂、行ってくる」
強く握り締めてたスマホをポケットに仕舞うと、俺はゆっくりと立ち上がった。
きっと今の俺、瀕死の顔してんだろうな。
「どういうテンションだよ? 久しぶりに人んちに泊まったかと思えば……ゆうな姫にフラれたとか、それくらいやべぇ顔色してんぞ、遊一?」
――ゆうなちゃんにフラれた。
鈍器でぶん殴られたときくらいの衝撃が、脳に走る。
目の前が真っ暗になる。
おお、遊一よ。死んでしまうとは情けない。
――
そんな中、初めて結花のいない夜を迎えた俺は……なんか堪えられなくって、久々にマサの家に泊めてもらうことにした。
一人暮らしをしてた高一の頃は、一人の夜なんて慣れっこだったのにな。
まぁ、とはいえ……かまってちゃんで甘えっ子な、あの結花のことだ。
ライブが終わったらRINEなり電話なりしてくるだろうって、そう思っていた。
マサに見られるのは恥ずかしいから、タイミング図るのが難しいなー。いやー、どうしよっかなー。
…………なんて調子に乗っていたのが、一時間くらい前まで。
もう二十二時を回ったってのに――結花からは一向に、連絡のくる気配がない。
「……おかしいな。スマホの調子が悪いのか?」
マサの家の湯船に浸かったまま、俺はジップロックに入れたスマホを操作する。
あまりに連絡がないから、こっちから何回かRINEは送った。
だけど、返信がないどころか――既読すら付かない。
「普段の結花なら、行きの新幹線の時点で、RINEしてくるはずなんだよな……百歩譲って、そこは
気持ちが落ち着かなすぎて、ひたすら独り言を呟きまくる俺。
そんなことしたって、RINEが返ってくるわけないんだけど。
「まさか、大阪公演のときみたいにダウンしてないよな……?」
いや……それはないか。
そうならないために、泊まり掛けでスケジュールを組んだわけだし。
万が一そんな事態になってたとしたら、さすがに
じゃあ、他に考えられる理由って……なんだ?
気を紛らわせるためにスマホで適当なサイトを見ながら、俺はぐるぐると脳細胞をフル回転させる。
【画像あり】あの有名声優同士の熱愛デート、まさかの流出!?
「ぎゃああああああああ!?」
画面に表示された恐怖のゴシップ記事に、俺は思わず絶叫した。
くそっ! 人の恋愛を勝手にスクープして、はやし立てんなよ!! いいだろうが、声優だって人間なんだから、誰とデートしたって!!
…………ああ、もう。
なんかめちゃくちゃ、嫌なこと考えちゃったじゃないか。
結花はいつだって無邪気で、天然で、一途で。
そんなこと、あるわけないって分かってるんだけど。
分かってても……連絡がないと、つい不安になってしまう。
「結花……もう強がんないからさ。俺も結花がいないと寂しいって、今度からちゃんと言うから。だから……連絡くれよ」
そんなことを独り言ちながら、俺は縋るように、RINEのトーク画面をひたすらスクロールさせる。
――――ブルッ♪
「ん!?」
『わっ!? ……出るの早いですね、
取り憑かれたようにスマホを操作してたもんだから、突然かかってきたRINE電話を、俺は意図せず取ってしまった。
相手は、結花……じゃなくって、
ため息を吐きそうになるのを堪えて、俺はスピーカー設定にして、勇海に話し掛ける。
「もしもし? どうかしたのか、勇海?」
『…………』
「ん? おーい、勇海? 何をごそごそやって――」
『……ゆーくーん』
――――!?
び、びっくりした……心臓が飛び出るかと思ったわ。
だって、今の勇海の声――驚くほど結花に似てたんだもの。
結花を渇望してる今の俺には、ちょっと刺激が強すぎる。
「あのな、勇海。どういう趣旨の悪ふざけか知らないけど、いきなり結花の声真似は勘弁してくれよ。姉妹だからマジで似てて……ドキッとするから」
『ド、ドキッとした……んですか!? ゆーにーさん!』
だから、結花の声を真似すんのやめろってば。
俺は深くため息を吐いて、応える。
「あのな、勇海……正直に言うけど。俺は今、結花から連絡がなくてやきもきしてるの。ライブで忙しいのかもしれないけど、RINEも電話もなくって……だからちょっと、今はそういうネタで笑える気分じゃ――」
『や、やきもき!? ひょ、ひょっとして遊く……ゆーにーさんは、寂しいのかにゃ?』
「にゃ!? いつものイケメンキャラはどうしたんだよ!? っていうか、マジでなんの用なんだよ勇海!?」
『い、いいから、質問に答えろし!』
「なんで今度は
義妹とはいえ、さすがに悪ふざけがすぎる。
だから俺は、ちょっと語気を強めて――ぶっきらぼうに言った。
「……はいはい、寂しいよ。結花がそばにいるのが当たり前になってたから、ガチでテンションが低いの。だから、用事がないんなら切りたいんだけど?」
『……ふへっ。ふへへへへへへっ♪ ふへー、ふへー♪』
スマホがぶっ壊れたんじゃないかって思うくらい、ふへふへ音がスピーカーから聞こえてきた。
何これ? いくら実の妹とはいえ、ここまで結花を完全再現できるもんなの?
…………いや。まさかとは思うけど。
嫌な予感がした俺は、声を潜めて――尋ねた。
「えっと……ひょっとして勇海じゃなくて、結花?」
『ふへー♪』
『結花、それじゃあ何も伝わらないって……あ。遊にいさん、どうもお久しぶりです。僕もここにいますけど、さっきまで遊にいさんが話してたのは――紛れもなく、本物の結花ですよ?』
……OK。分かった。
取りあえず風呂に潜って、死ぬことにしよう。
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