第5章
第1話 【応援】学校の地味な結花が、友達を作るって張りきった結果…… 1/2
修学旅行の代休が明けて、今日からまた普通の学校生活がはじまる。
……と思うと、ついため息が漏れてしまう。
休み明けの学校って、なんか気が重いんだよなぁ。
できることなら、『アリステ』をやったりアニメを観たりしながら、家の中で一生を過ごしたい。
「
なんて、玄関先で駄目人間まっしぐらなことを考えていたら――登校準備を終えた
眼鏡を掛けてるから、つり目っぽく見える目元。
ポニーテールに結った黒髪。
そんな学校モードな格好の結花は、制服のスカートを翻し、朗らかに笑った。
「えへへ……遊くんと登校ー♪ 普通に登校するの、久しぶりだから……なんだかドキドキするね?」
「分かる分かる。学校が面倒すぎて、動悸がするよね」
「違うよ!? 遊くんと一緒に登校するから、嬉しくてドキドキするって言ってんの!」
結花は強く主張すると、わざとらしく唇を尖らせた。
「もー。分かってないなぁ、遊くんは。家でまったり過ごしてる遊くんと、制服をビシッと着た遊くんだと、違う良さがあるでしょ? しかも、そんな遊くんのギャップを知ってる背徳感もあるから……えへへっ、ドキドキの二乗だー♪」
いや、ギャップて。
俺のそんな些細な違いをギャップって呼ぶなら、結花の変化はもはや別次元の人になるでしょ。マルチバース結花。
学校ではあまり目立たない、地味でお堅い
だけど家では、天然&無邪気で、甘えるのが大好きな結花。
……うん。背徳感もやっぱり、圧倒的に俺の方が凄いと思う。
「よーし、それじゃあ久々の学校に……しゅっぱーつ!」
そして結花に手を引かれるまま、家を出たわけだけど。
やっぱり休み明けの登校は、気乗りしないんだよなぁ。
沖縄が暖かかった分、冬の寒さが刺さるように痛いし。
「ねぇ、遊くん。私ね、今日から……頑張ってみようって、思うんだ」
ネガティブなことばっかり考えてる俺に向かって。
結花がふっと、独り言ちるように言った。
「私ってコミュニケーション下手だから……失敗しないようにって、学校であんまり話さないようにしてたでしょ? だけどね――変わりたいなって、そう思ったんだ。もっとクラスの人とお話しして、仲良くなりたいなって」
「……どうして?」
確かに結花は、コミュニケーションが苦手だから、あまり喋らずに学校生活を過ごしてるのは知ってるけども。
結花には中学校時代に――友達関係で負った、トラウマだってあるから。
だから……結花が変わりたいって思う気持ちは分かったけど。
みんなと仲良くなるために頑張りたい気持ちは、理解できたけど。
……もしもまた、結花が傷つくことになったら……なんて考えると。
俺は素直に、「分かった」とは言えなかった。
だけど結花は、そんな俺を見て――穏やかに微笑んだ。
「――修学旅行でね。ちょっとだけど、同じ部屋の子とお話ししたんだ。あとは、ご飯のときに近くの女子とも、ちょびっとお喋りしたし」
呟くように、歌うように、結花は続ける。
「最後なのは、修学旅行だけじゃないじゃん? 制服を着て、毎日同じメンバーで教室に集まって、一緒に授業を受ける――そういうのって、高校生が最後でしょ?」
「まぁ確かに大学とかは、違うイメージだけど……」
「そんな高校生活も、あと一年とちょっと。そう思ったらね……修学旅行でお喋りしたときみたいに、遊くんや
眉尻を下げて、ちょっと恥ずかしそうに笑いながら。
こちらを見つめたまま……結花は小さく舌を出した。
「――なーんてね? 偉そうに言っても、コミュニケーションがへたっぴな自覚はあるから……うまくできるか、分かんないけどね」
「……できるよ」
「ふぇ?」
考えるよりも先に、俺は反射的に答えていた。
そして、きょとんとしてる結花に向かって、思ったままの気持ちを伝える。
「結花ならできるよ。修学旅行とインストアライブ、両方を全力でやりきったときみたいに。ちょっと無茶な願いだって、結花ならきっと――叶えられるって。俺は信じてるし、いつだって……応援してるから」
「遊くん……」
小声で「ありがとう」と呟くと。
結花はギュッと、俺の手を強く握ってきた。
大通りに出るまで、もう僅かな時間しかないけど。
俺もそんな結花の手を――ギュッと、強く握り返したんだ。
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