第2話 【応援】学校の地味な結花が、友達を作るって張りきった結果…… 2/2
「え……
二時間目の後の休憩時間。
茶色いロングヘアを揺らしながら、大きすぎる胸の前で手を合わせて、二原さんは涙ぐんでる。
「過去を乗り越えて、勇気を手に入れた結ちゃんは、新たなフォームへとチェンジ! ……え、これ中間フォームっしょ? まだ最終フォームの盛り上がり残してるとか、胸熱すぎじゃね?」
「ごめん、ちょっとなに言ってるか分かんない」
きっと特撮たとえ話なんだろうけど、マジで日本語として認識できなかった。
どんなテンションで話してんだ、この特撮ガチ勢は。
すると二原さんはアゴに手を当てて、真面目に解説をはじめる。
「んーと、つまりさ。学校の結ちゃんを、『ツンツンフォーム』とするっしょ? んで、家の結ちゃんは『甘々フォーム』、声優の結ちゃんは『わいわいフォーム』……初期フォームが三つあるわけね?」
「大前提から、もう意味が分かんないんだけど?」
「そこに、新たな力を手に入れて――結ちゃんは三つの上位互換に当たる、中間フォームにパワーアップ! 学校でツンツンしてない、新しい結ちゃんの誕生だよ! ハッピーバースデー!!」
「……なぁ
トイレから帰ってきたマサが、二原さんのことを怪訝な顔で見ながら、俺に話し掛けてくる。
まぁ、そうも言いたくなるよな。
残念ながら、俺にもよく分かんないよ。
「ってか、遊一。今日の
「え?」
「お!?」
マサの何気ないその一言に、俺と二原さんが同時に反応した。
想定以上の食いつきだったのか、マサが戸惑いがちに続ける。
「いや……廊下で女子グループが盛り上がってたらさ。いきなり綿苗さんが、そこに突っ込んでいったんだよ……普段の綿苗さんなら、あんまそういうことしねぇだろ?」
「おっしゃ、
「え? ちょっ、ちょっと待って二原さ――」
そんな俺の言葉は、完全スルーして。
二原さんは俺の首根っこを掴むと……そのまま俺を引き連れて、廊下に飛び出した。
するとそこには、確かにマサの言ったとおり――女子グループの輪の中に入っている、結花の姿が。
「あ。えっと、綿苗さん……どうかした?」
「何か私たち、気を悪くさせたかな?」
女子三人はおそるおそるといった感じで、結花に話し掛けてる。
そんな三人に対して、いつもどおりの無表情を向けたまま。
結花はくいっと眼鏡を整え――淡々と告げた。
「私は、綿苗結花。眼鏡です」
「…………はい?」
女子三人が、変な声をハモらせた。
うん。まぁ、そうなるよね。
俺も心の中で、おんなじ声を出してた。
「え、えーっと……綿苗結花さんなのは知ってるよ? 同じクラスだし」
「あ……ご、ご存じくださり、恐悦至極。誠に僥倖」
「突然の武士!?」
「え!? ぶ、武士じゃないです……私は綿苗結花、女子高生。どこにでもいる、普通の女の子」
「今度は少女マンガ!? 綿苗さん、どうしちゃったの!?」
女子グループは、完全に混乱の極み。
結花が大暴走してるから、無理もない反応だとは思うけど。
――遊くんや桃ちゃん以外の人とも、もっと仲良くなりたくなったんだー。
――それで最後はね……笑顔で、卒業式を迎えられたらいいなって。
今朝の言葉どおり――結花は今、フルスロットルで頑張ってるんだと思う。
びっくりするほど、空回ってはいるけども。
結花なりに変わろうって……一生懸命なんだろうな。
「ちょいちょい、佐方。ボーッとしてないで、一緒に結ちゃんをアシストしに行こ?」
「いや……二原さん、もうしばらく、結花を見守ってあげてくれないかな」
――なんでも手を貸すだけが、『夫婦』じゃないだろ?
文化祭で結花がピンチになったとき、慌てて助けに入ろうとした
今もまさに……そのときと同じような気持ちだ。
文化祭も、修学旅行も、インストアライブも。
結花はいつだって、全力で頑張ってきた。
だから俺は、そんな結花を全力で支える。
代わりになるんじゃなくって、最後まで隣で一緒に走る。
そういうのが『夫婦』なんじゃないかって――最近はそんな風に思うから。
「……なんか佐方、いい顔になってきたよねぇ」
二原さんはからかうように笑いながら、軽く肩をぶつけてきた。
「うちはさ。中学の頃の佐方を知ってっから……昔みたく笑えばいいのにーって、ずっと思ってたわけよ。
「だから同い年でしょ……それじゃあ今の俺は、昔みたいに笑えてるってこと? 二原さん的には」
「んーや。昔とはぜーんぜん違う。けど……今の方が、いい顔なんじゃん?」
おどけたように、パチッとウインクをすると。
二原さんは目を細めて、ニッと笑ってくれた。
「そっか……ありがとう、二原さん」
あれ以来、もう三次元とは深く関わらないって誓ってた俺だけど……。
結花とひとつ屋根の下で暮らすようになって。
ドタバタで退屈しない毎日を、過ごすようになって。
結花だけじゃなくって、俺の方も――少しは変われたのかもしれない。
「え、えっと! ごめんなさい……急に、変な絡みをして。ただ、なんだか楽しそうに話していたから……どんな話題なのかな、と気になって」
さっきまでより、少しだけ大きな声で――結花が言った。
うん。最後はちょっと、尻つぼみになっちゃったけど。
頑張ったね、結花。
「……ぷっ! あははははっ!! かしこまって、何かと思ったよー」
緊迫感すら覚える結花のことを見ながら……一人の女子が噴き出した。
それにつられるように、他の二人も笑顔になる。
「ってか、修学旅行のときも思ったんだけど……綿苗さんって結構、面白い人だよね?」
「え!? いいえ、私は、面白くありません」
「いやいや、何そのロボットみたいな反応? あたし、それツボだわー」
「ちなみにさ、綿苗さん! この子ね、修学旅行で彼氏にもらったプレゼントが、ゴーヤーだったんだよ? どう思う? ゴーヤーだよ!?」
「もー、話を蒸し返さないでよ! いいじゃん、好きな人にもらったら、ゴーヤーだって嬉しいでしょーが!!」
正直、相当ぎこちない笑顔になってるけど。
結花なりにクラスの女子の輪に入って、一緒に話をしている。
「ほら、遊一、二原! な? 綿苗さん、なんか珍しい感じだろ!?」
「
「は、なんだよそれ!? 気が散るって、どういう……」
言い掛けたところで、二原さんがかつてないほどの「黙れ」オーラを放っていると気付いたらしく、マサは俺の後ろに隠れた。
「……遊一。なんで二原、あんな怒ってんの? 俺、そんな変なこと言ったか?」
「いや、単純に間が悪いから。お前だって、らんむちゃんのライブ映像を観てるときに親が話し掛けてきたら、イラッとするだろ?」
「そりゃそうだけど……なんのたとえだよ、それ?」
全然ピンときていないマサは、首をかしげる。
それからマサは――しみじみとした感じで、呟いた。
「にしてもよ。なんか綿苗さん、前より……柔らかい感じになった気がすんなぁ」
結花が望む高校生活までの道のりは、まだまだ長いだろうけど。
少しずつでも、結花の日常が楽しくなってるんなら……嬉しいなって、思ったんだ。
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