第23話 許嫁の水着選びの付き添い、振る舞い方が難しい件について 1/2

「はい、もしもし! あ、久留実くるみさん……いえいえ、こちらこそ新幹線で爆睡しちゃって、ご迷惑を……あ、いえ! ゆうくんに手を出そうとしたわけじゃないのは分かりましたし……いやいやいや、そんなに謝らなくても……」



 多分あれ、鉢川はちかわさんからの電話だな。


 きっとこの間の、『目を覚ましたら、マネージャーが自分の婚約者に手を出そうとしてた』事件の謝罪をしてるんだろう。完全なる冤罪だけど。


 しばらく掛かりそうなので、俺は一緒に観ていた『仮面ランナーボイスdBデシベル』の録画を一時停止して、スマホを手に取った。



 あれ……気付かない間に、なんかRINE通知が溜まってるな。



 ――――一人目は、那由なゆ


『沖縄とか、あたしも行きたいんだけど。兄さん、お金出せし。あたしも、沖縄旅行したいから』


『嫌だよ。なんで俺がお前の旅費を出さなきゃいけないのか、意味が分からん』


『……けっ。別にいいし。そこまでマジで、兄さんと沖縄行きたかったわけじゃないし』


『ん? 俺と一緒に旅行したいって話だったの?』


 …………那由が既読スルーしたので、そこでやり取りは終わる。



 ――――二人目は、勇海いさみ


『はぁ……心配だなぁ。結花ゆうか、沖縄なんて行ったことないからなぁ。結花、迷子になったりしませんかね? 離島で迷子になったら、もう帰ってこられなくなっちゃう……いや、それどころか結花は可愛いから、事件に巻き込まれる可能性も? 遊にいさん、結花に修学旅行をキャンセルするよう、説得してもらえますか!?』


 …………俺が既読スルーしたので、そこでやり取りは終わる。



 ――――三人目は、二原にはらさん。


『ねぇねぇ、佐方さかたぁ。これ見て! 修学旅行用に買ったんだけど!!』


『……いきなり水着の自撮り送ってくるの、やめてくれない? ちょっと色々あって、今は女子関係のことで結花を刺激したくないから』


『えー? もっと面白い反応を期待してたのに、塩対応すぎだしー。ってか、結ちゃんを刺激したくない? 何したん、浮気? ちょいちょいー、おっぱい恋しいときはうちにしときなって言ったっしょ? 馬鹿だなー』


『馬鹿はそっちだよね? それはそれで大炎上でしょ……』


『いいじゃんよー。うちとも遊んでほしいじゃんよー、じゃんじゃんよー』


『その語尾いじり、そろそろ怒られた方がいいよ』


『あ、そだ。ゆうちゃんは、どんな水着にするか知ってる? んー、ビキニだったら、元気な結ちゃん! って感じでめっちゃ可愛いだろうけど……敢えてワンピースタイプで、清楚な可愛さ! ってのもありだなぁ。佐方は、どっちがいいん?』


 …………適当なスタンプを送付して、そこでやり取りは終わる。



 だけど――そっか。

 そろそろ修学旅行に向けて、準備しないとだなぁ……。



「――はい、大丈夫です! もう元気いっぱいなんで!! 私からも連絡しますけど、らんむ先輩にもご心配お掛けしましたって伝えてもらえると……はい、お疲れさまですっ!!」



 ちょうど俺がRINEを返し終わったところで、結花も鉢川さんとの電話を終えた。


 そして――なんだかしゅんっと、小犬みたいに小さくなって。



「遊くん……この間はごめんね? 久留実さんから、なんだかすっごく謝られて、騒ぎすぎちゃったなぁって反省しました……」


「いやいや……そりゃあ平謝りするよ、鉢川さんは。結花は何も悪くないっていうか」


「久留実さんも言ってた。『わたしが全部悪いから! ゆうなはもちろん、遊一くんも悪くないから!!』とか。『大人として自身の行動を内省し、今後は社会人として恥じることのない行動を……』とか」



 二つ目の反省の言葉、重いな!?


 さすがは仕事のオンオフがはっきりしているマネージャー、鉢川久留実。


 オフのときは、女子大生みたいなノリで呑みまくって酔い潰れてたけど、仕事スイッチがオンになったら真面目で熱心。



 結花といい、二原さんといい、勇海といい、鉢川さんといい……俺の周りの女性陣は、大小はともかくギャップがありすぎる。



「でもさぁ……私の方こそ、無理しすぎて爆睡しちゃって、家まで運んでもらったんだよ? それでこんなに謝られると……罪悪感が凄くって」


「それについては、今後は体調管理を優先して無理しすぎないことが、何よりの罪滅ぼしじゃない? マネージャーさんとしては、それが一番の安心になると思うし……俺だって結花が調子悪いと心配だからさ」


「うん……気を付けます。心配させて、ごめんね? 遊くん」



 そんな上目遣いで、不安そうに謝んなくても大丈夫だって。

 元気でいてさえくれれば、それで十分だから。



 ――と、そこで俺は、二原さんから来てたRINEを思い出す。



「そうだ、結花。そろそろ修学旅行の準備をしないとじゃない?」


「……あ。そうだね。ライブのことでバタバタしすぎて、すっかり修学旅行の準備が抜けちゃってた……両立するって、らんむ先輩に言ったもんね! 絶対に両方、楽しんで成功させないと!!」



 そんな気合いの入った返事をして、結花はにこにこと楽しそうに笑う。



「よーっし、じゃあ遊くんっ! 思い立ったが吉日って言うし……今から修学旅行に向けて、お買い物に行こっ?」


「また、えらく急だね……何を買うの?」


「んー……色々準備するものはあるけど、一番はあれだなー……」



 思わせぶりに、口元に人差し指を当てながら。


 結花はちょっと照れたようにはにかんで――言った。




「遊くん好みの……水着かなっ?」

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