第11話 【緊張】許嫁の先輩、電話でも圧がすごい 1/2
「もーいーくつ、寝ーるーとー♪ 修学りょーこーおー♪」
いや、まだ一か月以上あるから。三十回以上寝るから。
っていうか、何その替え歌。遠足を楽しみにしてる小学生でも、そこまでテンション上がんないんじゃね? って盛り上がりを見せる
家に帰ってきてから、結花はずっとこの調子。
夕食を作ってくれてるときも、こうして一緒にご飯を食べている今も――このハイテンションっぷりで、ずっとにこにこしている。
「結花……楽しみなのは分かったけどさ。ちょっと落ち着こうか?」
「なんでー? だって、
「理由は分かってるし、俺もこの班になってホッとしてるけどさ……早いの! まだ一か月以上あるのに、盛り上がりが早すぎるんだって!!」
こんな調子で修学旅行までカロリーを消費し続けてたら、出発前に溶けて消えちゃってるっての。
俺に指摘された結花は、わざとらしく頬を膨らませて「はーい」なんて言うと、ぱくっと生姜焼きを口に運んだ。
そして、もぐもぐしながら……また、にへーっと頬を緩ませる。
「結花。楽しみが漏れてる、漏れてるから」
「だってぇ。楽しみしかないんだもん、仕方ないじゃんよ。私、本当は修学旅行とかすっごく苦手だから……班がどうなるか、不安だったんだ。それがまさか、こんな素敵なメンバーになるなんて――地獄から天国って感じで、なんか嬉しくって!」
「まぁ、メンバーによっては、修学旅行が地獄になるのは同意だけどね……そういう意味では、
二年A組は全部で三十四人。そして修学旅行の班分けは、六人×五組と、四人×一組。
バランスを考えたら、六人×四組と、五人×二組にするのが普通だろう。
郷崎先生も当然、その提案はした。
けれど――――。
「でもさ、郷崎先生? いったん決まったメンバーを、もう一回分け直すのって……せっかくの『青春』が、盛り下がるっしょ?」
二原さんのその意見が、鶴の一声となり。
六人×五組と、四人×一組――つまり、俺・結花・二原さん・マサの班が正式決定したってわけだ。
さすがギャル。熱血教師を、手のひらの上で転がすとは……恐ろしい子。
「桃ちゃんって、いっつも格好いいよね……ほんと、大好きっ! 桃ちゃん、見た目はすっごく可愛いけど、中身はイケメンヒーローって感じなんだもん。桃ちゃんが男の子だったら、アイドル並のモテ方しそう!」
「
「男装コスプレしてるときは、まぁイケメンだけど。中身は……うざ可愛い?」
「
「見た目も可愛い、中身も可愛い!」
なるほど。
思いつきで聞いてみたけど、結花内での近しいメンツの評価は、なんとなく分かった。
「あ……ちなみにね? 遊くんは、見た目は超イケメン! だけど、可愛さもすっごいあるなぁ。中身は、なんていうんだろ……天使? 神? んー、取りあえず――この世に存在する言葉では言い表せないくらい、ナンバーワンですっ!」
「聞いてないよ!? あと、絶対それ、認識が歪んでるから!!」
今度から結花が俺の話をするときは、『この遊くんはフィクションです。実在の遊くんとは、関係ありません』ってテロップを入れてほしい。
結花のバイアスがひどすぎて、架空の遊くんだよ、完全に……。
「……ちょびっとだけ、湿っぽいお話、してもいい?」
ぽつりと、消え入りそうな声で呟いたかと思うと。
結花は顔を上げて、天井を仰ぐようにしながら――語りはじめる。
「私が中学生の頃、一年くらい引きこもってたって、前に言ったでしょ? だからね、私……中学校の修学旅行には、行ってないんだ」
「あ……」
その言葉を聞くまで気付かなかった自分が、恥ずかしくなる。
そんなこと、ちょっと考えれば――分かったことなのに。
「小学生のときは熱を出しちゃって、いけなかったし。だから……これが私の、最初で最後の修学旅行なんだ。えへへっ……それでなんか、必要以上にはしゃいじゃった」
「ごめん。そんな気持ちも知らないで、俺……」
「あ、ち、違うよ!? それで傷ついたーとか、そういうんじゃ全然なくってね? 私はもう――中学のときの心残りは、あの教室に置きっぱなしでいいから。高校で楽しい想い出を、いっぱい作っていくぞーって決めたから……一緒に楽しんでほしいなって。そう言いたかっただけなんだよ!!」
辛かった中学時代。
その傷はきっと、今も結花の心に残ってるけど。
それが古傷になって、かさぶたに変わっていくようにって。
結花が全力で、『今』を楽しもうとするんなら……。
「――もちろん。俺だって結花と、二原さんとマサとの修学旅行だったら、絶対楽しいと思ってるから。だから、一緒に……楽しい想い出、たくさん作ろうね。結花」
「……うんっ!」
大きく頷いて、ひまわりみたいな笑顔を見せる結花。
そんな結花に、俺も頬が緩んでくるのを感じる。
――ちょうど、そんなタイミングで。
結花のスマホから、RINE電話の着信音が鳴りはじめた。
「わっ!? 誰だろ、
テーブルの脇に置いてたスマホを手に取り、画面を見た途端……結花の表情が、僅かに硬くなったのを感じた。
「どうしたの、結花?」
「ゆ、遊くん……ちょっとだけ、電話に出るけど、気配を消しててくれる? ら……らんむ先輩からの電話だから!!」
なるほど、話は分かった。
俺はこくりと頷くと、口をギュッと噤む。
そんな俺に対して、ぺこりとおじぎをすると――結花はスピーカー設定にしてから、RINE電話に出た。
『もしもし? ゆうな、突然で申し訳ないけれど……話せる時間は、あるかしら?』
「は、はい! もちろんです!!」
――こうして。
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