第10話 修学旅行の班決めって、どう立ち回るのが正解なの? 2/2
「おい、
「もちろん」
隣の席のツンツン頭な悪友――マサの誘いに、俺は二つ返事で乗っかった。
オタクであることを隠そうともしない、清々しいまでのオープンオタクなマサ。
周りの目を気にしがちな俺とは、正反対なタイプのオタクなマサだけど……なんだかんだで、中一の頃からずっとつるんでるんだよな。
正直、マサから言ってこなかったとしても、俺から誘ってたと思う。
非常に言いづらいけど――俺が一緒の班になって、気兼ねしないでいられるクラスの男子とか、こいつくらいしか思いつかないから。
「……で? 他は誰を誘う気だよ?」
「まぁ待てって。クールになれよ、遊一……急いては事をし損じるってことわざ、知らねぇのか?」
「知ってるけど、使いどころの意味が分かんねぇよ」
何が言いたいんだ、こいつは。
半ば呆れ気味な俺に対して、マサはドヤ顔で持論を展開しはじめる。
「あのな、遊一? この修学旅行は、六人で一班を組むわけだ。だからこそ今、クラスの連中は仲良しメンバーで六人組を作ろうって、躍起になってやがる。けどな……うちのクラスの人数は、全部で三十四人。つまり、六人×五組が成立したとき――四人が残る計算なんだよ!」
「……で?」
「分かんねぇ奴だな。考えてみろ? 俺たち二人が動かず待ってたら、自動的に――あぶれた残り二人と、同じ班になる! 六人グループに入れないような連中だぜ? 陽キャとかオラついたタイプじゃない……害のない奴らが残るとは思わねぇか?」
凄い特大のブーメランを投げつけられた気がするけど、まぁそれは置いといて。
「害のない奴らって言うけどさ。その二人が、全然関わったことのない二人だったらどうすんだよ? それはそれでやりづらいだろ」
「逆に聞くが――お前から誘える、やりやすい二人なんているのかよ?」
「……ぐぬぬ」
これはこれで、やっぱりブーメランだった。
「ま、もしかしたら
マサが言うのは、極論ではあるけれど。
確かにそれが……ベターなのかもしれないな。
じゃあ取りあえず、クラスの出方を見守ってよう……。
「
「だーめだっての。
「おーい、桃乃! 俺らと一緒に回らねぇか? 楽しませるぜ、ぜってー」
「うわっ、下心やばっ! 桃乃ー、あんな男子ほっといて、こっちにおいでってー」
……異世界の会話が、なんか近くから聞こえてくる。
見た目は陽キャなギャル、中身は特撮系ギャル――その名も、二原桃乃。
二原さんの周りには、男女問わずたくさんのメンツが集まって、同じグループに勧誘してる。これが陽キャのコミュニティか、控えめに言って怖い。
そして――俺は離れた席に視線を向けた。
そこには、誰とも会話をすることなく、ぽつんと席に座ったままの……
地味でお堅い雰囲気を醸し出してる学校結花は、友達が少ない。
文化祭があったから、ときどきクラスの女子から話し掛けられることも増えた結花だけど……反応に困った結花が、塩対応をしちゃうから。
修学旅行で班決めがスムーズに進むほどには――まだみんなと打ち解けてはいない。
ズキッと……俺は、胸が痛くなるのを感じた。
『
あんな楽しそうなRINEを送ってた結花が、椅子に座ったまま静かにしてる。
そんな哀しい結花を放っておくことなんて……俺にはできないから。
「お、おい、遊一!?」
マサが素っ頓狂な声を上げる。
だけど、一度歩き出した俺の足は、止められなくって。
「
「……え?」
俯いてる結花のそばに立って、俺は勇気を振り絞って、言った。
結花は目を真ん丸にして、バッと顔を上げる。
なんかクラスが、ざわっとしたような気がするけど……怖いから、振り返らない。
「ほら。俺とマサも、二人で余ってるしさ。綿苗さんも、えっと……他に予定がないなら、一緒にどうかなーって……」
「……いいけど? 断る理由は特に見当たらないから。修学旅行なんて、どの班になっても変わらないし……ふへ」
なんか最後に、俺にしか聞こえないくらいの声量で家結花が零れ出たけど!?
表情は学校のクールな無表情をキープしてるのに、逆に器用だな!!
「へー! めっちゃ面白そうじゃーん!! んじゃ、うちもまぜてよ
なんとなくざわついてる気がするクラスの空気を裂くように――はつらつとした声で、二原さんが言った。
そして俺と結花のそばに、駆け寄ってきて。
「いいじゃーん。文化祭頑張ったトリオで、修学旅行とか! めっちゃ楽しそう!! 修学旅行だったらぁ……綿苗さんのメイドさんスマイルだって、また見られるかもだし?」
「……それは、ないけど」
「おい、二原! トリオで区切んな!! 俺をハブるんじゃねぇよ……遊一がいなくなったら俺は、地獄の修学旅行になるんだぞ!!」
「分かってるって。いーよいーよ、
「え……桃、マジで言ってんの?」
さっきまで二原さんを誘っていたメンバーの一人が、困惑した声を上げた。
別の意味で、クラスがざわざわしはじめる。
だけど――そこは、さすがのギャル。
「いや、だってさ。さっきから、うちの取り合いで揉めてんじゃん? 楽しい修学旅行で喧嘩とか、つまんないっしょ? だから……うちは置いといて、班決めしなって。ほら、うちは誰と一緒に回ったって、楽しめるタイプだし?」
それは半分本当で、半分嘘だ。
二原さんは確かに、誰とでも盛り上がれる人だけど……本当の自分を曝け出せるのは、結花だけ。だからきっと、二原さん的にも、結花と一緒の班の方が楽しいんだと思う。
その上、ヒーロー気質な二原さんのことだ。
ぼっちになってる結花を放っておくとか、俺と結花の関係が疑われる事態を無視するとか――そういうことが、できなかったんだろうな。
ありがとうね、二原さん。
――――そんなわけで。
俺・結花・二原さん・マサの四人で……修学旅行の班は、決定した。
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