第4話 【悲報】文化祭後の地味子、やっぱりお堅いしかない 2/2

ももちゃん、大好きっ! 今日はほんっとうに……ありがとー!!」


「あははっ! ゆうちゃんってば、めちゃカワだなぁ。うちも結ちゃん、大好きだよー!!」



 そんな仲良しなやり取りをしつつ、ギューッとリビングで抱き合う結花ゆうか二原にはらさん。


 その様子を、ソファに腰掛けたまま、ぼんやりと見守ってる俺。



「お? 佐方さかた、暇そうだねぃ。佐方もギューする? 今なら結ちゃんと桃乃ももの様の、ハーレム仕様だよん?」


「だ、だめだよゆうくん! 今はだめ!! だって桃ちゃんにギューッてされたら……このおっきな胸に、遊くんのハートが盗られちゃうもん!!」


「……ぷっ! あはははははっ!! 結ちゃんってば、ほんっとうに可愛いなぁ!! だいじょーぶ、おっぱいに負ける佐方じゃないってぇー」



 わしゃわしゃと結花の頭を撫で回す二原さん……俺は一体、何を見せられてるんだ?



 久しぶりの学校帰り――二原さんは、我が家に遊びに来ていた。


 文化祭のクラス代表&副代表を務めた三人で、打ち上げも兼ねて盛り上がろう……っていう主旨だったはずなんだけど。


 いつの間にか女子二人で、きゃっきゃうふふしてる。



 いや、まぁ……結花が友達と楽しそうにしてるなら、それでいいんだけどね。



「そういや結ちゃん。『仮面ランナーボイスdBデシベル』は観てる?」


「もっちろん! あの感動の最終回から、まさかの続編……遊くんと二人で、ドキドキしながら観てるよ!!」



 仮面ランナーシリーズは、一年刻みで新シリーズに切り替わる……らしい。


 だけど、前作の『仮面ランナーボイス』が驚くべき人気だったから、異例のシリーズ続投が決まって、『仮面ランナーボイスdB』がはじまった……らしい。



 らしい、っていうのは、二原さんからの伝聞情報だから。


 二原さんの特撮トークは、専門用語はちんぷんかんぷんだけど、なんか聞かせる力が凄いんだよな。



「新しい敵が登場して、仮面ランナーボイスがやられそうになったときは、私――泣いちゃうかと思ったよ! 声霊の力が通用しない!? じゃあどうするのって!!」


「だけど、そんな危機的状況下で、人々の応援する『声』をベルトに浴びて――『仮面ランナーボイスdB』に進化! 熱かったよね、あれは!! 新しい武器の『メガホンコーラスラッシャー』は、メガホンと剣を一体化させた画期的なギミックでさ――」



 特撮オタクと仲良くなった結果、うちの許嫁が特撮に詳しくなっていきます。


 ギャルのコミュ力とオタクの知識が組み合わさると、布教力が半端ないな……。



 そうやって、盛り上がってる二人をぼんやり見守っていたら、二原さんがニヤッと笑ってこっちを見てきた。



「ね、佐方。うちが特撮ばっか観てるって、思ってるっしょ?」


「実際そうでしょ」


「ふっふっふ……たーしーかーに? これまでのうちは、特撮にしか興味のない人間だったよ? それは認める……けどね? うちだって、他にも手を広げてるわけよ!!」



 そう堂々たる宣言をすると、二原さんはスマホの画面を取り出して――見慣れたアプリを起動させた。



『――ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆ はっじまるよー!!』



 タイトル画面が表示されると同時に、天使のような声が聞こえてきたもんだから……俺は思わず言葉を失った。


 そのアプリは――『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』。そしてランダムで決まるタイトルコールは、俺の愛するゆうなちゃん。


 そんな俺の驚く顔を見て、ドヤ顔をしながら二原さんは言う。



「……どうよ? うちばっか布教すんのもなーって思ったのと、結ちゃんがめっちゃ頑張ってんのを応援したいなーってのがあってさ。アプリを落としてみたわけ!」


「え……えぇ!? 気持ちは嬉しいけど……なんか恥ずかしいよぉ、桃ちゃん」


『ゆうながずーっと、そばにいるよ! だーかーら……一緒に笑お?』


「うにゃ――!?」



 結花が猫みたいな叫び声を上げて、ソファに飛び込んでクッションの下に頭を埋めた。


 そんな結花の姿に――二原さんはけらけらと、笑いながら。



「ってわけで。これからはうちも、『アリステ』ユーザーとして、ゆうなちゃんを――結ちゃんを、応援してくかんね? 佐方はそだね……初心者なうちに、色々教えてね!」




「……うぅ。嬉し恥ずかしかったよ、もぉ……」


 二原さんが帰ったあと、部屋を片付けつつ、結花がぶつぶつと呟いてる。



「『恋する死神』的には、ゆうなちゃんファンを一人増やせて、とても誇らしいよ」


「なんで遊くんがドヤ顔してんの!? うん……でも、そうだよね! これから、らんむ先輩とユニットを組んでさらに頑張るんだもん!! むしろ喜ばなきゃだよね!!」



 拳を作って「よしっ」と、気合いを入れる結花。


 そんな結花を、微笑ましい気持ちで眺めていると――結花のスマホから、着信音が流れはじめた。



「はい、ゆうなです、お疲れさまです!! ……あ、そうなんですか? 出張大変ですね……え? 確かにそこ、うちの近くですけど……い、今からですか!? いえ、確かに早めに打ち合わせできた方が、ユニットの準備できていいですけど……あ、いや、えっと……」



 なんだか、しどろもどろな会話をしてるな、と思ってると。


 電話が終わったらしい結花が、スマホを持った手をだらんとさせながら――困ったように眉をひそめて、言った。



「ど、どうしよう遊くん……今からマネージャーさんが、うちに来るって」




 …………え? 今から?


 それって――『弟』的に、かなりまずい展開な気がするんだけど?

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