第3話 【悲報】文化祭後の地味子、やっぱりお堅いしかない 1/2
「おっはよー、
文化祭の代休明け、日常に戻った学校。
登校してきた俺が席に着くと、ぶんぶんと大きく手を振りながら、一人のギャルが駆け寄ってきた。
着崩したブレザーの胸元は隙だらけで、豊満なその胸がちらちら見えるから……俺は咄嗟に視線を逸らした。
ちなみに、こんな『陽キャなギャル』って見た目の彼女だけど。
中身は立派な――特撮番組を愛しすぎてるオタクだ。
文化祭のコスプレカフェのときなんて、クラス代表って立場を名目にして、オタバレしないよう注意しながらやりたい放題だった。怪獣の着ぐるみを着たり、ヒーロースーツみたいなレオタードを着たり。
そんな『特撮系ギャル』な二原さんは、俺の机に手をついて――にかっと笑った。
「文化祭、楽しかったねぇ! うち、昨日までめっちゃ余韻に浸ってたんだけどー!!」
「まぁ、思ったよりは楽しかったけど……俺は正直、疲れたよ。できるだけ他人とコミュニケーションを取らず、淡々とした学校生活を送りたい」
「とか言っちゃってぇ! 佐方だって、タキシード姿でバシッと決めてたじゃーん。あのときは正直……佐方って格好いいんだなって。惚れちゃいそうだったよ?」
「え?」
「……ぷっ! あはははっ!! ウケるー、めっちゃ焦ってんじゃーん! 冗談だってば、冗談!!」
くっ……中身が特撮オタクとはいえ、やっぱりギャルだな。
別に本気にしたわけじゃなかったけどね? 二原さんがこういうキャラだってことは、十分っていうほど知ってるしね?
「おい、二原――じゃあ俺の格好は、どうだったよ?」
なんか無性に悔しい思いに駆られていると、隣の席に座ってたツンツン頭の友人が、急にカットインしてきた。
中学時代からの腐れ縁で、俺と同じく『アリステ』を愛する同志だ。
「えー? 倉井、どんな衣装着てたんだっけ? ふつーに思い出せないんだけど」
「なんでだよ!? ほら、あれだよドラキュラ!! 俺の愛する、らんむ様のクールなライブステージはな、彼女のイメージに合わせたホラーチックなデザインなんだよ。だからこそ俺は――ドラキュラとなった。そう、らんむ様と一体になった感覚を味わうために!!」
めっちゃ熱弁を振るってるマサ。
特に加勢はしないけど、気持ちは痛いほど理解できる。
推しと一体化したい……溶けあってひとつの存在になりたいって、その気持ちは。
「でもさぁ。やっぱ今回のMVPは、間違いなく――
らんむ様への愛を独り言のように語り続けてるマサを尻目に、二原さんはニヤニヤしながら俺を見てきた。
まったく……からかおうとしてるのが、見え見えなんだから。
――――二原さんはこのクラスで唯一、俺と
そしておそらく、結花にとって唯一と言っても過言ではない……クラスの友達。
家では、天然かまってちゃんで。声優としては、元気はつらつキャラな結花だけど。
それ以外――特に学校での結花は、ほとんど誰とも喋らず過ごしている。
喋りたくないっていうよりは、周りとどう接していいか分かんないって感じ。
喋ったら喋ったで、話しすぎてまとまらなくなるし――とにかくコミュニケーションが苦手な結花。
だけどクラスのみんなは、当然そんな事情は知らないから、結花を『お堅くて近づきがたい地味な子』って思っている。
話題に上がったので、俺はふっと結花の方に視線を向けた。
そこには――びっくりするほど無表情な、結花の姿があった。
黒髪のポニーテールに、細いフレームの眼鏡。きちんとした着こなしのブレザー。
そんな結花は着席したまま、じっと――本を読んでいる。
……いつものことなんだけど、眼鏡をしてない結花は垂れ目っぽいのに、なんで眼鏡を掛けるとつり目っぽくなるんだろう? 永遠の謎だな、本当……。
って感じで、家とはまったく違うけど、学校としては通常営業な様子の結花。
だけど……そんな結花の周囲に、珍しいことに女子数名が集まりはじめた。
結花もそれに気付いて、本から顔を上げて首をかしげる。
「……どうしたの?」
思いがけないクラスメートたちからの注目に、戸惑った表情をする結花。
そんな結花に向かって、女子の一人が瞳をキラキラさせながら、気さくな感じで話し掛けた。
「ねぇ、綿苗さん! 文化祭、すごかったね!!」
「……何が?」
相手とのテンションの差がひどい。
まぁ、結花的にはいつもどおりなんだけど。
だけど女子たちは、思い思いの言葉を結花に向かって投げていく。
「何って、ほら! 文化祭のメイドさん!! 綿苗さんが、ちょっと困った絡みをされてたからね、どうなるんだろって心配してたけど……綿苗さんが、にこーって笑ってさ!!」
「……ああ」
「そーそー! あのときの笑顔、めっちゃ可愛かったよー!! 綿苗さんって、あんな風に笑うんだねぇ!!」
「……別に」
「あたしなんか、ちょっとドキッとしちゃったもん!! もう一回見たいー、って思っちゃうくらいだよ!!」
「……へぇ」
――――シンッ。
気さくだった女子たちが、段々と凍りついていくのを感じた。
まぁ、そりゃそうだろうな。
普通に雑談しにいって、あんな無表情で塩対応され続けたら、並の人間は心が折れる。
結花的には、返し方の正解が分からなくて、困りすぎていつもの塩対応になってるんだろうけど。
「あー、うちもめっちゃ感動したよ、あのとき! 綿苗さんってば、超絶可愛かったもんねぇ!!」
そんな結花に、助け船。
俺の隣にいた特撮系ギャル――二原さんが、大きな声を上げた。
「ねぇねぇ、綿苗さん。もっかい、笑ったの見せてー? ね、佐方も見たいっしょ? 綿苗さんのラブリースマイルッ★」
「え、お、俺? い、いや……まぁ」
「…………」
結花がじっと、俺のことを見る。
そして、なんか深く息を吐き出したかと思うと、キッと目をつり上げて。
ぐいーっと――自分のほっぺたを、引っ張った。
「…………はい?」
「……ほへへどう?(これでどう?)」
いやいや。確かに口角は上がってるけど!
そんな手動で作るもんじゃないでしょ、笑顔!? しかも目つきが、全然笑ってない!!
「ぷっ! あはははっ!! 綿苗さん、めっちゃウケるー!!」
二原さんがバンバンと俺の机を叩きながら大笑いして、周囲の注目を集める。
そんな二原さんを見たクラスのみんなも――なんだか弛緩した空気になって。
「文化祭のときとか、今とか。綿苗さんも、意外にお茶目なところ、あるんだねー」
「ねー。っていうか、文化祭楽しかったよね! 私、あのチアガールの服、すっごい気に入っちゃってさぁ」
「気に入ったのは、あんたの彼氏の方じゃないのぉー?」
「うっさいなぁ、怒るよ!?」
そうして、なんとなく和やかな雰囲気になったところで、結花の周りからクラスメートたちは撤収していき。
結花はふぅっと、小さくため息を吐くと――再び読みかけの本を手に取った。
そして……ちらっと俺と二原さんの方を一瞥すると。
(ありがとう、二人とも)
――なんて。
口パクで感謝の言葉を伝えてきたのだった。
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