第28話 【憂鬱】文化祭の出し物を、ギャルに任せた結果…… 2/2

「うにゃー! なんでみんな、コスプレなんてしたいのさー!!」



 ホームルームが終わって、家に帰ると。


 髪をほどいて眼鏡を外した部屋着の結花ゆうかが、なんか荒ぶってた。



ももちゃんもフォローしてくれたのにぃ! パネル展示の案だってあったのにぃ!! なんで、なんで……もぉー!!」



 ちなみに、地域の名産品のパネル展示には、一票だけ入ってた。


 誰が入れたのかは、敢えて聞かないけど。



「でも、多数決って言い出したの、私だもんね……もう、こうなったら仕方ない! お腹を括るしかないね……っ!!」


「そんなに覚悟が必要な感じなの? 和泉いずみゆうなとしてイベントに出たりもしてるし、そこまで抵抗あると思ってなかったんだけど……」


「それは――和泉ゆうなだから、だもんっ!」



 ぐいっと顔を上げて、結花は頬を膨らませた。



「……和泉ゆうなは、私であって、私じゃないもん。声優をやってるときは、みんな――私の普段の生活なんて、知らないじゃんよ。だから、話を回そうって、あんな風にたくさん喋れてるだけで……」



 そっか。そうだったね。


 綿苗わたなえ結花は、結構なレベルのオタクで、相当なコミュニケーション下手。


 オタク話になると話が止まらず、喋りすぎて空回って失敗しちゃうから。


 学校では真面目なキャラでいこうとした結果――地味で無愛想な感じでディスコミュニケーションを発揮してるんだった。



 そんな学校状態の結花が、和泉ゆうなみたいに振る舞ったら?



 …………うん。


 なんか色んな次元がこんがらがって、カオスな感じになりそう。



「あと……ゆうくんが、みんなの前でコスプレするのも、やだ」


「なんで?」


「はぁー……これだから遊くんは……罪な人」



 なんか唐突にディスられたんだけど!?


 俺の頭の中には疑問符しか浮かんでこないんだけど、結花はなんか拗ねた顔をしてる。



「だって、もしもだよ? 遊くんが、執事とかタキシードとか、そういう格好をしたらだよ? ……クラスメート全員が、遊くんを好きになっちゃうじゃん! むぅ……ばか」


「馬鹿はそっちだな!?」



 妄想はなはだしいっていうか、結花の言ってる『遊くん』って、俺のことで合ってるんだよね? 大人気アイドルに、同名の人がいるとかじゃないんだよね?



「あのね、結花……結花が思ってるほど、俺はモテないから。モテの欠片もないから」


「モテますー。現に遊くんは、私にベタ惚れされてますー」


「それは結花が特殊だからでしょ……世間的に見たら、趣味悪いって言われるよ。絶対」


「たとえそうだったとしてもだよ? 世界には自分とそっくりな人が、三人はいるって言うじゃんよ! 少なくともあと二人……遊くんにベタ惚れな人がいるもんっ!!」



 なんの話してんの?


 ドッペルゲンガーって、そういうことじゃなくない?



 そうやって、よく分からない小競り合いをしていると。


 唐突に俺のスマホから――RINE電話の着信音が流れはじめた。



「……って、なんで勇海いさみ?」



 通知画面に表示された予想外の相手に、俺は思わず首をかしげた。


 取りあえず、結花に変な勘違いをされても嫌だから、スピーカー設定にする。



『こんばんは、遊にいさん』


「勇海……なんであんた、遊くんに電話してんのさ?」


『ああ、結花も一緒なんだね。ふふっ……相変わらず、可愛い声をしてるね結花は』


「そういうのいいから。質問に答えなさいってば」


『あははっ。すぐに怒るところも、キュートだね? 結花』



 むきーっと、椅子に座ったまま地団駄を踏みはじめる結花。


 こうやってまた、結花の好感度を下げていくんだよな。このイケメン風の義妹は……。



「で? 実際、なんの用で電話してきたんだよ、勇海?」


『あ、はい。ちょっと桃乃もものさんから、依頼を受けましたので。その報告をと思いまして』



 依頼? 二原にはらさんから?



「なんの話……っていうか勇海、いつの間に二原さんと連絡先を交換したんだ?」


『コミケ会場で会ったときですね……って、それは置いといて。遊にいさんたち、文化祭でコスプレカフェをやるらしいじゃないですか』



 あ……なんか嫌な予感。


 そんな虫の知らせとほぼ同時に、勇海は得意げな声で言った。



『ということで、二原さんから依頼を受けたわけですよ。そう……この人気コスプレイヤー・和泉勇海に、コスプレカフェのアドバイザーを頼みたいって!!』


「えいっ」



 ――――プツッ。


 あ、切った。



 トーク画面に戻った俺のスマホを睨みつけながら、結花はギリッと唇を噛み締める。


 そこに――勇海からの新着メッセージが、表示される。



『そんなわけなので。今度の土日、お二人のおうちにお邪魔しますね』



 慌てた結花が、今度は自ら勇海にRINE電話をかける。



「ちょっと勇海!? こっちに来るって、どーいうことよ!?」


『桃乃さんが、打ち合わせをしたいそうなので。どうせなら結花の顔も見たいし、遊にいさんの家で打ち合わせをしたいなぁと』


「いいわよ、アドバイスなんかしなくたって! これは私たちの学校の文化祭だもん。勇海は関係ないじゃんよ!!」


『――――関係、あるさ』



 そうして少し声のトーンを落としたかと思うと……勇海は優しく告げた。



『だって僕は、いつだって結花のピンチを救う……ナイトだから』


「むきー!! 私のナイトは、遊くんだもんねー!! 勇海のばーか!」


「ツッコむところ、そこじゃないな!?」




 ――――というわけで。


 文化祭のコスプレアドバイザーとして、勇海の参加が決定したのだった。



 ……どこに向かってんの、うちの文化祭は?

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