第26話 【アリラジ ネタバレ】お便りコーナー、カオスすぎ問題 2/2

「今回は今までと違って、お便りを紹介しつつ、トークをするんだってさ。ってなわけで、ゆうなちゃん。一通目、お願いしまーす」



 掘田ほったでるの完璧な前振りから、和泉いずみゆうなにバトンが渡る。



「はーい! ではではラジオネーム『イケマサ』さんから。らんむ様、ゆうな姫、でるちゃん、こんにちアリス……こんにちアリスー!!」



 ブッと、俺は思わず吹き出してしまう。


 だってこのリスナー、めちゃくちゃ俺の知り合いなんだもの。



 ラジオネーム『イケマサ』こと――倉井くらい雅春まさはる



「らんむ様推しの僕としては、最近のらんむ様のご活躍、血涙が出るほどに嬉しく思ってます! 嬉しさが凄すぎて、新学期がはじまるっていうのに、徹夜でガチャを回してしまいました(笑) こんな僕を、らんむ様――罵ってください」


「はい、らんむ」


「――罵ってください? 罵る価値もないわ。私のファンを名乗るのなら……何事にも全力を出してみなさい」



 おおー!! ……と、和泉ゆうな&掘田でるが、拍手を送る。


 マサ、きっとラジオを聴きながら悶絶してるんだろうな……つい知り合いの顔が浮かんできて、なんとも言えない気持ちになる俺。



「んじゃ、次はわたしが読むね。ラジオネーム『NAYU』さんから。初めまして。こういうの送るのは初めてです。おおー、嬉しいねー! ありがとアリスー!!」



 ……NAYU、だと?


 俺はそのラジオネームの響きに、なんかうっすら嫌な予感を覚える。



「ゆうなちゃんに質問です。お、名指しだよ、ゆうなちゃん……ゆうなちゃんはよく『弟』の話をしてるみたいですが、もしも『弟』と結婚できるとしたら、結婚したいですか? するとしたら、子どもは何人欲しいですか? ……えっと。次、いこっか……」



 掘田でるも、ヤバい空気を察したらしい。


 メールへの回答をすっ飛ばして、次に進もうとする。



 正しい判断だと思う。そもそも、和泉ゆうなの言ってる『弟』って……許嫁である、俺のことだしな。



 だけど…………。



「したいですっ! だって私――『弟』のこと、大好きですからっ!! 子どもは、えっとそうだなー……男の子も女の子も欲しいからー……」


「うりゃ!」


「あいたっ!?」



 ゴンッと、おそらく台本か何かで叩かれたのか、和泉ゆうなの話が中断される。



「ゆうなちゃん……そろそろマジで、事務所の偉い人に怒られるからね? ブラコンネタはともかく、子どもとか生々しいのはNG!! コンプライアンスに抵触するから!!」


「は、はいぃぃ……」



 掘田でるの本気の説教を受けて、さすがに反省したらしい和泉ゆうな。


 ほっと胸を撫で下ろす俺……っていうか、ラジオネーム『NAYU』。今度帰省してきたら、マジで説教してやるからな。覚えとけよ。



「……私は、『アイドル』という仕事と、結婚してるつもりよ」



 ――――と、沈静化したはずの話題に対して。


 先ほどまで沈黙を貫いていた紫ノ宮しのみやらんむが、急に一石を投じた。



「え……らんむ先輩? 一体、なんの話をしてるんですか?」


「このメールの意図は……アイドルとして『結婚』や『子ども』というフレーズを、どう捉えるかという話なんじゃないかしら? アイドルの結婚相手は『仕事』。そして、子どもとは……そう『作品』。ゆうな、分かる?」


「ごめん、らんむ……わたしも、あんたが何言ってんだか分かんないわ……」



 クールな口調で、意味不明な持論を展開しはじめた紫ノ宮らんむに、さすがの掘田でるも動揺を隠しきれない。


 けれど『六番目のアリス』こと紫ノ宮らんむは、止まることを知らない。



「ゆうな。『弟』と仲が良いのは結構なことよ。だけど……結婚する相手として、『弟』はさすがに違うんじゃないかしら? アイドルという『仕事』と結婚したつもりで戦い続けなければ……この世界では、生き残れないわよ」


「で、でも! 結婚は女の子の夢ですよ、らんむ先輩!!」



 どうかしてる論理展開に対して、どうかしてる返しをする和泉ゆうな。



「私は、仕事も大切だけど、恋も大切にしたいです……そのキュンってする気持ちを、作品に活かしていくのも、声優として大切なことだと思うから! だから私は、私は……世界一大好きな『弟』と、生涯をともに――」


「はい。んじゃ、CM入りまーす」



―――――――――――――――――――――――――――――――


『今すぐリタイア! マジカルガールズ』のブルーレイ、大好評発売中らしいな?


 三巻の初回生産版には、ミニドラマ『北風と鉄パイプ』を収録。


 今回は、あたし愛用の鉄パイプ・四分の一スケールが特典に付いて、なんと六千三百円。



 鉄パイプはいいぞ? 振り回してみると、割と楽しい。



 買わない奴は――お掃除?


 すまん。ちょっとこのセリフ、言いたくないわ。



          ◆



「何やってんの、ゆうくんっ!!」

「うわぁ!?」



 掘田でるがすべてを諦めてCMにぶん投げたところで、ガチャッと那由なゆの部屋のドアが開け放たれた。


 慌てて振り返ると、そこには――頬を真っ赤にした、怒り顔の結花ゆうかの姿が。



「さっきから、ドタンバタン二階から聞こえるから、なんか変だと思ったら……信じらんない。出掛けたふりして、聴いちゃだめって言った『アリラジ』を聴いてたなんて!!」


「そうは言うけどね? 『恋する死神』たる俺が、ゆうなちゃんパーソナリティの神回を聴かないとか……逆に病気の可能性が高いからね?」


「うるさいなぁ! 病院も困るじゃんよ、そんなわけ分かんない患者が来たら!!」



 べーっと思いっきり舌を出したかと思うと、結花は俺のスマホを取り上げて、電源をオフにした。



「……この後、らんむ先輩と一緒に、めちゃくちゃ怒られたの。掘田さんに」



 まぁ、そうだろうね。


 掘田さんだけでも正常な思考回路で、むしろ安心したよ。



「……ちなみに、遊くんは?」


「ん? 何が?」



 急に上目遣いにこちらを見てきた結花の瞳は、なんかうるうるしてる。


 なんて返事したものか悩んでいると、痺れを切らしたらしい結花が……ぷくっと頬を膨らませて言った。



「……子ども。私は、男の子と女の子、二人は欲しいなーって……遊くんは?」


「結花、掘田さんがなんで説教したか分かってる!?」



 まるで反省してない。というか、理解してない。


 天然すぎて……なんか、掘田さんの苦労が忍ばれるよ。本当に。




 ちなみに――もちろんだけど。


『アリラジ』の続きは、コンビニに出掛けるふりをして、きちんと消化しました。

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