第25話 【アリラジ ネタバレ】お便りコーナー、カオスすぎ問題 1/2

 結花ゆうかが夕ご飯の買い物に出掛けている隙に。


 俺は「マサと遊んでくる」と嘘の伝言を残して、無人の那由なゆの部屋にこっそり隠れた。


 これで結花は、しばらく俺の存在に気付くことはないだろう。


 完璧なシチュエーションだ。



「…………」



 リビングに置いてあるパソコンを使いたいところだったんだけど、結花が目的のサイトへのアクセスブロックを設定しちゃったので、敢えなく断念。


 まぁ、いい。俺には文明の利器――スマートフォンがある。



 というわけで。


 俺はゆっくりと――ネットラジオの音源をクリックした。



「皆さん、こんにちアリス。『ラブアイドルドリーム! アリスラジオ☆』――はじまるわ、覚悟を決めなさい」



 もともと大好評だった『アリステ』のネットラジオ――通称『アリラジ』は、アリスアイドルたちの人気投票『八人のアリス』の発表記念以降、人気にさらなる火がついた。


 決まったMCを置かず、呼ばれたアリスアイドルたちが前半はキャラになりきったトーク、後半は声優によるフリートークを行う構成の、最高の番組。


 そんな『アリラジ』の中でも、トップスリーの人気を博した放送回のメンバーを再集結させようっていう企画が、先週からスタートしている。



 そして、今回集められたメンバーは――――。



「トップアイドルという高みに、私は必ず辿り着く。さぁ……ついてくる準備は、できてるわよね? ――らんむ役の、『紫ノ宮しのみやらんむ』よ。どうぞ、よろしく」



 まずは『六番目のアリス』――『アリステ』人気六位の、クールビューティ高校生・らんむちゃん。マサの推しだ。


 アイドルの頂点を目指してストイックに努力する、その厳しくも格好いい姿と、私生活のポンコツ具合のギャップが人気のキャラクター。


 腰まである紫色のロングヘアに、ロック然とした衣装が魅力的だ。



「掘れば掘るほど溢れ出ますよ、わたくしの魅力は? 皆さん、もっともっと、わたくしと一緒に笑いましょうね――でる役の、『掘田ほったでる』でーす。どもどもー」



 続いてアリスランキング十八位、石油王の家庭に生まれたほんわか十九歳・でるちゃん。


『お金じゃ買えない笑顔』を、みんなと一緒に見つけるため、いつだって穏やかにアイドル活動に勤しむ姿が人気のキャラクター。


 ハーフという設定もあって、彫りが深くて大人びた顔つきなのも人気の秘訣だ。



 そして――――。



「あー! なんで勝手にプリン食べちゃったのよぉ!! ゆうなの楽しみを奪って……許さないもんっ! 罰として……今日は一日、ギューッてしててよねっ!! ――ゆうな役、『和泉いずみゆうな』ですっ! どうぞよろしくお願いします!!」



 アリスランキングでは三十九位だけど、俺の脳内ランキングでは天元突破してる世界一可愛いアリスアイドル――ゆうなちゃん。


 天真爛漫で、ちょっぴり天然で。子ども扱いされたくないからって、わざと小悪魔っぽい言動をしては、失敗しちゃって悔しがっちゃって……それもまた可愛い。


 頭頂部でツインテールに結った茶色い髪の毛には、世界の希望が詰まってる。


 きゅるんっとした口元には、宇宙の神秘が潜んでる。



 もう魅力を言語化することすらおこがましい……俺の生きる意味そのものな、アリスアイドル。それが彼女、ゆうなちゃんだ。



「……ふぅ」



 毎度のことながら、ゆうなちゃんが出た瞬間は、呼吸するのを忘れちゃうんだよな。


 冷静に深呼吸してから、俺は目を瞑って、スマホから聞こえてくる『アリラジ』の音声に全神経を集中させる。


 こんな素晴らしい番組だってのに、結花はいつも、ゆうなちゃんが出演してる回を聴くのを阻もうとしてくる。



 まぁ、結花の言い分も理解はできる。


 なんたって、綿苗わたなえ結花は――ゆうなちゃんの声優・和泉ゆうな本人。



 自分の出演してるラジオ番組を許嫁に聴かれるっていうのは、俺には想像もつかないほど恥ずかしいんだろう。



 だけど、ごめんな結花……これだけは、結花の頼みでも譲れないんだ。


 だって俺は、結花と出逢うより前から、ゆうなちゃんを応援し続けてきた一番のファン――『恋する死神』だから。



 ゆうなちゃんのすべてをチェックする義務が……『恋する死神』には、あるんだ。




 そんなこんなで、キャラトークが終了し、フリートークのコーナーになる。



「ってわけで。なんかこの同事務所メンバー、結構人気みたいなんだよねー。正直、なんでって感じなんだけど。わたし的には」


「なんでそんな後ろ向きなんですか、掘田さん!? いいじゃないですか! 私たち三人の魅力が、リスナーさんたちに伝わってるってことですよ!! ですよね、らんむ先輩?」


「……どうかしら? 私とゆうなのテンション、前回も噛み合ってなかったと思うけど」



 前回の『アリラジ』では、和泉ゆうなの『弟』愛と、紫ノ宮らんむのアイドルへのストイックさが、凄まじい火花を散らす羽目になった。


 その火消しというか、番組の回しに全力を尽くしたのが、掘田でるだったんだけど……。



「らんむ! それそれ、その毒舌だよ! 前回それで、放送事故すれすれだったんだからね!? 頼むから二人とも、今日はマジで自重して! 先輩命令だから、これ!!」


「は、はい! 掘田さん!!」


「……善処します」



 ……と、まぁ。


 掘田でるの釘刺しからはじまった、今回の放送だけど。



 果たしてどんなことが起きるのか……正直、期待と不安でいっぱいな俺だった。

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