第7話 【追撃】義理のきょうだいが泊まったら、とんでもない事態に 1/2

 そんなこんなで。


 ダイニングテーブルに四人で腰掛けて、佐方さかた家と綿苗わたなえ家の顔合わせ、テイク2。



 俺の隣には、怪訝そうな顔をしてる那由なゆ

 対面には、フグみたいに頬を膨らませてる結花ゆうか


 そして結花の隣には、イケメン男子にしか見えない、結花の『妹』……綿苗勇海いさみ



「……えっと。勇海……ちゃん?」



 取りあえず呼び方をどうしようか、思案する俺。


 俺よりは低いけど、男子と並んでも高い方に分類されるくらい、高身長で。

 モデルみたいにすらっとした身体つきで、黒い執事風の服装がとても似合っている。


 長めの黒髪を首元で一本に結って、青いカラーコンタクトを入れてるもんだから……女性向けアニメに出てくる、美少年キャラみたい。



「勇海ちゃん……母以外にそう呼ばれるのは、なんだか新鮮ですね。どちらかというと、勇海くんの方がしっくりきます」


「あ、そうなんだね……」


「ええ。他には『勇海さま』とか、『勇海きゅん』とか、『ダーリン』とか」


「いかがわしい系? マジやば……こいつ」



 許嫁の妹を『こいつ』って言うな、那由。


 確かに、なんかヤバい感じがしてきてるのは……俺も同じだけど。



「いかがわしくないですよ。ただ、男装コスプレイヤーの活動以外に、地元の『執事喫茶』でナンバーワン執事もやっているので……熱狂的な女性ファンの方が多いんですよ」


「中学生がそんなバイト、アリなの?」


「バイトじゃないですよ? オーナーから熱烈にスカウトされたので、コスプレイヤー活動の一環として、お店に出してもらってるだけなので」


「もー……なんでもいいよ、ゆうくん。あんまり掘り下げるとこの子、いかに自分が女子にモテるかばっかり話すんだから」


「事実だから仕方ないでしょ。結花も、僕の女子ハーレムに入る?」


「入んないから。はぁ……久しぶりに会っても変わんないね、勇海は」


「結花は変わったね」



 すっと机に肘をついて、自分の手の甲にアゴを乗せると、勇海くんはふっと微笑んだ。



「綺麗になった……とても」

「……はぁ?」



 何その、口説き文句みたいなセリフ。



「……勇海。私はあんたの、顧客じゃないんだけど? あんまりふざけてると怒るよ?」


「あはは、ごめん。つい普段の癖でね――女の子は大体、これでイチコロだからさ」


「はぁぁぁ……もう面倒くさいなぁ、勇海は」



 イケメンな態度を続ける勇海に、結花は深く深く、ため息を吐いた。


 そんな二人を見比べながら、那由は何に納得したのか、小さく頷く。



「ま。勇海も結花ちゃんも、似たもの同士ってわけね」



 さりげに呼び捨てにしてんな、こいつ!


 俺はともかく、お前は勇海くんより年下だからな!?



「わ、私のどこが勇海に似てるの!? 私、こんな女たらしじゃないもん!」


「女たらしとは失礼だね……僕はただ、存在しているだけ。そんな僕に、女子が無意識に堕ちていくんだよ。自然の摂理さ」


「これ、これ! こんなこと言う子と、私はぜーんぜんっ、違うから!!」


「でも結花ちゃん……あのキャラ演じたりとか、声優? やってるっしょ。そのファンが、なんとかちゃーんとか、なんとか姫ーとか、言ってんの……同じじゃね?」


「おい、那由」



 聞き捨てならない発言を耳にして、俺は那由の首根っこを掴んだ。



「あのキャラじゃない……ゆうなちゃんだ。いい加減、ちゃんと名前で呼べ」

「きも」



 俺の真面目な説教を、二文字で切り捨てる那由。


 そんな俺たちの前で……結花がガクッと、崩れ落ちた。



「わ、私が……和泉いずみゆうなが、勇海と同類!? 確かに『ゆうな姫』とか、『ハニー』とか、そんなお便りもくるけど……で、でも。私は別に、男性ファンでハーレムを作りたいとか、そんな願望持ったこともないし……」


「ああ、そうそう。僕が本格的にコスプレイヤーとして活動をはじめたの、結花が家を出てからでしょ? だから、渡してなかったよね」



 なんか悶えている結花を尻目に、勇海くんはポシェットから名刺入れを取り出した。


 そして、すっと名刺を差し出して。



「はい。これが今、僕が使ってる名義ね。ちなみに、印刷してあるのは『バドミントンのおじ様』の――」


「……って! 何よこれ!!」



 勇海くんの話を遮って、結花が声を張り上げた。



「あんたのコスプレイヤー名――『和泉勇海』って! なんであんた、勝手に『和泉』でかぶせてんのっ!!」


「それは……離れていても、心は結花と一緒にいたいから、かな」


「ばーか!」



 稚拙すぎて逆に可愛くすら聞こえる罵声を放ったかと思うと、結花は立ち上がって俺の手を取った。



「どこ行くの、結花?」


「部屋に帰るの! 遊くんと!!」


「怒るとすぐに部屋にこもる……そういうところは変わらなくて、微笑ましいね。結花」


「うっさいなぁ! 子ども扱いしないでってば!!」


「仕方ないでしょ。結花の分までしっかりしようと……僕はこうして、大人になったんだから」


「むーかーつーくー!!」



 その後もしばらく、綿苗姉妹はなんだかんだ言い合いを続けていた。


 その様子を見てると――なんていうか。




 実家での結花は、こんな感じだったんだろうなって……少しだけほっこりした。

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