第6話 【衝撃】義理のきょうだいが遊びに来たら、驚くことが明らかに 2/2

 そんなこんなで。


 ダイニングテーブルに四人で腰掛けて、佐方さかた家と綿苗わたなえ家(どちらも親は不在)の初顔合わせがはじまった。



 俺の隣には、珍しく神妙な顔をしてる那由なゆ

 対面には、こちらも珍しく不機嫌そうな顔の結花ゆうか


 そして、結花の隣には――爽やかな笑顔を浮かべている、綿苗勇海いさみくん。



「初めまして、お義兄にいさん。いつも結花がお世話になってます。僕は綿苗勇海……中学三年生です。よろしくお願いしますね」



 うわっ、なんかキラキラしたオーラが……。


 中三でこの落ち着きと、爽やかさと、イケメンさ。


 身近で接したことのない人種すぎて、思わず俺は圧倒されてしまう。



「あ、えっと……佐方遊一ゆういちです。高二で……よろしくお願いします」


「……ひぃぃぃ」



 隣に座ってる那由が、嫌いな虫でも見つけたみたいな、か細い悲鳴を上げた。



「なんだよ、那由。お前も挨拶しろって」


「ひぃぃぃ……こっちの甲斐性なしの妹、佐方那由です。花の中学二年生、よろしくお願いしま……ひぃぃぃ」


「なんなの、その悲鳴? お前、ふざけてるだろ!?」


「ふざけてるのは兄さんだし。何さっきの挨拶? 相手の挨拶が光なら、兄さんのはドブだよ?」


「ドブ!? そこは普通、闇とかだろせめて!」


「いや、その域にすら達してなかったっしょ……男として完全敗北だよ、マジで。こんな弟を見慣れてる結花ちゃん……駄目の極みな兄さん……諦めたわ、試合終了だわ」


「……ふふっ。妹さんと仲良しなんですね、お義兄さん」



 そんなくだらない言い合いをする俺たちを見て、勇海くんが微笑を浮かべた。微笑んでも、イケメンはイケメン。


 そして、勇海くんは結花の方に顔を向けて。



「ねぇ、結花。お義兄さんたちに負けないよう、僕たちの仲の良さも見せようよ。両家の親交を図るためにさ」


「……どうやって?」



 臨戦態勢の猫みたいな結花は、怪訝そうな顔で勇海くんを見た。


 そんな結花に微笑みつつ、勇海くんはすっと――結花の頭に手を添えると。



「ほーら、なでなで。結花はいつも、可愛いね。えらいね」

「…………むきー!! やめろー、わー!!」



 叫ぶと同時に勇海くんの手を振り払うと、結花はじっと勇海くんを睨む。



「いっつもそうやって、私のことを『妹』みたいに扱って! 私の方が年上、お姉ちゃんなんですけど!!」


「そうだね、結花はお姉ちゃんだね。うん可愛い、可愛い」


「むきー!!」



 お姉ちゃん、言語機能を落としすぎだから。落ち着いて。



「さすが、実のきょうだいだわ。結花ちゃんの扱いに慣れてるし。イケメンだし。イケメンだし」


「なんで二回言ったの、那由?」


「那由ちゃん……それは違うよ!!」



 明らかに俺を煽ってくる那由を制したのは、結花だった。


 そしてガタッと椅子から立ち上がると、結花は両手を大きく広げて言った。



「イケメンの定義って、人それぞれだと思う! すっごい格好いいって言われてる人だって、ある人から見たら大したことないとか、よくあるし!! それでね、私の中での不動のイケメンといえば――そう、ゆうくん!!」



 大げさな身振り手振りでもって、結花がとんでもないことを言い出した。



「まずね、存在すべてが格好いい! おっきくて、優しくて、何この夢小説のキャラ!? って感じで。なのに、なんと可愛さも共存してる!! 寝顔なんてもう、天使そのもの! いや、むしろ私を魅了する小悪魔かも……? とにかくっ! 格好良くって可愛くて、私の大好きがすべて詰まったハイパー無敵イケメン――それが、遊くんなのですっ!!」



「……悪食すぎじゃね、結花ちゃん?」



 那由がドン引いてるけど、気持ちは痛いほど分かる。


 言われてる俺ですら、「それ、佐方遊一じゃないのでは?」って思ってるから。


 結花にしか見えてない、ドリーム遊くんなんじゃないかな……その人。



「お義兄さん……すごいですね。結花にここまで言わせるなんて」



 どんな解釈をしたのか知らないけど、勇海くんは感心したように呟いた。


 そして、俺の手をギュッと握って、爽やかに笑う。



「ありがとうございます、結花のことを支えてくれて。こうして直接お会いして、結花との関係を見て……正直、とても安心しました」


「ちょっとぉ! 勇海、手を離してよー! 私の遊くんなんだからー!!」



 結花が勇海くんの腕を掴んで、俺から手を離させる。


 男同士なんだし、そこまで焼きもち焼かんでも。



「あ。お義兄さん、すみません。申し訳ないのですが、タオルをお借りできますか? ここに来るまでに、結構な汗をかいてしまって……」


「ああ、今日かなり暑いもんね。廊下に出てすぐ横の部屋、空いてるから使っていいよ」


「ありがとうございます」



 丁寧にお辞儀をすると、勇海くんはいそいそとリビングを後にした。


 その後に続いて、俺は脱衣所に行って、タオルを準備する。



「遊くん、私が持っていくから貸してー」


「あ、いいよ。俺が持ってくから」


「え? いやいや、勇海がもし服を脱ぎだしてたら、まずいじゃんよ! 私が持ってくってば!!」


「え? いやいや、服を脱ぎだしてるんだったら、むしろ結花が行く方がまずいでしょ。いくら姉弟とはいえ、年頃の異性なんだから」


「え? ちょっ、遊くん? なんか誤解してない!? 勇海は――」



 タオルを届けに部屋に向かう俺の後ろで、結花がなんか騒いでるけど。


 さすがに中三の男子の着替えを、姉が見るのはまずいでしょ。


 俺が勇海くんの立場だったら、絶対そう思うし。



 ――というわけで。



 俺はノックをしてから、勇海くんのいる部屋のドアを開けた。



「…………あ」

「…………え?」



 信じられない光景に、俺は立ち尽くしたまま言葉を失ってしまった。


 執事服を脱ぎ、ワイシャツのボタンを外した勇海くんの胸元は……黒いブラジャーで覆われていた。しかも、かなり大きめのサイズので。



「ぎゃあああああああああ!?」



 絶叫とともに、結花が俺のことを突き飛ばした。


 凄まじい勢いにつんのめり、俺はそのまま部屋の床に倒れ込む。



「なに騒いでんの、兄さ……は? なんであんた、ブラしてんの? ヤバくね?」



 騒ぎを聞いて駆けつけたらしい那由が、俺と同じ反応をしてる。


 俺は地面に突っ伏したまま、おそるおそる結花に尋ねる。



「結花、ごめん。あのさ――確認していい? 勇海くん……弟なんだよね?」


「弟? ネットラジオとかで言ってる『弟』のこと? あれは……えへへっ、遊くんのことで。勇海は私の……妹だよ!」


「あはは、やっぱり男だと思ってました? すみません……実は僕、男装専門のコスプレイヤーやってるんですよ。なので、外だといつもこういう格好で。てっきり結花が、既に説明してるのかと思ってたんですが……」


「……言ってなかったっけ?」



 聞いてないよ。マジで。



「まったく。そういう抜けてるところが、『妹』っぽいって言ってるんだよ、結花」


「むぅー……それについては、ごめんなさーい。でも、姉として扱ってくださーい」



 そんな二人のやり取りを耳にしながら、俺はゆっくりと床から顔を上げた。


 すると……まったく胸元を隠してない勇海くんが。



 蠱惑的な笑みとともに、ぐいっと前屈みになって――胸の谷間をアピールしてきた。



「ぎゃああああ!? 何してんのよ、勇海ぃぃぃ!」



 絶叫しながら、俺の目を塞いでくる結花。


 痛い、痛い!? 目が潰れるから、力入れすぎだから!?



 そんなカオスな状況で。



 綿苗勇海は「ふふっ」と小さく笑ったかと思うと――落ち着いた声色で、告げた。




「というわけで……改めてよろしくお願いします、お義兄さん。僕は結花の『妹』の――綿苗勇海です」

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