第5話 【衝撃】義理のきょうだいが遊びに来たら、驚くことが明らかに 1/2

「そわそわ……そわそわ……」


「あははっ! 言葉でそわそわ感を表現する人、初めて見たよー。ゆうくんってば、可愛いなぁー」



 ごめん、それ結花ゆうかには言われたくない。


 完全にこれ、結花がうつっちゃったやつだからね?



「はぁ……情けなくね、マジ? ちょっと義理の家族と会うからって、この落ち着かなさ……引くんだけど」



 那由なゆがやれやれと、大げさに両手を広げて、ため息を吐く。



「いや、そうは言うけどな那由? 婚約してる男側にとっては、最高に緊張するイベントなんだぞ、これ」


「『貴様のような、二次元しか愛せない男に娘はやらん!』……とか、そういうのっしょ。言われたらどうすんの、兄さん?」


「あなたが決めた婚約だと思うんですけど……って言うよ、それは……」



 そもそも、俺と結花が婚約・同棲なんてことになったのは――お互いの父親が勝手に盛り上がった結果だからな?



『父さんはな、大事な時期なんだよ。海外の新しい支所の重要なポジションを任されて、このまま出世ルートを歩むか、失墜して窓際に追いやられるか』



『そんな中、父さんは得意先のお偉いさんと親しくなった。先方の娘さんは、高校から上京して一人暮らしをしているそうでな。男親としては、防犯とか悪い虫とか、色んな心配があるらしい』



 ――思い出すだけでも、どうかしてるとしか思えない、うちの親父の言葉。


 だけど……そんなどうかしてる流れがあったからこそ、俺と結花はこうして、出逢えたわけだから。


 そう考えると……あのふざけた親父に、感謝しなくもない。



 九割以上は、ふざけ過ぎてて呆れてるけどな。



「あと十分だね。兄さんが死ぬまで」



 物思いに耽っていた俺を、那由がさくっと刺してくる。



「お前……人が気持ちを落ち着けようとしてんのに、なんで邪魔する……」

「知らん。あと九分」



 こいつ、後で覚えてろよ。



「遊くん、そんなにかまえなくても大丈夫だよ? お父さんもお母さんも、遊くんのことを絶対気に入るに決まってるからっ」



 見かねたらしい結花が、そっと俺の手を握ってくる。


 そして――すぅっと息を吸い込んで。



「ゆうながずーっと、そばにいるよ! だーかーら……一緒に笑お?」



 ――――その声は。


 まるで天使の囁きのようだった。



 それを聞いた途端、俺の中にあった不安や焦り、その一切が消え去っていく。


 穢れた大地が、浄化されていくかのように。



 さすがは、ゆうなちゃん……世界の救世主だわ。



「……ね? 私もいるし、ゆうなもいるから、だいじょーぶ! なんたって私は……綿苗わたなえ結花で、和泉いずみゆうな。遊くんの許嫁で、遊くんの愛するゆうなの声優なんだから。ね?」


「ありがとう、結花……もう大丈夫。落ち着いたから」


「あと二分だけど」



 那由が煽ってくるけど、もう気にしない。


 中三の冬。


 来夢らいむにフラれた後、引きこもった俺は――ゆうなちゃんと出逢い、その一番のファンである『恋する死神』になった。



 そんな俺が、ゆうなちゃんに応援されて……へばってるわけにはいかないからな!



 ――――ピンポーン♪



 そうこうしてるうちに、遂にインターフォンが鳴り響いた。


 俺と結花は席を立ち、玄関まで綿苗家の皆さんを迎えに行く。那由も、なんだかんだ興味があるのか、ちょろちょろついてくる。



 大きく息を吸い込む。


 そして、呼吸を整えてから……俺は。



 玄関のドアを、開けた。



「――やぁ、結花。元気にしてた?」



 そこに立っていたのは、すらっとしたイケメンだった。


 長めの黒髪を首の後ろで一本に結って、おそらくカラーコンタクトを入れてるんだろう青い瞳。


 白いワイシャツの上に執事みたいな黒い礼装を纏って、黒のネクタイをタイピンで留めている。


 ぱっちりした目元と整った目鼻立ちが似てるから……多分、間違いない。



 これが結花の――『弟』。



「……勇海いさみ? あれ? お父さんとお母さんは?」



 きょとんとした表情の結花が、『勇海』と呼んだ彼に尋ねる。


 すると、彼は――なんでもないことのように言った。



「ああ。あれ、嘘だから」


「……はい?」


「父さんと母さんがこっちに来るって話……思い返してみれば分かると思うけど、直接二人から聞いてないでしょ? 二人ともそんな話、家で一切してないんだよね」


「……うん。それで?」


「要は、僕が遊びに来る口実がほしかったんだよ。そうでもしないと結花――僕と会ってくれないでしょ? 僕はいつだって、結花に会いたいと思ってるのにな」



 そう言いながら、結花のアゴをくいっと持ち上げて、顔を近づける勇海くん。


 ちょっと、ちょっと!?


 いくら姉弟だからって、その距離はさすがに近すぎ――――。



「ふ、ふ……ふざけるなー!! 勇海のばかぁぁぁぁぁl!!」



 ドスッと。


 結花の拳が、勇海くんの鳩尾を思いっきり捉えた。


 イケメンスマイルはそのままに、お腹を押さえて前屈みになる勇海くん。




 ――――と、いうわけで。


 俺と綿苗勇海の初対面は……凄まじいシチュエーションとなった。

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