第4話 俺の許嫁になった地味子、友達慣れしてなすぎて大暴走 2/2

「おー、めっちゃ飾り付けしてんじゃーん! 気合い入ってんねぇー!!」



 リビングに入ると同時に、二原にはらさんは感心したように声を上げた。


 二原さんの視線の先にあるのは、デコレーション用のシールに彩られた壁。


 星やハートがちりばめられてるだけじゃなく、『祝 ゆうくん 4か月!』なんて文字シールまで貼られてて……普通に恥ずかしいんだけど、これ。



「いやぁ、佐方さかた。愛されてんねぇー。さすがの桃乃ももの様も、ニヤニヤしちゃうわー。マジにやけるわー」


「からかってるだけでしょ、二原さんは……」


「そんなことないってぇ。ほら、仮面ランナーボイスも、言われてたじゃん? 戦うことこそが、愛。そして愛こそ……」



「「――『地球の声』なんだ!!」」



 結花ゆうかと二原さんの声が、はもった。


 セリフの意味は、これっぽっちも分かんないけど。



「……あははっ! 結ちゃん、『仮面ランナーボイス』観てくれたんだ? うわぁ、めっちゃ嬉しいんですけど!!」


「『花見軍団マンカイジャー』も観たよ! 桃ちゃんに薦められて観たら、どっちもすーっごく、面白かった!!」


「んじゃ、今度は昔の名作とかどーよ? うちが一番好きな特撮作品のブルーレイボックス、いつでも結ちゃんに貸すかんね?」


「えー、でも借りてばっかじゃ、桃ちゃんに悪いしー」



 お互い『結ちゃん』『桃ちゃん』呼びで、きゃっきゃしてる結花と二原さん。



 よかったね、結花。仲良くガールズトークのできる相手ができて……内容は特撮ネタだけど。


 なんて。


 ほのぼの見守っていると――結花がハッとした顔になる。



 そして、バツが悪そうに肩をすぼめて、小さく頭を下げた。



「あ、えっとね、桃ちゃん……登校日のとき、素っ気ない態度取っちゃって、ごめんね。本当は桃ちゃんと会えるの、楽しみで仕方なかったんだけど……学校だとどう接したらいいか、分かんなくなっちゃったんだ……」



 消え入りそうな小さな声で、結花が素直な気持ちを伝えた。


 それに対して、二原さんは。



「…………きゃ――!! 結ちゃんってば、めちゃカワすぎなんだけど――!!」



 黄色い声を上げたかと思うと。


 もじもじしてる結花のことを、ぎゅーって抱き締めた。



 おろしてる結花の髪が、ふわっと揺れる。


 そして二原さんは、結花のほっぺたに、自分のほっぺたをくっつけて。



「気にしなくていいって。そんなんで、うちが結ちゃんを……嫌うわけないっしょ」


「……うん。ありがと、桃ちゃん」


「……けっ。けっ。けけけの、けっ!」



 何その、ちゃんちゃんこ妖怪アニメのOPみたいなテンポ。


 それから大きな舌打ちをして、那由なゆは凄まじい不機嫌オーラを纏いつつ、ダイニングテーブルについた。


 そして――バクバクッと、結花の用意した肉料理にがっつきはじめる。



「あー! 那由ちゃん、待ってよ!! みんなでいただきますと、おめでとうしてから、食べ――」


「けっ」



 言語を忘れたかのごとく、やさぐれた声を出し続ける那由。


 見かねた俺は、那由の首根っこを掴んで、ダイニングテーブルから引き離す。



「ちょっ……やめろし、兄さん! いくら欲求不満だからって、妹を使って何しようとして――ご飯じゃなくて、あたしを食べるとか、マジ野獣なんだけど!!」


「言い掛かりだな!? お前が大暴れするから、こうなってんだろ!」



 ぶんっと那由をソファに放ると、俺は大きくため息を吐いた。



「ったく。分かりやすいな、お前は……結花と二原さんが仲良すぎて、嫉妬したのか」


「はぁ!? 妄想はソシャゲの中だけにしろし! あたしはべ、別に、嫉妬とかしてないから!! 誰と仲良くしても、それは結花ちゃんの……自由だし」



 話してるうちに、段々と声のトーンが落ちていく那由。


 本当に分かりやすいな、お前。



 そうして、ソファの上にあぐらを掻いて、ツンとそっぽを向いてる那由を見て。



「那由ちゃん……可愛いなぁ、もぉ!」



 結花はほっぺたが落ちそうなほどニヤニヤしながら、ギューッと那由を抱き締めた。


 恥ずかしいのか、なんかジタバタもがく那由。


 だけど、結花に抱きすくめられてるうちに――段々とおとなしくなっていく。



「もー。心配しなくても、私は那由ちゃんの『お義姉ねえちゃん』だよー?」


「離せし! 離せし!!」


「あははっ。だいじょーぶ。うち、人の大事なもん取るとか、好きじゃないかんさ」



 子犬みたいになった那由の頭を、二原さんはぽんぽんと撫でる。


 そして、しゃがみ込んで、にこっと笑い掛けると。



「那由ちゃん、結ちゃんが大好きな感じなんだね? 兄の許嫁なんて……血の繋がりもない、他人だってのに。本当の『姉』みたいに、懐いてんだ?」



 一瞬「うっさい」なんて暴言を吐きかけて……那由はしゅんと、頭を垂れた。


 そして、小さな声で呟きはじめる。



「……結花ちゃんって、優しいじゃん? だから、この甲斐性なしで、ろくでなしな兄さんを……マジで笑顔にしてくれるって。信じられるから。だから、あたしは……」


「那由……」



 鼻の奥がツンとするのを感じて、俺は慌てて鼻先を拭った。


 那由……そんな風に、俺と結花のことを考えてくれてたんだな。


 そう思うと、ただ生意気で悪さばかりすると思ってた妹のことも。


 ちょっとだけ、可愛く見えて――――。



「分かる、それ! 血の繋がりだけが、きょうだいの絆じゃないわけさ……そう、コスモミラクル兄弟のように!!」



 絶妙なタイミングで、二原さんが意味不明なことを口走った。



「……はい? コスモミラクル兄弟?」


「コスモミラクル兄弟は、宇宙守備団所属のコスモミラクルマンたちの中のエリートの総称で、いわゆる義兄弟なんだけど……その絆は、スパークするプラズマのごとし! 光る絆で、どんなピンチだって奇跡に変える――最高で最強の、兄弟なんだよ!!」


「何言ってんの、このギャル?」



 オタク特有の早口で特撮の設定を捲し立てる二原さんを、怪訝な顔で見る那由。


 かと思ったら……那由はふっと、笑い声を漏らした。



「……ま。ギャル系の見た目だけど、あんたの中身がクラマサと変わんないのは分かったし。反社会的なことしないってのも……理解したわ。マジで」


「しないっつーの。あんたも大概な子だね、那由っち?」



 そう言ってけらけら笑う二原さん。


 よかった……なんかよく分かんないけど、打ち解けたみたいだな。那由と二原さん。



「……ゆーくんっ」



 そんなことを思っていると、耳元で甘い声を囁かれて、全身がぞわぞわっとなる。


 振り向くと、はにかむように笑いながら、結花が自身の口元に手を当てた。



 そして結花は、こそこそっと呟く。



「……四か月、ありがとうでした。これからも、よろしくです……大好きな、ゆうくんっ」



 不覚にも、その笑顔に……俺はつい、ドキッとしてしまう。


 そんなとき――――。



「なぁんか、佐方と結ちゃん、良いムードじゃーん。これはうちら、お邪魔虫系?」


「ん。じゃあ兄さん、そのまま子作りしろし。あたしらは小一時間、外出てるわ」


「出なくていいから! っていうか、なんでそこで意気投合してんだよ、二人は!?」



 そんなこんなはあったけど。


 俺たちの婚約四か月記念のパーティーは、かしましく盛り上がったのだった。




 ……なんか、パーティーの主旨とズレてる気がしないでもないけど。


 まぁ――みんなが楽しく過ごせたから、良しとしよう。

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