第36話 夏祭りに女子二人と参加するんだけど、気を付けることある? 2/2

「……っと!? 今、今捕まえてたのに! なんで破けてんの、これ!?」


「あははっ! 佐方さかたの下手っぴめー。じゃあ桃乃ももの様が、華麗なる金魚すくいを見せたげようじゃないのさ!! ――って、あー!!」


二原にはらさんも、全然ね」



 騒ぐ俺と二原さんを横目に見ながら、結花ゆうかは淡々と金魚をすくいあげていた。


 その数、既に八匹。一回も失敗せずこれは、尋常じゃない。


 そんな結花に対抗意識を燃やしたのか、二原さんが言う。



「……ふーん。そんな言うんならさー、射的で勝負しようよ。綿苗わたなえさん!」

「いいけど」



 二原さんの挑戦を、余裕のポーカーフェイスで受けて。

 二人は隣にある、射的の屋台に移動した。



 最初は二原さん。



「…………ていっ!」



 弾は良い軌道で飛んでいき、ぬいぐるみ――の頬のあたりをかすめて、背面の壁にぶつかった。



「マジかー、惜しいー!! 銃には自信あったってのにぃ」

「じゃあ、今度は私」



 二原さんから銃を受け取ると、今度は結花がかまえる。


 そして――弾が発射されて。



 …………俺の額に、激突した。



「いった!? 何、今の!?」


「あははははっ! ウケる、綿苗さんー!! どうやったん? 今、完全に弾が斜め後ろに飛んでったじゃーん」


「……うっさいなぁ」



 大笑いする二原さんに不満を言いつつ、結花は持っていたハンカチを俺の額に当てた。



「ごめん、佐方くん。怪我、しなかった?」


「ああ、まぁコルク弾だしね。平気だよ」



 そんな俺たちのやり取りを、二原さんはにやにやしながら見守っている。



「……馬鹿にしてるでしょ?」


「してないっす、綿苗先輩! いやぁ、後ろには飛ばせないなぁー。すごい技術だなぁー。神懸かってんなぁー」


「めっちゃ、馬鹿にしてるじゃんよ!」



 素のトーンに近い声色で結花が言うと、二原さんがそれをからかって。


 家に比べるとややぎこちなさは残るけど、なんだかリラックスして楽しめてるように見える結花を見て。



 俺は素直に――温かい気持ちになった。




「…………」


「二原さん、どうしたの?」


「はっ!! うん、なんでもない! なんでもないよ!?」



 明らかにお面屋の屋台に飾られてる、仮面ランナーのお面を見てたけどね。


 まぁ結花と違って、自分は二原さんから直接『秘密』を教えてもらったわけじゃないから、ここは知らないことにしておこう。



 屋台を見ると、仮面ランナーやコスモミラクルマン、たくさんのお面が飾られている。


 あれは最近のスーパー軍団シリーズのお面かな……って。



 あの額のマーク、ショッピングモールで二原さんが着てたジャケットのロゴじゃん!?



 そうか、あの服もキャラグッズのひとつだったのか……。


 さすが二原桃乃。さりげなくバレないように、自分の趣味を楽しんでたんだな。



「もうちょいしたら、花火の時間だねー」


 お団子状に纏めた自分の髪を触りつつ、二原さんが言った。



 今日の夏祭りの目玉は、なんといっても花火大会だ。


 少し離れた河川敷から、何種類もの花火が打ち上げられて、夜空を鮮やかな色に染める。



 花火……か。



『……きれー。あ、でもね? ゆうなとしては、素敵な景色をあなたと見れたことが……一番嬉しいんだけどっ!』



 イベントでゆうなちゃんが言っていたセリフが、ふっと脳裏をよぎる。


 ゆうなちゃんと見上げる花火は、世界創造のビッグバンみたいに荘厳だろうけど。



 許嫁と見上げる花火も、きっと……綺麗なんだろうなって思う。



「……おっとー。ここでうちは、突然用事を思い出したね! ごめんけど、二人で先に行ってて。じゃっ!!」


「え、ちょっ……二原さん!?」



 本当になんの脈絡もなく、そんなことを口走ったかと思うと――二原さんは俺の制止も聞かず、全速力で人混みの中に消えていった。


 何その、敵を察知したヒーローみたいな、アバウトなはけ方。



「……二人っきりにしようって、してくれたのかな?」


「そうだとしても不自然だけど、そうじゃないとしたらどうかしてるよ。今の」



 まったく。


 陽キャなギャルもとい、ギャルめいた特オタは、思いもよらない行動に出るんだから。



 ――――と、そのときだった。



「ねぇねぇ、今日は桃乃来ないの?」

「なんか桃、用事があるとか言ってたぜ」



 同じクラスの男女グループが、五~六人で歩いてるのを見掛けて――俺と結花は慌てて、屋台の陰に隠れた。


 あの人たち、確か……前に二原さんに誘われて、カラオケに行ったときの。



「桃乃のいつものノリなら、絶対来たがるってのにね、お祭り」


「桃はいっつも思いついたら即行動! で、楽しむかんね。いーよねぇ……悩みとかなさそうで」


「大体笑って済ましてっしねー。こだわりがないのか、これって趣味なさそうだけど」


「いや、そういう奴の方が――やべぇ趣味とか、隠してるかもしんねぇぞ?」


「んだよ、それ。何エロいの考えてんだよ、やべぇのはお前の頭の方だろ!」



 二原さんには悩みがない、二原さんにはこだわりがない……か。


 あれだけ一緒につるんでるってのに、二原さんは本当に、自分の『秘密』を話してないんだな。



 特撮作品を侮辱されたら、絶対に許せないから。


 そうしたら、友達とギスギスしてしまうかもしれないから。



「ん……ねぇねぇ。あれ、桃乃じゃね?」



 そのときふいに――男女グループの一人が、ぽつりと呟いた。


 彼女が指差す方向に、俺もゆっくりと視線を動かす。



 すると…………そこにいたのは。



「んー……どうしよっかなぁ。お面をつけて『トーキングブレイカー』……その方が姿を変えた感は出るけど。玩具と違って精巧な作りじゃないから、クオリティ面で……でも、せっかくだから買うか……?」



 俺たちと別れたところで気が緩んだのか、さっきのお面屋の屋台前で、ぶつぶつ何か言いながら考え込んでる二原さん。


「やっぱ桃かな?」「でもあいつ、何してんだ?」「なんでお面?」なんて――男女グループの連中がひそひそと話しはじめた。



ゆうくん、このままだと二原さんが……」



 結花が焦ったように言うけど、俺も同じことを考えてた。


 これは、特撮ガチ勢だってバレたくないギャルにとって。



 まさに――――最大のピンチだ。

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