第33話 電話になると一オクターブ声が高くなる人、いるじゃん? 1/2
校外学習が終わってから、数日後。
俺と
「ねぇねぇ、
部屋着姿でソファに寝そべっていた結花は、手にしたスマホから顔を上げると、満面の笑みで言った。
結われていない黒髪が、肩のあたりでふわふわ揺れる。
垂れ目がちな瞳を爛々と輝かせている結花に、思わず笑ってしまう。
「そのRINE、俺にも来てたよ。『
校外学習から帰るとき。
二原さんがあまりにしつこく食い下がるから、俺は自分のRINEのIDを教えた。
そして同じく、結花も二原さんとIDを交換したわけなんだが。
結花はスマホをテーブルに置いて、鼻歌交じりに立ち上がる。
そして目を瞑り、妄想の世界にトリップする。
「えへへへー。学校の友達とお出掛け……しかも遊くんも一緒だなんて、すっごく楽しみ! 屋台も見に行こうね。あ、浴衣のサイズ大丈夫かなぁ?」
なんか校外学習以降、結花は終始こんな調子だ。
雑談の合間に二原さんのことを話題に出したり。
日曜朝に早起きして特撮番組を試しに観たり。
とにかく……やたら二原さんを意識してる。
まぁ、コミュ障が極まりすぎて、学校ではお堅い感じに仕上がってる結花だけど。本来は小型犬みたいな子だからな。
懐いたら、めっちゃぐいぐい来る感じ。
「二原さんって、浴衣も似合いそうだよね! ギャルっぽさと浴衣が良い感じのギャップになって、なんか色気ありそう!!」
「確かにギャップは感じそうだけどね」
「……でも、あんま二原さんばっか見たら、やだよ?」
自分から言い出したくせに、なんか急に上目遣いになって、くいっと俺の服の袖を引っ張ってくる結花。
「言われなくても、そんなことしないって」
「どうかなぁー。遊くんはー、基本的にー、胸ばっか見るからなぁー」
「ひどい言い掛かりだな!? まったく……相変わらずの焼きもち焼きなんだから」
「……嫌いになった?」
俺の腕を掴んで、シュッと自分の顔を隠す結花。
そして、にゅっと目から上だけを出して、俺の様子を窺ってくる。
「じー」
「…………」
「じ――」
「…………」
「じ――っ! じじ――――っ!!」
わざと放っておいたら、なんかじーじー言い出した。
まったく、かまってちゃんなんだから。
「はいはい。嫌いになんないから。あと、胸ばっか見たりしないから」
「……えへへー。ならば、良いですっ!」
とろけるような笑みを浮かべながら、俺の腕をぶんぶん動かして、はしゃぐ結花。
夏祭りまで、まだ日があるってのに……盛り上がるのが早いんだから、まったく。
――――ピリリリリリリッ♪
まさにそのときだった。
テーブルに置かれた結花のスマホが……着信音を鳴らした。
画面に表示されてる相手は――二原さん。しかもRINE電話。
「に、二原さんから電話!? ど、どうしよう遊くん!」
「どうしようって……普通に出たらいいんじゃない? なんか用事なのかもだし」
「ど、どんなテンションで!? 学校の友達との電話とか、慣れてなさすぎて分かんないぃぃ……『きゃっほー、結花だよ☆』みたいな感じかな!?」
「普段どおりでいいと思うよ……」
なんだ、「きゃっほー、結花だよ☆」って。
いきなりそんな謎テンションで出られたら、二原さんも動揺して切っちゃうでしょ。
「わ、分かった……普段どおり、普段どおり……」
結花は自分に言い聞かせるように、ぶつぶつ呟きながら。
スピーカー設定にして――電話に出た。
『やっほー、わったなえさーん! 元気してるー!?』
「普通」
普段どおり、ありえないほどの塩対応。
さっきまで、ニコニコしながら二原さんのことを話してた結花はどこへやら。
なんか硬い表情で、じっとスマホを睨みつけてる。
『なーんでまた、そんなぎこちない喋り方に戻ってんのさー? こないだの校外学習で、わりかし打ち解けてくれたのにー』
「別に」
『打ち解けてくれたじゃんよ! ひどいじゃんよ!! 泣いちゃうじゃんよ!』
「うるさいんだけど!」
あ、ちょっと素が出た。
そんな結花の反応に、電話の向こうでけらけら笑ってる二原さん。
『やっぱ綿苗さん、面白いね』
「人をおもちゃみたいに、言わないでよ」
『あははっ! でさ、綿苗さん……今度の夏祭りさぁ。うち……
急に自分の名前を出されて、ビクッと姿勢を正す。
その話自体は、既にさっき二人で話していたものの。
なんか、その内情を二原さんが話してるのを聞くのは……なんか気まずい。
『うちと綿苗さんと佐方の三人で、まず集合するじゃん? んで、タイミング見計らって、うちが消えるから――その後は、二人でごゆっくり的な』
「で、でも……それじゃあ二原さんが、つまらないんじゃ?」
『いいの、いいの! 綿苗さんと佐方が、いい感じになってくれたら――それがうちにとって、最高のイベントだから。ほら、なんならそのまま、おうちにお持ち帰りでもされちゃえば? きゃー!!』
まさか既におうちにいるとは、二原さんも思わないよな……。
結花も同じことを思ったのか、なんだか複雑そうな顔を浮かべている。
「あ、あの。二原さん……」
『え、やばっ!! 仮面ランナーの特番やってるし! ごめん、詳しくはまた今度ね。じゃっ!』
――プツッ。
特番という名の急用のため、結花が言い終わるより前に、二原さんは通話を切った。
「二原さんって……やっぱ優しいよね。二原さんになんの利益もないのに、私の恋をこんなに応援してくれて」
「確かにね。特撮ガチ勢がみんなそうってわけじゃないんだろうけど……二原さんはなんか、思考回路もヒーローっぽいよね」
そういえば七夕のとき、二原さんは『世界平和』なんて短冊に書いてたな。
冗談か何かだと思ってたけど、今思うと――あれが本当に、二原さんの純粋な願いだったのかも。
「私ね。二原さんの陽キャな感じ、最初は苦手だなーって思ってたんだけど。今は……もっと仲良くなりたいなって。好きだなーって、思うんだ」
――――ピリリリリリリッ♪
「……あれ? 特番観るって言ってたのに、また電話?」
さっき切れたばかりなのに、再びスマホが着信音を鳴らしはじめた。
結花は小首をかしげつつ、さっきのスピーカー設定のまま、電話に出る。
「もしもし? 特番を観るんじゃなかったの?」
『特番? なんの話をしているの、ゆうな。そもそも……貴方、そんな砕けた口調だったかしら?』
周囲が凍てつくほど、クールな美声がスマホから聞こえてきた。
それを聞いた瞬間、結花は――フリーズしたかのように、固まってしまう。
その声には、俺も聞き覚えがあった。
間違いない、これは『六番目のアリス』らんむちゃんの声優――
『ゆうな? 聞こえている? らんむだけど』
「あ、は、はい! え、えっと……えっと……」
動揺のあまり、しどろもどろになりながら。
結花は営業スマイルを浮かべて――言った。
「きゃっほー、ゆうなだよ☆」
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