第29話 ギャル「彼のこと好きでしょ?」 許嫁「で?」 まさかの展開に 1/2

「ねぇ、兄さん」

「ぎゃっ!?」



 完全に寝入っていた俺は、顔面に枕を投げつけられて、最悪な寝覚めを迎えた。


 上体を起こすと、結花ゆうかが隣ですぅすぅと寝息を立てている。


 そして、パジャマ姿のまま、上から俺を見下ろしてる――那由なゆ



「なんだよ、こんな真夜中に……」



 俺は頭を掻きながら立ち上がり、那由と一緒にリビングへ移動した。


 冷蔵庫から取り出した麦茶を飲みながら、俺は那由の言葉を待つ。



「…………」

「……兄さん。あのさ……えっと」



 言い淀むなんて珍しいな。


 いつも、なんでも好き勝手に言うくせに。



 まぁ――なんとなく話したいことは分かるし、俺の方から振るか。



二原にはらさんとは、別になんでもないし。結花以外の三次元女子と、どうこうなんて……考えないし、あり得もしないって。だから、安心して行ってこいよ」



 二原さんとのゴタゴタがあった日から、一週間弱。


 那由は主に結花と遊んだり出掛けたりして、我が家でリラックスして過ごしていた。


 そして明日からは、昔の友達と遊んだり、旅行に行ったりするらしい。



 帰ってきたついでに、日本を満喫する気満々だな、こいつは。



「……あたしさ。結花ちゃんのこと、お義姉ねえちゃんだと思ってんの。マジで」


「そっか」


「冷静に考えて、野々花ののはな来夢らいむとギャルが繋がってるとか、ないだろうし……野々花来夢の件は、もう過去のことなんだけど。でも……やっぱ心配。兄さん、マジで女に弱いから」



 人聞きが悪いな。


 ゆうなちゃんに一目惚れしたのと、結花との婚約以外で、浮いた話なんかなかったろ。



「あのな……俺もさ。結花になら、お前を安心して任せられるんだよ」


「はぁ? なんであたしの話してんの? あ、あたしは別に……」


「お前って、素直じゃないだろ? そんなお前が、なんか楽しそうに結花と過ごしてるのを見てると……兄としては、嬉しいんだよ」



 ある日突然、母親がいなくなって。


 そのせいで父親は、しばらく無気力になって。


 それとは別に、陽キャぶってた兄が急にメンタルやられて、三次元女子を避けるようになって。



 そんな落ち着かない家の中で、那由は……ろくに甘えることもできないまま、ここまで育ってきた。



 だからお前が、結花と素直に関われてるのを見るとさ――本当に、嬉しいんだ。



「俺にとっても、お前にとっても。結花は大切な存在だと思うから……俺もちゃんと、結花を大切にする。ゆうなちゃんは別次元だけど。それ以外の女子は……心配すんな」


「……けっ。分かったし」



 那由はふっと、表情を和らげた。


 そして、俺のことをいたずらな顔で見つめて。



「もし嘘吐いたら……ハリネズミ百匹飲ませるから、マジで」



 そうして那由は、友達との日本観光へと旅立っていった。



 一方、俺と結花は。


 明日から、いよいよ――校外学習に出掛けることになる。



          ◆



 うちの学校には夏休みのカリキュラムとして、三年生で修学旅行、二年生で校外学習を実施するのが慣例になっている。


 そして、今日からの校外学習は――キャンプ場で二泊三日を過ごすというもの。



 アウトドアが好きじゃない俺にとって、学校のメンツとキャンプに行くなんて苦痛でしかないんだけど……それに加えて、もうひとつ懸念がある。



「やっほー、綿苗わたなえさんっ! 数日ぶりだねぇ、元気だった?」

「普通」



 学校のグラウンド。


 バスが来るのを待ちつつ、みんながわいわい騒いでる中で――二原にはらさんが結花に、なんか絡んでる。



 眼鏡にポニーテール。

 そして、やたら硬い表情と態度。



 そんな結花と那由(偽)が同一人物だとは、さすがに二原さんも気付かないとは思うんだけど。


 二泊三日なんて長い期間だと、ボロが出ないか……少し心配になる。



「同じグループだしさ。楽しい校外学習にしよーね、綿苗さん!」

「まぁ」



 結花は相変わらずの塩対応だし、二原さんは相変わらず鋼のメンタル。


 そんな光景を、ぼんやりと眺めていると。



 結花と俺は――ふっと目が合った。ヤバい。



「…………なに、佐方さかたくん?」



 機転を利かせてくれたんだろう、結花が冷たく突き放す。



「あ、ああ……なんでもないよ、ごめんね」



 二原さんに怪しまれる前に、この場をやり過ごそう。


 相変わらずポーカーフェイスな結花に感謝しつつ、俺は二人に背を向けた。



「……綿苗さん、だめだってー。そんな素っ気ない態度したら、佐方に誤解されんよ?」



 ふいに。


 後ろでひそひそと、二原さんが結花に話し掛ける声が聞こえた。


 俺は聞いてないふりをしながら、二人の会話に耳をかたむける。



「……意味が分かりかねます」


「そんな冷たい言い方したら、佐方が勘違いすんじゃん? 自分が綿苗さんに嫌われてるんじゃね? って」


「……で?」



 相手の出方を窺っているのか、いつも以上に言い方がきつい結花。


 だけど二原さんは、そんなこと気にする様子もなく。



 おそるべき爆弾を――投下した。



「だって綿苗さん……佐方のこと、異性として好きっしょ?」

「は……はぁ!?」



 思いがけない言葉に動揺したのか、いつもの淡々とした綿苗結花の態度が崩れた。


 それに対して二原さんは、「うんうん」と、なんか納得したような反応をしてる。



「やっぱ、そっか。だって綿苗さん、普段からめっちゃ佐方のこと見てるもんねー。他の男子と、佐方を見る目――なーんか違う気がしてたんだよ!」


「ち、違わないです。妄想甚だしい……」



『触れるなオーラ』を全開にして、話を打ち切ろうとする結花。


 だけど、陽キャなギャルは臆することもなく。




「まぁ、校外学習は長いしー……ゆっくり話そっ、綿苗さん?」

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