第28話 妹にマジギレされたとき、お前らならどうする? 2/2

 ――結花ゆうかちゃん以外の悪い虫を、蹴散らす。



 そんな物騒なセリフを吐いたもんだから、何をしでかす気だとハラハラしてたけど。


 夕飯のときも、風呂が終わった後も、那由なゆの様子は普段と変わらない。


 緩めのTシャツにショートパンツなんてラフな格好で、だらんとカーペットに寝そべり、手元のトランプをじっと見てる。



「……結花ちゃん、ダウト」

「ぎゃー!?」



 結花が手札をバサバサッと床に落として、がくりとうな垂れる。


 できれば、勢いよく頭を下げないでほしい。水色のワンピースの肩紐がずれちゃって……なんか目に毒だから。



「うぅ……もう少しで上がりだったのにぃ……」


「結花ちゃん、顔に出すぎだし。バレバレだから、マジ」


「那由ちゃんがポーカーフェイスすぎるんだよぉ……」



 俺と結花と那由の三人は、カーペットの上でだらだらとトランプで遊んでいた。


 結花と那由は、前に会ったときより打ち解けて、お互いリラックスしてる感じ。



「あ。結花ちゃん。それ、ダウトっしょ」

「えぇぇ!? なんで、なんで、もぉー!!」



 ……こうして戯れてると、なんだか本当の姉妹みたいだな。



 無邪気な結花と、結花に対しては素直な那由。


 そんな二人が楽しそうに遊んでるだけで、なんだか見てるこっちがほっこりしてくる。



「はぁ……これで四連敗だよ。那由ちゃんってば、強すぎー」


「結花ちゃんがマジ弱いだけだし……けど。あたし、思った」



 負け越しでテンションの下がっている結花を、那由はじっと見つめる。


 そしていつもどおりのポーカーフェイスで、言った。



「結花ちゃんって、いいお母さんになりそう」



 ――――ん?



「結花ちゃん、マジ優しいし、母性あるし。子どもとか、めっちゃ可愛がりそう。理想のお母さん、って感じ? マジで」


「え、そ、そうかな? そんな、たいそうな者でも、ありませんが……てへ」


「いやいや、マジいけるから。今すぐ、いけるから。だから――ママになるべし」



 言うが早いか、那由はリビングの端まで駆け出した。


 そして――カチッと電気を消す。



「きゃっ!?」



 トランプに興じていたリビングが一変、暗闇に包まれる。


 そんな中――バタバタと走る音が聞こえたかと思うと、「ひっ!?」と結花の小さな悲鳴が聞こえた。



「結花!? どうしたの?」


「う、後ろから誰かに、は、羽交い締めにされて……」


「安心して、結花ちゃん。あたしだから」


「いや、安心じゃないよな!? なんでお前、いきなり結花を羽交い締めにしてんだよ!?」


「……簡単なことだし」



 ふぅっとため息が聞こえたかと思うと。


 那由の堂々たる宣言が、部屋中に響き渡った。



「悪い虫がつかないよう、二人の既成事実を作る――これが最高最善の方法じゃね?」


「お前、思った以上に頭悪いな!?」



 想像を絶する斜め下な発想に、全身の力が抜ける。



「お前な……さすがに兄として、妹の将来が心配になるレベルだぞ、これ」


「四の五の言わずに、勇気出せし。心配いらないから。あたしだって……叔母として頑張る気だから!」


「心配どころはそこじゃねぇ!!」


「見てないから。あたし、目を瞑るから。ちゃちゃっと、既成事実を作って……」


「――那由ちゃんの、ばかぁぁぁぁぁ!!」



 なんかドスって音がした。


「うぐぅぅ……」と、なんか那由の呻き声が聞こえた気がする。



 俺はそそくさと移動して、リビングの電気を点けた。



「那由ちゃん、めっ! さすがに怒るよ、もー!!」



 結花が腰に手を当てて、しゃがみ込んでる那由に向かって説教してる。


 その顔は、これまで見た中で一番真っ赤。



 一方、肘鉄でも食らったんだろう、鳩尾を押さえて悶絶中の那由。



「那由ちゃん、こんないたずら、軽々しくやっちゃだめでしょ!! こ、こういうのは……女の子にとって、すっごく大切なイベント……なんだからぁ!!」


「い、いたずらじゃなく……あたしは、本気で……」


「余計にたちが悪いでしょ、それならっ!」



 そうして、珍しく本気で説教モードになった結花に、こんこんと怒られて。


 那由は半泣きになりつつ、結花に聞こえない声量で言った。



「……これも全部、野々花ののはな来夢らいむのせいだ」




 駄目だ。


 こいつ、ぜんっぜん反省してないわ。

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