第25話 【修羅場速報】許嫁のいる家に、ギャルが押しかけてきたんだけど…… 1/2

「へぇー、ここが佐方さかたの家かぁ。一人暮らしだと、広すぎない?」


「親父と那由なゆが一緒に暮らしてた頃は普通だったけど、確かに『一人暮らし』だと、ちょっと広いかもね。『一人暮らし』だから、広いなぁ!」



 一人暮らし、をできるだけ強調してみた。

 変な勘繰りをされないように。



「それより二原にはらさん……なんでいきなり、うちに来たの? というか、なんで俺の家を知ってんの?」


「前に言ったじゃーん! 『夏休みになったら、ご飯作りに行ったげんね』って。だから、倉井くらいに住所聞いてきたわけよ」


 マサ……。



 確かにご飯作りに来るとかなんとか言ってたけど、あれ冗談じゃなかったのか。


 ギャルの本気と冗談は、うまく区別がつかない。



「あ、そうだ! 今度は倉井とか他のみんなも呼んで、佐方んちで遊ぼ!!」


 二原さんの思いがけない発言に、俺はぶっと吹き出してしまった。


 俺は思いきり首を横に振って、受け入れ拒否を示す。



「あのね、二原さん。俺は君と違って陽キャじゃないから、みんなを呼んで遊んだりしないの。陽キャはそうやって、すぐに人の家にあがり込もうとするの、やめた方がいいと思うよ?」


「陽キャ関係なくね? てか、倉井から聞いてんですけどー? 中学の頃は、みんなで佐方んちに集まって、朝までパリピしてたって」


 マサ……っ!



 っていうか、パリピはしてない。朝までゲームはしてたけど。



「それは中三までの話。それ以降の俺は新しい自分に生まれ変わって、大人数で泊まり掛けで遊んだりとか、一切してないから」


「んー……けど倉井は、高一の頃も二人で朝まで徹ゲーしてたって言ってたし? 最近はなんか、誘っても無下に断られるとか嘆いてたけど。高二で、なんかあったん?」


 マサぁぁぁぁぁ!!



 なんでもぺらぺら喋るなよ……自分の推しのらんむちゃんを見習って、もっと冷静になれって。マジで。



「そういう関係、無下にしちゃだめだよ? 自分の好きな話題で、馬鹿騒ぎできる友達なんて……ほんと貴重なんだからさ」


「そういう二原さんだって、いつも陽キャなメンバーと盛り上がってるでしょ?」


「んー……まぁ、盛り上がりは、してっけどね。佐方と倉井みたいなのとは、ちょい違うんだよ。まぁ、分かんなくていいんだけどねー」


 そんなことを、二原さんが笑いながら言っていると。


 ガタンッ――と。リビングの方からなんか音がした。



「ん? 今の何……って、そっか! 那由ちゃんが帰ってきてんのかー」


 言いながら二原さんは、太ももまであるロングブーツを脱ぎはじめる。



「って、何やってんの!? スムーズな動きで、家にあがろうとしないでよ!?」


「よいではないか、よいではないかー。那由ちゃんにも挨拶したいしさっ!」



 那由に挨拶……まさかとは思いますが、その『那由』とは、あなたの想像上の存在――っていうか、二原さんの言う『那由』の格好を普段からしてないんだよ、結花ゆうかは!?



「二原さん、待って! 散らかってたりとか、なんか色々駄目だから!!」


「うぁ!? ちょ、ちょっと佐方ってば、そんな引っ張られたらコケちゃ――ぎゃっ!?」



 慌てて俺が服を引っ張ったせいで、二原さんがバランスを崩した。


 倒れてきた二原さんの重みで、俺も後ろに倒れる。


 そして、その結果……。



 ――――二原さんが俺の上に、覆い被さる形になった。



 むぎゅっと、二原さんの豊満な胸が、俺の口元に押し付けられる。


「ひゃっ!? ちょっ、佐方! 息吹きかけちゃ……あんっ」


「く、くるし……はなれ……」



「いやあああああああああ!?」



 ホラー映画を観たときみたいな叫び声が、廊下中に響き渡った。


 そして、バタバタバタッと、リビングの方から走ってくる音がして。



「離れて、離れてー!! ゆうくんとそんなにくっついちゃ、だめぇぇぇぇぇぇ!!」


「あぎゃっ!?」



 二原さんの呻き声が聞こえたかと思うと。


 俺の口元から、二原さんの胸が――ふっと離れた。



 酸素が一気に、脳内を駆け巡っていく。


 そして同時に――「ああ、終わった」という絶望感を覚える。


 だって今の声……明らかに結花だったもの。



「いったたた……あれ? ん?」



 俺はゆっくりと上体を起こす。


 そこには、後頭部を押さえつつきょとんとした顔をする、二原さんの姿があった。


 あー……さすがにこれは、言い逃れできませんわ。



 佐方遊一ゆういちの家に、なぜかあがりこんでいる綿苗わたなえ結花。


 これからあっという間に、俺たちの関係は白日のもとに晒されて。そこから派生して、結花が和泉いずみゆうなだってこともバレて、スキャンダルになって。



 俺たちの穏やかな高校生活は――幕を閉じるんだ。



「……あ。なーんだ! やっぱ那由ちゃん、帰ってきてんじゃーん!!」



 ――――ん?


 俺はおそるおそる、後ろを振り返る。



 そこにいたのは……結花じゃなかった。



 茶髪のウィッグをツインテールに結わず、ストレートのままにして。


 眼鏡を掛けないで目元を中心にメイクを施して。



 いわゆる――二原さんの思ってる『那由』にチェンジした結花が、そこにいた。



「こ、こんにちは! 二原さん!!」



 ぺこりとおじぎすると、結花はにこっと微笑んだ。


 服装は部屋着用の水色ワンピースのままだけど……二原さんに見つかっても大丈夫なように、慌てて準備してくれたんだろう。


 ナイス機転だよ、さすがは結花!



 とか思ってると……結花はじろっと、俺のことを睨んで。


 ちょっと棘のある声色で、言った。



「ごめんなさい。『兄』が、失礼なことをして……遊くん? おっきい胸だからって、そんなに喜んでたら気持ち悪いよ? おっきいからって」


「喜んでないよ!?」


「そうかなぁ? でも遊くんは、胸が大きければ大きいほど、好きじゃんよ」


「お願いだからその勘違い、早く訂正してくれないかな……」


「……ぷっ! あははっ!! なぁんだ、佐方ってば、兄妹で仲がいいんだねぇ」



 二原さんがお腹を抱えて笑いながら、涙目でこちらを見る。


 そして二原さんは、ギュッと結花の手を握って。



「那由ちゃん、この前ぶりだねー。やっぱ、めちゃカワっ!! うち、可愛い子見ると癒やされるから……ちょー那由ちゃんと会いたくて、堪んなかったんだよ?」


「あ……え、えーと。こ、光栄です?」



 結花が首を捻りながら、もう一度おじぎをした。


 そんな二人を、交互に見ながら。



 俺は――だらだらと冷や汗が背中を伝うのを感じた。

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