第24話 【ヤバい】クラスの女子に許嫁の存在を隠してたら、大変なことになった 2/2

「あ。結花ゆうか、お茶いる?」



 学校から帰って、俺は真っ先にお茶を沸かしはじめた。

 ついでに、戸棚から貰い物のカステラも取り出す。



「ど、どうしたの? ゆうくん?」



 そんな俺を見て、結花が動揺したように口をあんぐり開ける。


 普段は結花の方が素早く、お茶淹れたりしてくれてるもんな。


 だけど、そんな結花の当然の疑念はスルーして、俺は淡々とお茶の準備をする。



「あ。カステラ以外に、せんべいもあるけど、いる?」


「だーかーら! なんでそんな、いつもと違う対応するのさー!?」



 シュシュを外してポニーテールをばさりとおろすと、結花は眼鏡をテーブルに置いて、裸眼のまま上目遣いに睨んできた。


 まだ部屋着に着替えてないから、学校の結花と家の結花の中間みたいな感じで、なんだか新鮮。



 そして結花は、俺の顔を覗き込んだまま、唇を尖らせる。



「ひょっとして、なんか怒ってる?」


「怒ってるわけないでしょ。ほら、お茶だよ結花」


「じゃあ……なんかやましいこと、ある? あるんでしょーっ!!」



 急にギアを入れてきた結花が、むきーっと両腕を振り上げた。



「もぉー、遊くんのばかー! なんか知らないけど、ばーかばーか!!」


「お、落ち着いてって! やましいこととかじゃなくって……むしろ結花が、怒ってるんじゃないかなって」


「……ふぇ? 私が? 遊くんに? なんで?」



 両腕をおろして、結花はぽかんと大きく口を開ける。


 そんな結花に対して、俺はためらいがちに言った。



二原にはらさんがさ。もしもきょうだいから、ヤバいエロ服勧められたら……って話を振ったでしょ? あれに対して、結花がさ」


「――馬鹿にしないで」



 極寒の声色で、結花が呟いた。


 眼鏡を外すと垂れ目な結花だけど、なんだか今は、怒りで目がつり上がってる気がする。



 そんな結花を見て――俺は飛び上がり、しゅたっと地面に膝をついて頭を下げた。


 いわゆる、ジャンピング土下座だ。



「ちょっ!? 遊くん、何してんの!?」


「このたびは大変申し訳ないことをしたと、非常に遺憾の意を抱いており――」


「だーかーらっ! なんの話なのって言ってんじゃんよー、もぉー!!」



 いや、だってさ。


 様々な不幸が重なったとはいえ、俺は結花に、露出の激しい服を着せたわけで。


 ノリノリでファッションショーをやってくれたと思ってたけど……実は内心、俺のことを蔑んでて。


 ほら。ラジオとかだと、俺のことを『弟』って話してるしさ。



 だから――俺に対して、「馬鹿にしないで」って言ってるのかと思いまして……。




 そんな俺の独白を聞いた結花は、大きくため息を吐いた。



「えっと……遊くんって、おばかさん?」


 ジャンピング土下座の姿勢から、俺はおそるおそる顔だけ上げる。


 そこには、アゴに手を当てて、困ったように眉をひそめている結花の姿が。



「んーと、私に中学生のきょうだいがいるのは、前に言ったよね? 私だけ上京してきたから、向こうは地元にいるけど」



 それは覚えてる。


 前に那由なゆが帰省して家の中をかき回しまくったときに、そんな話をしてた。



「いっつも私のことを『お姉ちゃん』じゃなくって、自分より年下みたいに扱って、すっごいちょっかい出してきて……ほんっとうに、可愛くないの! だから、うちの子に二原さんが言ったようなことをされたら……『馬鹿にしないで』って思うなぁって。ただ、それだけのことっ!!」


「えっと……じゃあ、一昨日の俺の愚行については……」


「いちいち聞かないでよ、もぉ……」



 結花はもじもじと、制服のスカートの裾をいじりはじめる。

 そしてギュッと、目を瞑って。



「ゆ、遊くんにだったら! は、恥ずかしいけど……見せたって、かまわないもんっ!!」



 言いきってから、カーッと顔が赤くなっていく結花。


 そんな結花を見ていたら、なんか俺まで頬が熱くなってくる。



「だ、だからって。あんま、えっちなことばっかお願いしたら……やだからね?」


「し、しないよ! だ、大丈夫だから……」



 お互いにしどろもどろになりながら、視線を交差させる。


 すると結花は、とろけるように潤んでいた瞳を……そっと瞑った。



 その口元はキュッと閉じられて、少しだけ震えてる。



 ――――その瞬間。



 結花が俺だけのために、家でミニライブを開いてくれたあの日を思い出す。


 俺は無意識に、自分の唇を軽く拭った。



 そして……結花の肩に手を掛ける。



「……んっ」


 結花が小さく呻く。


 だけど、目を瞑って口元を閉じている姿勢を、崩す気配はない。



 周囲の音が、一斉に消えたような錯覚を覚えた。


 この世界に俺たち二人しかいないような、そんな夢うつつ。




 そして。


 俺はゆっくりと。


 結花の唇に、顔を近づけて――――。




「……おーい! さーかーたぁー!!」



 インターフォンが鳴り響く。


 それと同時に、玄関先から聞き覚えのある声が聞こえてきて……俺と結花は、どちらからともなくバッと身体を離した。



 そして、二人で顔を見合わせて。



「い、今のって二原さんの声、だよね?」


「に、二原さんとは! い、家に遊びに来るような関係だったの!?」


「違うよ! 違うからこんなに動揺してるの!!」



 その間にも、ピンポーン、ピンポーンと、インターフォンが鳴り響く。



「おっかしいなぁ。部屋の電気ついてんのに……さーかーたーってばぁ!」



 事情はまったく分かんないけど。


 取りあえず、出るしかないか……。



「……どうしたの、二原さん?」



 俺はガチャッと玄関の扉を開けて、客人の顔を見る。


 ピンク色のジャケットに、ミニスカート。太ももまであるロングブーツ。

 そんな、学校とは印象の違う私服に身を包んだ二原さんは――ニカッと笑って。



「やっほ、佐方さかた! 遊びに、来ちゃった☆」




 ………?


 えっと…………なんで?

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