第22話 【アリラジ ネタバレ】らんむ様の意識高すぎ問題 2/2

 その後も、和泉いずみゆうな&掘田ほったでるが和気藹々と話を盛り上げて、紫ノ宮しのみやらんむがクールに切る展開が続く。



「掘田さん! なんで私のことは『ちゃん』付けで、らんむ先輩のことは呼び捨てなんですかっ!?」


「あー。意識してなかったけど、なんか癖でそう言ってるかも。ほら、らんむの方が芸歴長いし」


「最初は確か、私も『らんむちゃん』って呼ばれてましたね」


「そうそう。でも、らんむはなんか――ちゃん付けって感じじゃないじゃん? だからいつの間にか、呼び捨てになったよねー」


「えー? なんか特別感ありますね、それ? ずるいですよー、掘田さん!」


「それ言うなら、ゆうなちゃんだって、らんむのことだけ『先輩』呼びでしょーが。っていうか、あんまり『先輩』って呼ぶ人見ないよ?」


「え、そうです?」


「体育会系の部活っぽいじゃん、『先輩』呼び。『アリステ』だと、るいさんが芸歴わたしより長いけど、『るい先輩』って呼んだことないもん」


「あ、るいさんがヒロイン役のアニメ、観ました? 人を好きになると死んじゃう病気を乗り越える二人に、ほんっとーに感動――」


「ゆうなちゃん、別な作品の話はNGだから!!」



 そのアニメ、二人で最近観たな。



 前に出演した『アリラジ』で、俺とのエピソードを『弟』でコーティングして全国に垂れ流した結花ゆうか


 お願いだから、今日は同じ轍を踏まないでくれよ?


 あれ、マジで放送事故直前だったから。



「あ。そのアニメ、ひょっとして弟くんと一緒に観たんじゃない?」

「はい! アニメも最高でしたけど、弟のことはもっと好きです!!」



 なんでその話を振るんだ、掘田でる!?


 俺はキーボードの上に、がくりと突っ伏す。



「らんむは知らないよね。ゆうなちゃんって、弟への愛が異常なんだよ?」


「そうなの、ゆうな?」


「はい! 上京してきて、今は弟と二人暮らしなんですけど!! 私の弟、可愛いしかないんですよ!! すごいんです! 可愛さが!! 溢れ出てるんです!!」


「どんなテンションだよ……ゆうなちゃん、弟に手を出したら違法って分かってる?」



 自分で振ったのに、ドン引きするのやめて掘田でる!?


 爆弾に着火したんだから、きちんと処理して! 処理を!!



「ゆうな――弟のこと、どれくらい好きなの?」

「宇宙で一番愛してます」



 紫ノ宮らんむのキラーパスに、即答する結花。


 全国に配信される、弟でコーティングした許嫁への告白……何このシチュエーション。



 恥ずかしいし、万が一バレたらファンから血祭りにされる未来しか見えない。



「一緒に寝たりとか、一緒に登校したりとか、ヤバいんだよね。お願いだから事件だけは起こさないでよ、ゆうなちゃん?」


「事件ってなんですか!? 掘田さん、相変わらず発想がえっちな方向すぎ――」



「……私は、『アイドル』という仕事を、宇宙で一番愛してるわ」



 二人の会話を遮って、紫ノ宮らんむが強い語調で言い放った。



「トップアイドルになるために、私はすべてを捨てる覚悟がある。『愛』という感情は、ファンにだけ注ぐと決めてるわ。だから――私は恋なんて、興味がない」


「……えっと、らんむ先輩? 私、弟の話をしてるんですけど……」


「ごめんなさいね。まるで、恋する乙女みたいな顔だったから。家族とはいえ……そこまで偏愛だと、アイドルの高みにのぼる障害になるんじゃないかって。そう、思っただけのことよ。まぁそれも――貴方の選ぶ道だから、好きにすればいいけれど」


「さすが、らんむ! アリスアイドル随一のストイックさだねぇー!!」



 掘田でるが茶々を入れたけど、多分――わざとだと思う。


 その言葉で空気が少し和んだからいいものの。



 紫ノ宮らんむのストイックさと、和泉ゆうなの無邪気な天然さのブレンドは……一歩間違えたら、大爆発を起こしかねない。



『恋する死神』としての勘が、俺にそう囁いていた。



「……私の場合は、弟のことも大好きだし、もちろんファンのことも大好きだし、一緒に頑張るアリスアイドルだって大好きです。私は――いーっぱいの愛を持ったまま、笑顔でよーし頑張るぞっ! って思うタイプなんですっ」



「貴方のそのたくさんの愛とやらを、私はアイドルという仕事にすべて捧げるわ。限りある愛のキャパシティを、アイドルにだけ注ぐことで――私は次こそ、アリスアイドルの最高峰『トップアリス』に、なってみせるから」



「――わ、わたくしは、石油をすべて捧げます! 愛と油は、世界を救うのですよ?」



 自分の主張を曲げない二人の間に、でるちゃんのキャラボイスで掘田でるが割り込んだ。


 先輩声優のフォローに、さすがの二人も察したのか、キャラボイスに切り替えて。



「ゆ、ゆうなは! みーんなが笑顔でいてくれることが、一番の幸せだからっ!! だーかーら……今日もアイドル、頑張るもんねっ!!」


「私は『トップアリス』に、必ず辿り着く。その日を楽しみに待っているといいわ……振り落とされず、ついてきなさい」



「いやぁー。やっぱりキャラによって、考え方も違うもんだね。そんな、個性的なメンバーが他にもたくさん! 『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』――どうぞ応援、よろしくお願いしまーす!」


―――――――――――――――――――――――――――――――


『今すぐリタイア! マジカルガールズ』のブルーレイ、大好評発売中だよっ☆


 二巻の初回生産版には、ミニドラマ『雪降る世界のお姫様(?)』を収録。


 今回は『あの』後輩魔法少女のサイン入り缶バッジ付きで、お値段は六千三百円!


 魔法少女の魅力で、みんなキュン死、間違いなしだねっ!!



 買わない人はぁ――お掃除しちゃうゾ☆



          ◆


「ぎゃあああああああああ!?」

「うわぁ!?」



 掘田でるが綺麗にさばいてCMに切り替わったところで、室内に絶叫が響き渡った。


 慌てて振り返ると、そこには寝癖がぴょこんとはねてる結花の姿が。



「私が寝てる間に……聴いちゃだめって、言ったじゃんよ!」


「逆にさ? 俺がゆうなちゃんパーソナリティの神回を、どうして聴かないと思うの?」


「うるさいなぁ、開き直らないでってば!」



 目元をごしごしと擦りながら、結花は近づいてきて、俺の胸元をぽかぽか叩く。



「……この回は、やなんだよー。らんむ先輩の言葉にスイッチ入っちゃって、棘のある言い方になってるからー……」


「そこまで棘ってほどじゃなかったけど……そんな自分の態度を、聴かれたくなかったってこと?」


「……違くて」



 俺の胸元に顔を埋めると、結花はぽそっと呟いた。



「らんむ先輩の応援で駆けつけたのに。らんむ先輩に不快な思いをさせちゃった自分に落ち込むから……この回は、やなんだもん」



 その言葉を聞いた俺は、なんだか温かな気持ちになる。


 ストイックな紫ノ宮らんむと、無邪気な和泉ゆうな。


 それぞれの主張はすれ違ってしまったけど、やっぱり結花の根っこは――優しさに溢れてるんだよな。



 俺は敢えて何も言わずに、結花の頭をよしよしと撫でる。



 心優しい許嫁に……少しでも笑顔のお返しをしたいって、思ったから。




 あ――ちなみに。


『アリラジ』の続きは、結花が寝静まった後に消化しました。



 結花の気持ちは分かるけど。


 さすがにゆうなちゃんの出演番組の視聴は、譲れないんだ――『恋する死神』として。

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