第19話 和泉ゆうなが、自宅でファッションショー → 衝撃の結果 1/2

 リビングのソファで、ごろりと横になって。


 俺はひたすら、『アリステ』のガチャを回していた。



 今日からはじまったイベントは、『アリスなでしこ七変化☆ 色んなコスであなたをお出迎え!』。


 アリスアイドルたちが、いつもとギャップのあるコスチュームを纏うことで、新たな魅力を打ち出すという――神イベントだ。



 さすが『アリステ』の運営。俺たちユーザーのニーズを、的確に理解している。


 ――――だけど。



「出ない……ゆうなちゃんが、出ないだと……っ!?」



 いつもならそろそろ出てもいい頃だってのに、一向にゆうなちゃんが来る気配がない。



『おい、遊一ゆういち! でるちゃんのSSR、ナース服だったぞ!!』


 マサからのRINEがポップアップされたので、俺はてきぱきと返す。



『らんむちゃんのUR メイド服 出た』



 既読がつくが早いか、RINE電話が掛かってきた。



「もしもし、マサ?」


『遊一……なんでお前が、俺の推しを当ててんだよっ! URだぞ? お前……本当に人間か?』


「ガチャ当てただけで、人を化け物みたいに言うな。あるだろ、そういうとき? 今回の一発目が、まさかのらんむちゃんURだったんだよ」


『しかもメイド服……らんむ様が、メイド姿になってんだろ!? なんだよそれ、楽園じゃねぇか……俺、もう死のうかな』


「なんでだよ。死ぬんなら当ててからにしろよ」



 そのまま、らんむちゃん愛を延々と語り出したから、容赦なくガチャ切り。


 申し訳ないけど、今はお前の相手をしてる暇はないんだよ……マサ。


 俺は今、ゆうなちゃんを手に入れるため――戦ってるんだからな!



「ゆーうくーんっ!」



 そうやって一人、スマホに向かって白熱していると。


 リビングのドアの開く音とともに、結花ゆうかの声が聞こえてきた。



「どうしたの、結花?」


 俺はスマホのガチャを回しつつ、空返事を返す。



 親しき仲とはいえ失礼なのは分かってるけど、ゆうなちゃんを当てないと――うお、るいちゃんのURだと!?


 なんで今回、こんなURが出るのに、肝心のゆうなちゃんが出ないんだよ……ゆうなちゃんはいつもノーマルだから、五回も回せば出るってのに……。



「ゆーくーん」


「ん? なぁに結花?」


ゆうくん、ゆーくーん、ゆうくん? ゆっくん♪ ゆーゆー? ゆゆゆゆゆゆゆ、遊くんっ!!」



 なんか色んなバリエーションの呼び方で、自己主張をしはじめた。


 かまってほしい圧を、凄まじく感じる……。


 というわけで、俺はスマホを片手に持ったまま、ゆっくりと顔を上げた。



 ――そこには。



「えへへっ……にーはお、遊くん?」



 大きくてまつ毛のびっしり生えた垂れ目。

 猫みたいにきゅるんとした口元。


 そして、トレードマークの茶色い髪を、お団子みたいに纏めて。



 結花――というか和泉いずみゆうなが、スリットの際どいチャイナドレス姿で立っていた。



「……はい?」



 予想だにしなかった光景に、俺は変な声を出してしまう。


 そんな俺の反応に気を良くしたのか、はにかみ笑いを浮かべる結花。



「ど、どうかな遊くん……ドキドキする?」


「困惑してるよ、どっちかっていうと。なんでチャイナドレ――って、それ! 昨日、二原にはらさんが着てたやつか!?」


「……そうですー。遊くんが二原さんに着せて、喜んでた服ですー」



 よく分かんないけど、結花がジト目で俺のことを見てきた。


 そして、独り言ちるように漏らす。



「私だって、同じ服を着たら、二原さんに負けないもん……というわけで、昨日こっそり、買っておいたってわけ。どうアルか、似合うアルか遊くん?」


「何そのいい加減な、中国っぽい喋り方……」



 マジで何してんだ、うちの許嫁は。


 思わず頭を抱えつつ、俺は取りあえず結花を諭そうとする。



「あのね、結花。別に俺は、チャイナドレスが性癖なわけじゃないし、二原さんが着たからどうってわけじゃ――」


「じゃ、じゃあ! こっちだったらどうかな!?」



 俺の言葉を途中で遮ると、結花は廊下の方にバタバタと駆けていった。


 そして今度は、結花は髪の毛をおろして――。



「遊くん……にゃーお」

「ばかなの、結花は!?」



 もふもふの耳に、もふもふの手袋(肉球付き)。

 お腹の部分が丸々露出された、もふもふのコスチューム。

 もふもふのショートパンツから生えた、ぴょこんとした尻尾。



 要するに――かなりセクシーな、猫のコスプレをしていた。



「これも昨日、遊くん好きかなって思って……まとめて買ったんだ」


「あの店、コスプレショップかなんかだったの?」



『童貞を殺す』ニットのセーターに、チャイナドレスに、猫コスプレ。


 どう考えても、普通の服屋で売ってる品とは思えない。



「じゃあ、こっちも見てっ!!」



 そう言い残して、廊下の方に消えていく結花。


 いつの間にか、和泉ゆうなのファッションショーみたいになってきたな……。



 そして今度は、結花は茶色い髪をツインテールに結って――。



「遊くん! 一緒に運動しない?」

「そんなのまで売ってんの!?」



 それは、二次元以外ではお見掛けしない、ブルマだった。


 白い体操服の裾を中にしまい、紺色のブルマを穿いた結花は、ツインテールを揺らしながらにこっと微笑む。



 やっぱり昨日の服屋、法的にアウトな店でしょ。


 ブルマなんて売ってるところ、これまで見たことないわ。マジで。



 ――――なんて。


 必死に違うことに意識を向けようとしてるけど。



 正直、ゆうなちゃんの格好をした結花が、色んなコスプレでポーズを決めてるこの状況は……止まるんじゃないかってほど、心臓がバクバク鳴っててヤバい。



「遊くん、どれが一番好みだった? それとも、もっと違うの……が……」



 そう言い掛けたところで。


 結花は、俺が右手に持ってるスマホの画面を見て、ハッとした顔になった。



 そのまま何も言わず、結花は廊下の方に駆けていく。



 なんだろうと思いつつ、俺は自分のスマホに視線を落とした。



『ゆうな SR  眼鏡&黒髪ポニテで賢い優等生キャラに!』



 色んな感情の渦に巻き込まれて、俺は思わず叫び出しそうになる。



 ゆうなちゃん……そっか。ついにSRになったんだ。


 だから今回は、やたらと出づらかったんだね。



 俺はスマホを握り締め、ゆうなちゃんのレアリティアップの喜びを噛み締める。



 はぁ……黒髪バージョンでも、ゆうなちゃんは可愛いなぁ。


 眼鏡とポニーテールで真面目な感じにしても、内から溢れ出る可愛いオーラを感じる。


 優等生っぽさと可愛さのハイブリッド――さすが運営。良い仕事をしてくれる。



 でも……なんかこの見た目、学校のときの結花っぽいような……。



佐方さかたくん。こっちを見て」



 そんな俺に、なんだか淡々とした口調で結花が声を掛けてきた。


 ゆっくりと振り返り、廊下から帰ってきた結花を見ると。




 そこには――例の『童貞を殺す』ニットセーターを着た、学校仕様の綿苗わたなえ結花がいた。

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