第4話 【教えて】今日がなんの日か、分かる人いる? 2/2

 そんなわけで。


 七月六日の婚約三か月記念日を祝うため、パーティーを開く流れになった。



 ……普通、三か月刻みでお祝いするのか?



 このペースだと、アニメが一クール終わるたびに、記念日が来ることになるんだけど……まぁ割と本気でやりそうだな、結花ゆうかなら。


 無邪気な許嫁の顔を思い浮かべて、俺はつい苦笑してしまう。



 ――ゆうなちゃんも、こういうことしそうだよな。



 やっぱり結花は、和泉いずみゆうな。


 キャラが中の人に似るのか、中の人にキャラが似るのか、分かんないけど……リンクするところが多いなって思う。



「えっと、クラッカー、クラッカー……」



 結花が家でパーティー用の豪勢な料理を作ってる間に、俺はパーティーグッズの買い出しのため、量販店に来ていた。


 盛大にお祝いしたいって言ってたし、取りあえずクラッカーはいるよな。

 後はなんだろ……音楽が流れてくる感じのグッズとか?


 普段パーティーとかしないし、自分のセンスが合ってるのか自信ないけど。



 取りあえず目の前にある、顔の描かれた花の置物を触ってみる。



『きゅんぴょこー』



 気の抜ける声を出しながら、花の置物はうねうねと踊りはじめた。


 ……なんか違うな、これ。



 そうして、俺がアゴに手を当てて考え込んでいると。


『ボイスバレット【フェアリー】――チャーミングフェアリー!!』



 い、今のは――和泉ゆうなの音声?



 無機質な音声の後に聞こえてきたのは、確かに和泉ゆうなの声だった。


 なんか、変な技名みたいなのを叫んでたけど。



 なんだろうと思い、俺は音声の聞こえた店の奥へと移動する。


 そこには――――。



「うりゃ!」

『ボイスバレット【ヒート】――デッドブレイズ』



 なんかゴツい銃のおもちゃを店内でかまえてる、クラスのギャル――二原にはらさんがいた。


 引き金を引くと、先ほどと違う音声が聞こえ……って今の、紫ノ宮しのみやらんむの声だな!?


 なにあの、『アリスアイドル』が変な技名を唱える、妙な武器は?



「……あ」


 ボーッと考えながら見ていると、銃をかまえた二原さんとバッチリ目が合った。


 そして、少しの間を置いて。



「あ、ああー! 誰かと思えば、佐方さかたじゃーん!! どしたの、こんなとこで!?」


「いや、普通に買い物だけど……二原さん、なんでそんな焦ってんの?」


「べ、別に焦ってないし! うちもただ、買い物に来てただけだよ!!」


「そうなの? なんか……コスモミラクルマン? の武器持――」


「これは仮面ランナーボイスの武器『トーキングブレイカー』、コスモミラクルマンの武器じゃないよ。同じ特撮番組の括りだけど」


「はい?」



 何語?


 そんな俺の反応を見て、二原さんはハッとした顔になる。



「あー……うちってほら、ちっちゃい子と遊ぶの、得意じゃん? こないだのボランティアみたいにさ。だからわりかし、特撮的なの? 詳しいんだよ!」


 あー……確かに、郷崎ごうさき先生に頼まれた保育園のボランティアで、子どもとノリノリでコスモミラクルマンごっこしてたもんな。


 いつも『精神的お姉さん』とか言って俺にかまってくるくらいだから、ひょっとしたら年の離れた弟でもいるのかもしれない。



 ……って、それはいいとして。



「二原さん、その銃――なんか色んな女の人の声、聞こえてこなかった?」


「ん? ああ。仮面ランナーボイスは、声を武器に戦うんだよ。この声霊銃せいれいじゅう『トーキングブレイカー』に、マイク型アイテムをスキャンして引き金を引くと、色んな『声』が流れてきて。んで、その声のタイプによって、攻撃の属性が変わるんだよ。こんな感じ」



『ボイスバレット【ブレイク】――オイルショック!』



 今度は掘田ほったでるの声じゃん。


 なんなの、アリスアイドルとコラボでもしてるの?



「どしたの、佐方? そんなジッと見て……あ。い、今の説明も、ちょっと子どもとかから聞いて、知ってる的なやつだかんね?」



 いや、分かってるけど。どうしたの、そんな早口に?



 ――――ブルブルッ♪



 そんなやり取りをしてると、ポケットの中でスマホが振動した。



ゆうくん、ごめーん! 焼き肉のたれ、切れちゃってた……お願いしていいかな?』



 なるほど。今日は焼き肉か。


 俺は『了解だよ』とだけ返すと、スマホをポケットにしまう。



「じゃあ、二原さん。俺、ちょっとスーパーの方に寄って帰るから……」


「あ、そっか。佐方って確か、一人暮らしなんだもんね? 自炊とかすんだね?」


「ま、まぁね」


「あんなに調理実習、ヤバいのしか作んないのに」


「ま、まぁ……食べれないわけじゃないし」



 結花との同棲がバレないよう、言葉に気を付けながら答える俺。


 それに対して、二原さんはなんか知らないけどアゴに手を当てて考え込み――ポンッと手を打った。



「んじゃ、今度うちがご飯作りに行ったげるよ! こう見えて、うちは意外と料理得意なんだかんね?」


「え!? い、いや、別に大丈夫だよ!?」


「遠慮しないでってぇ。そうだなぁ……もうすぐ夏休みだし、そしたら遊びに行く! んで、めっちゃおいしいの、作ったげるよ。男子の心を掴むには胃袋からって言うしね!」



 俺の心を掴んで、一体どうしたいんだ。このギャルは。


 というか、家には結花がいるから、マジでそういうのは勘弁してほしい。


 これ以上、変な方向に話が進まないよう、俺は会話を打ち切って、地下にあるスーパーへ移動しようとする。



 ――――けど。


 どうしても、二原さんの持ってる銃だけが……気になって頭から離れない。



          ◆



「じゃーん! 結花特製、パーティーメニューだよー!!」



 食卓に並べられたのは、卓上のホットプレートで準備された焼き肉。


 ……だけじゃなくて、ステーキとか、お寿司とか、ローストビーフとか。


 尋常じゃない量と種類の料理が、所狭しと置かれていた。



「……多すぎじゃない、さすがに?」


「ふっふっふー。まだまだ、こんなもんじゃないよ!」



 得意げな様子でキッチンの方に引っこむと、結花はお皿に載ったケーキを持ってきた。



「……え? それ、ひょっとして手作り?」


「うん! お菓子はあんま得意じゃないから、おいしくなかったら、ごめんね?」


 ホワイトクリームで作られたそのケーキは、大げさじゃなく――お店に置いてあってもおかしくないような見栄えだった。


 そして、ケーキの上に置かれたチョコレートプレートには、クリームでメッセージが。



『これからもよろしくね、遊くん☆』



「……ありがとね、結花」


 小さな声で独り言ちて、俺はクラッカーを結花に渡した。

 そして、いっせーので、の掛け声で。



「三か月おめでとー、遊くん!!」


『ボイスバレット【フェアリー】――チャーミングフェアリー!!』


「ぎゃあああああ!?」



 クラッカーの代わりに、俺は仮面ランナーの銃を鳴らしてみたんだけど……なんか結花が、物凄い絶叫した。


 そして、俺から銃を奪い取ると。



「な、なんでこれ……買ってきてんの、遊くん!?」


「逆に考えて? これ、アリスアイドルの声が収録されてるんでしょ? そんなものをノーチェックだった自分が、むしろ恥ずかしい……当然、即買いだったよ」


「アリスアイドルとは関係ないから! この作品のメインキャラに掘田さんが声を当ててるから、私は事務所のバーターで一種類だけ収録……っていうか、普通に私、制作会社から貰った一個が家にあるのに! わざわざ買ってまで、こんな辱め……もぉー!!」



 そっか。ゆうなちゃんとは関係なかったのか。


 でもまぁ……結花が声優として頑張ってる証拠だし。



 俺としては、買ってよかったって思うけどな。




 まぁ、それはともかく。


 三か月記念おめでとう――結花。

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