第15話 【急募】お忍びデートから、彼女バレせず帰宅する方法について 1/2

 ゆうなちゃんの格好を模した声優・和泉いずみゆうな――もとい、俺の許嫁こと綿苗わたなえ結花ゆうかが、店に入ってから一分も経たずに。


 俺はクラスのギャル――二原にはら桃乃もものと、なぜか遭遇していた。



 普段は制服を着崩してるイメージしかない二原さんだけど、今日の彼女はピンクのジャケットに、ミニスカート。


 ジャケットの胸元には、見たことのない五色のロゴが入ってる。



 なんか……ギャルっぽくないな、全然。



「こ、こんなとこで佐方さかたと会うだなんて……これってひょっとして、運命っ!?」


「そんな大げさなやつじゃないよ。ただの偶然だから」


「……はぁ。盛り下げてくんね? ムードってもんがないなぁ」



 言いながら二原さんは、一人でけらけらと笑う。


 だけど、ジャケットでビシッと決めてる二原さんだと、やっぱり普段と印象が違うな。


 ――なんて、考えてると。



「あれ? ひょっとして佐方、こーいう服装が好みなん? めっちゃじろじろ見てるし」


「じろじろって人聞きが悪いな! 普段のイメージと違うって、気になっただけだよ」


「んー? そんな違うかね、これ? 普段うちのキャラ、どんなんだと思ってるん?」


「陽キャなギャル」


「まだ言ってんの、それ? うちは陰キャな町娘だっての」



 そっちこそ、まだそれ言ってんのか。


 陰キャでもないし、町娘っぽくもないでしょ。二原さんは。



 ……ん? そういえば、さっきから二原さん、後ろ手になんか袋を持ってるな。



「二原さん、何を買ったの、それ?」

「え……な、に、も?」



 唐突に歯切れが悪くなる二原さん。


 何その、あからさまに不自然な感じ。



「いや、別に言いづらいんならいいけどさ。なんか持ってたから……っていうかその袋、確かあっちのおもちゃ屋のじゃ――」


「い、言いづらいものなんか、買ってないし! う、うちはただ……そう! 服を買いに来ただけだから!!」



 そう言ってビシッと。


 二原さんは――さっき結花が入っていった服屋を指差した。



「え!? いやいや、明らかに服を買いに来たんじゃないよね!? 詮索して迷惑だったんなら謝るから、無理して入らなくていいよ!!」


「む、無理してないし! うちは最初から!! ここに用事があったの! じゃあ、うちが色んな服を着てみせるから……佐方、どれが似合うか選んでよね!!」


「なんでそうなるの!?」



 俺が止めれば止めるほど、二原さんは頑なになって。


 もはや収拾がつかない流れになってしまった……。



「……あ。あと、関係ないけど……佐方。この駅近にある『ライムライト』って喫茶店、絶対に行っちゃ駄目だかんね? これは友達として……言っとく」



 はい? なんだって?


 急に真面目なトーンで、二原さんがなんか言ってたけど……一連の流れに動揺して、マジで聞いてなかった。



 まぁ、それはいったん置いとこう。


 そんなことより、これ……相当まずくない?



ゆうくーんっ! この中で、どの服が好みでーすかっ?」



 そこに――何も知らない結花が、キャップの下から無邪気な顔を覗かせながら、駆け寄ってきた。


 俺は慌てて、二原さんに気付かれてないかを確認する。



 ……奥の方に行ってるみたいだな。よし。



「なんで、きょろきょろしてるの? なんか店内に気になるものが――」

「ああ、これ! こっちの方が好きかな!!」



 結花が後ろを向かないうちにと、俺は焦りながら適当な一着を選んだ。



「え……そ、そっか。こーいうのが、遊くん好きなんだね……よしっ。じゃあ、思いきって試着してくるね!!」



 なんか知らないけど重々しく頷いてから、結花は試着室の方へと駆けていった。


 と、そこへ――――。



「おーい、佐方! ねぇねぇ。これとこれ、どっちの方が可愛いと思うか教えて?」



 間髪入れずに、今度は二原さんが駆け寄ってきて、なんか服を提示してきた。


 ニアミスもいいところだから、本気で焦るんだけど。



 結花が帰ってこないか気になって、そわそわ店の中を見渡す。

 おかげで、二原さんの方を見る余裕もない。



「うち的には、こーいうシックなのもありかな、って気もする。けど、やっぱこっちの攻めた感じも、悪くないかなー」


「す、好きな方にすればいいのでは?」


「いいじゃーん、別に何かが減るわけでもないし? 佐方の好みの服、着たげるから……選んでよぉ」



 やんわり拒否しても、ギャルはおかまいなしにぐいぐい迫ってくる。



「あ、お客さん。着替え終わりましたか?」


 そのとき――シャッと。

 試着室のカーテンが開かれる音が聞こえた。



 まずい。タイムリミットだ。



「こ、こっち! こっちの方がいいと思うかな!?」


「……ふむ。こっち系か。まぁ、うちは佐方の精神的お姉ちゃんだしね。こーいう大人っぽいので、ばっちり決めてあげましょう!」



 なんか勝手に納得すると、二原さんはそそくさと試着室の方へと向かっていった。


 その隣を――すっと、結花が歩いてくる。



 ひぃ!? どうか綿苗結花だと、二原さんが気付きませんように!!



 そんな願いが届いたのか、あるいは結花がいつもと違いすぎるからか。


 二原さんは結花を完全スルーして、試着室の方に消えていく。



 よ、よかったぁ……。



「ゆ、遊くん……遊くんの好みって言ってた服、着てみたんだけど……ど、どうだろ?」



 そして入れ替わるようにやってきた、なんだか歯切れが悪い結花の方に、俺はゆっくりと視線を向けた。



 ――そこに立っていたのは。


 色んな意味で、ヤバい結花だった。



「な、なんて格好してんのさ結花!?」


「え、ひどっ! 遊くんがこれがいいって言ったんじゃんか!!」



 それはいわゆる……『童貞を殺す』ニットのセーターだった。



 ノースリーブのニットのセーターからは、肩や脇が丸出しになっていて。

 おまけに背中の方は、お尻のあたりまでぱっくりと開いていて。


 なんなら、横から胸すら見えている。


 なんかもう……体面積の半分くらい露出してない、それ?



「言っとくけど、恥ずかしいんだからね私は!? それでも、遊くんが喜ぶならって着てきたのに……そんな痴女みたいな扱い、あんまりじゃん!!」



 顔を真っ赤にした結花が、いつにない剣幕で声を上げる。


 店員さんたちが何事かと、射るような視線を向けてくる。



「ご、ごめん結花……す、すごく綺麗だし、めちゃくちゃドキドキして――」


「さーかーたぁー!!」



 そんな最悪のタイミングで。


 二原さんは俺の名を呼びながら、右手をぶんぶん振って駆け寄ってきた。




 ――――なぜか、チャイナドレスで。

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