第34話 【超絶悲報】ゲームと学校のイベント、ダブルブッキングしてしまう 2/3

 翌日。


 いつもどおり登校した俺と結花ゆうかは、それぞれの席についた。



「おい、聞いたか遊一ゆういち!? 再来週のアリステのライブ……らんむ様とゆうな姫が、緊急参戦決定だぜ!? アーユーレディー!? イエ――――イッ!!」



 着席と同時、マサが凄いテンションで叫んだ。

 その上、飛び跳ねまでするもんだから、何事かと思った周りがざわつきだす。



「お前、ちょっとは落ち着けよ……」


「逆にお前はなんで、そんなに落ち着いていられるっ!? お前の嫁がライブに初参加だろうがっ!! テンションを上げろ、テンショ――」


倉井くらい! 席につけっ!! テンション高すぎだろ!!」



 一人で大騒ぎしてたマサが、教室に入ってきた担任に、一喝される。


 郷崎ごうさき先生の迫力に肩を落とし、マサはとぼとぼ自分の席に戻っていった。


「……郷崎先生にテンションのことで怒られるとか、倉井ウケるね」


 斜め前の席から、二原にはらさんが笑いながら話し掛けてくる。


 確かに。絵に描いたような熱血教師にテンション高いって怒られるとか、マサはちょっと自分を見つめ直した方がいい。



「――よしっ、決めたっ!」



 ホームルーム中、そんなことを考えていると。


 郷崎先生が急に、大きな声を上げた。



 そして、ビシッと――結花のことを指差す。



「…………?」


 クラスメート全員の頭に、クエスチョンマークが浮かんだ。

 結花は表情こそ変えないものの、疑問に思ったのか尋ねる。


「……何を、決めたんですか?」

「ボランティアを、やってもらおうと思ってね!」


 ボランティア?

 みんながキョトンとするのもおかまいなしに、郷崎先生は続ける。



「先生の知り合いが、近くの保育園で働いてるんだけどなっ! そこでボランティアをさせてもらえないかって、頼んでみたんだよっ!! そのボランティアを――綿苗わたなえ結花! 君に、やってもらいたいんだ!!」


「……保育園のボランティア、ですか?」



 結花は怪訝な顔をして、首をかしげる。


 そんな結花を満足そうな表情で見ると。

 郷崎先生はガッと、結花の肩を掴んだ。



「そう。園児たちと楽しく関わることができる、素晴らしい時間だよ。先生は是非! それを君に、頼みたいんだ!!」


「えっと……」


「再来週の日曜日、保育園に行ってくれ! 詳しい説明は、そのときにあるからさ!」


「え……!? 再来週の、日曜日……」



 結花の瞳が、僅かに揺れた。


 だけど――結花は、何も言わなかった。

 言えなかったんだと、思う。


 学校での結花は、あんまり人と話すのが得意じゃない……そんな子だから。




 再来週の日曜日。


 その日は――『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』のイベント当日。



 結花が『和泉いずみゆうな』として出演することが決まった、晴れの舞台の日だ。



「じゃあ、綿苗。頼んだぞー」


「ちょっ……先生!」



 気が付いたら俺は、跳ねるように立ち上がって、声を上げていた。


「……佐方さかた?」


「遊一、どした?」


 二原さんとマサが、きょとんとして俺のことを見てる。


 クラス中の視線が、俺の方へと集中してる。


 その空気に気圧されて……唇が震えて、うまく言葉が出てこない。



「佐方、何か先生に用があるのかー?」


「…………いえ」



 結局、俺はそのまま席につき、ホームルームは終わりを告げた。


 ――ちらっと、結花の方に視線を向ける。




 結花は唇をキュッと、噛み締めて。


 ただじっと、俯いたまま座っていた。

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