第33話 【超絶悲報】ゲームと学校のイベント、ダブルブッキングしてしまう 1/3

「ふん、ふふーん♪」


 リビングでのんびりしてると、結花ゆうかが部屋からご機嫌に出てきた。


 両手にかかえてるのは、見たことのない服。

 それを目の前で、ふりふりと揺らしている。


 完全にツッコミ待ちな感じだな、これ。


ゆうくん、問題ですー。これは、なんでしょうー?」

「最近買った服?」

「ぶぶー。違いますー」


 結花はニヤッといたずらな笑みを浮かべる。


「正解はね。今度のイベントで着る、衣装でしたー!!」

「なん……だと……?」


 イベント用の衣装?


 それって、まさか――。



「結花……アリステのイベント、出るの!?」



 言っちゃなんだけど……ゆうなちゃんは、人気ランキング下位の常連。


 俺は大好きだけど、イベントに出してもらえるほど、メジャーなキャラじゃないはずなのに!?



「本当は、掘田ほったさんが出る予定だったんだけど、無理になっちゃって。だから急遽、私ともう一人、同じ事務所のアリスアイドルが出演することになったの。代打だけどね」


「それでもすごいって! 良かったね、結花!!」


「うん! ありがと、遊くん!!」



 色んな経緯があるにしても。

 いよいよ、ゆうなちゃんもイベントに抜擢されるほどになったのか……。


 感慨深すぎて、思わず涙が滲んでしまう。


「というわけで……じゃーん! ゆうなのステージ衣装を再現した服でーす!!」


 ガタッとノーモーションで立ち上がると、俺は結花のそばに駆け寄った。


 ピンクのワンピースドレスには、ところどころにレースの装飾がされていて。

 スカートの左側には、黄色い大きなリボンがつけられている。


 控えめに言って、天使の羽衣だった。


「遊くん、どう?」

「鼻血出そう」

「えっ!? ごめん、さすがに血がついたら怒られちゃう!!」


 俺の発言に驚いて、結花は慌てて衣装を自分の方に引き寄せた。

 そして、ちらっと俺の方に視線を向けて。


「んーとね……着てるとこ、見たい?」


 ゆうなちゃんと同じ格好で、スマイル満開な結花を想像する。

 ――――――。


「遊くん?」


 結花がちょんちょんと、俺の肩をつついてきた。

 だけど俺は、何も言うことができなくって。



「……ふーんだ。遊くんのばーか。もう見せないもんだ」

「あ、い、いや。その……」

「見たくないんなら、いいもーんだ」



 そして、ベーッと舌を出したかと思うと。


 結花はバタンとドアを閉めて、隣の部屋に行ってしまった。


 ずきっと、胸が痛むのを感じる。



「結花、ち、違うんだよ! なんていうか……」



 見たいか見たくないか。


 そんなの、当然……見たいに決まってる。


 だけど、怖くもあるんだ。


 ゆうなちゃんと同じ格好で、スマイル満開な結花なんて見ちゃったら。

 二人の姿が、完全にダブってしまいそうだから。



 もう二次元しか好きにならないって決めた心が――揺らいでしまいそうだから。



 …………でも。


 言い訳だよな、そんなの。



「……見たいよ」


 意を決して、俺はドアの向こうの結花に向かって、言った。


「結花がステージ衣装を着てるところ。一番に……見せてほしい」


 ガチャッと、ドアが開いた。


「もぉ! ゆうなのこと待たせるなんて、ありえなさすぎなんだからねっ!!」


 そこにいたのは――ゆうなちゃんに瓜二つの、結花だった。


 頭頂部でツインテールに縛った茶色い髪。

 きゅるんっと、猫みたいに丸まった口元。


 イベントガチャで見たことのある、ピンクのワンピースドレスが、目に眩しい。

 そして、黒のサイハイソックスとスカートの間には――数センチほどの絶対領域。


 あまりの可愛さに、俺は言葉を失う。



「今回のイベントはね、最後に全員でテーマソングを歌うのっ! そこでゆうなは、これを着て……歌って踊るんだ!!」


「行く。絶対、行く」



 なんならチケットは、既に購入してある。


 ゆうなちゃんが出るとは思ってなかったけど、マサと行く約束をしてたんだ。



「絶対、観に行く。『恋する死神』はいつだって、ゆうなちゃんを応援するって決めてるから」


「うん! 遊くん……んーん、『恋する死神』さん! いつも応援、本当にありがとうございます!!」



 イベントは、再来週の日曜日か。


 早く当日にならないかな。



 楽しみすぎて……それまで、眠れない日々が続くかもしれない。

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