第32話 看病しようとした俺、おかゆが作れなくて無事死亡 2/2


結花ゆうかちゃんカレー☆



 ①野菜の皮を剥いて、一口サイズに切ります! お肉も一緒のサイズだよ!


 ②フライパンにサラダ油をひいて、中火でお肉を炒めます。

  先にお肉、注意!!


 ③野菜をドバッと入れて、炒めます。

   ■ポイント たまねぎが透き通るくらい■


 ④水を入れて、十五分から二十分くらい、ぐつぐつ。


 ⑤ルーを入れて、全部溶かしちゃう。それで十分くらい煮込んで……。


 ⑥じゃーん、完成っ!!




「何これ……」


 無邪気さが滲み出てるそのレシピ本は、結花らしすぎて――思わずほっこりする。


 ゆうなちゃんも、こういうことしてそう。

 やっぱキャラがかぶってるよな、結花とゆうなちゃん……。


「あ。っていうか、これ……使えるかも」



 そうして。


 俺は『結花のひみつのレシピ本☆』を、読み込むことにした。


          ◆


「――――ん」


「あ。おはよう、結花」

ゆうく……あれ? 私ってば、いつの間に寝ちゃってた!?」


 結花が慌てて上体を起こす。

 おでこから、はらりと冷熱シートが剥がれ落ちた。


「え、これ……」


 結花が目を丸くして、布団のそばに置かれた『それ』を見る。

 そんな結花の反応が恥ずかしくって、俺は顔をそむけた。


「この、おかゆ……遊くんが作ったの?」

「まぁ、うん。そう、かな」

「食べて、いいの?」

「……味の保証はしないけど」


 そう言いつつ、俺は毛布を結花の肩に掛けた。

 結花はおそるおそるスプーンを手に取り、茶碗からおかゆをすくう。


「……げほっ! げほっ!?」


 口におかゆを含んだかと思うと、結花は一気にむせ返った。

 俺は慌てて、麦茶の入ったコップを差し出す。


 麦茶を一気飲みしてから、結花は「もぉ」と唇を尖らせる。


「お塩入れすぎだよ。むせちゃったよぉ」

「あれ、そっか……やっぱレシピ本にあるやつ、作ればよかったかな」

「レシピ本?」


 最初、俺は『結花のひみつのレシピ本☆』から、おかゆの作り方を探そうとした。


 だけど、レシピ本のどこにも、おかゆの作り方は書いてなくって。


 かといって、カレーとかシチューじゃ、消化によくないしなぁなんて悩んで。


 困りに困った俺は――もう一度、那由なゆに電話をした。



『あたし、おかゆのために、生まれてきてないし』



 あえなく撃沈。


 しかも着拒にまでされた。


 で、結局……ネットで調べて、自力でそれっぽく作ることしかできなかったんだ。



「遊くん、一人暮らししてたんだよね? おかゆだよ? レシピ本に書いてないのは、基本中の基本だからっていうか……ほんとに料理しなかったんだね」

「面目ない……」


 風邪で寝込んでる嫁を、満足に看病もできない自分に、ちょっと凹む。


 けれど、結花はくすっと笑って。



「遊くん。そのおかゆ、ちょーだい?」


「え? だって、辛いんだろ? 無理しない方が」


「んー……でも、なんかそれ食べたら、元気出そうな気がする。一口だけでもほら、ちょっと表情良くなったでしょ?」


「……そう、かな?」


「ってことで。あーん」


「はい!?」



 結花が急に目を閉じて、俺の方に顔を突き出してきた。


 そして薄目でこちらを見ながら、ご機嫌そうにぴょこぴょこ身体を動かしている。



「あー、だるー。スプーンも持てないおとしごろー。誰か食べさせてくれないかなー。食べないと餓死してしまうー。あー」


「さっき、自分で食べてたような」


「それはドッペル結花だね。別人、別人」



 ぺろっと、いたずらげに舌を出して笑う結花。

 俺は諦めのため息を吐いてから、スプーンを手に取った。


「はい、結花。あーん」

「あーん! もぐもぐ……おいしーっ!」


 超高級レストランのフルコースでも食べたみたいに、結花はオーバーに喜ぶ。


 塩を入れすぎた、しょっぱい出来のおかゆなのに。



 そして結花はお茶を飲みつつ――おかゆを完食した。



「ごちそうさま。ありがとう、遊くんっ!」

「あ、う、うん……」


 そのまっすぐな笑顔が、なんか照れくさくて。


 俺は下を向いて、自分に言い聞かすように呟いた。



「……次こそは、おいしいもん作れるように頑張るから」



 こんな情けない俺だけど。


 許嫁として――ちゃんと彼女を、支えてあげなきゃって思うから。



「……遊くんの、そんな優しいとこが、大好き」



 結花がぽそっと呟いたけど。


 返事をするのは恥ずかしすぎたから――俺は聞こえないふりをした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る