第30話 【アリラジ ネタバレ】ゆうなちゃんが言ってる『弟』ってさ…… 2/2

 そして、番組も中盤に差し掛かり、フリートークコーナーになった。



「どーも。掘田ほったでるでーす。こんにちはー」


「こんにちはっ! 和泉いずみゆうなですっ! は、初めましてですっ!!」


「ゆうなちゃん、緊張しすぎだってー。初めましてじゃない人もいるよ、絶対」


「あ、そうですよね……は、初めましてじゃないですっ!!」



 テンパり方がすごいな。


 フリートークは、キャラとはまた違った声優同士の掛け合いが醍醐味になっている――らしい。


 らしい、っていうのは。

 本来の俺は、中の人にそこまで興味がないから……ミニドラマだけしか、聴いてなかったんだよね。


 でも、今回は違う。

 だって、いつも一緒に暮らしてる――俺の嫁が、出演してるんだから。



「ゆうなちゃんは、わたしと同じ事務所の後輩なんだよー」


「はい! 掘田さんには、いつもお世話になってます!!」


「あれ? 確か、地元は関東じゃないよね? 一人暮らしなんだっけ?」


「あー……前までは」


「前まで!? あ、やばいの聞いちゃった? カットする?」


「ち、違いますよ!? 最近、弟もこっちに来たんですよ。それでほら、家賃とかもったいないから、一緒に暮らすことになって」


「あー。じゃあ、ゆうなちゃんと弟くんの、二人暮らしってこと?」


「はい、そうです!」


「うっわ……えろ」


「えろ!? なんでですか、弟ですよ!?」


「だってさぁ……弟くん、学生さん?」


「はい、高校生」


「ふーん、えっちじゃん」


「えっちじゃないです! 掘田さんの発想の方が、よっぽどやばいですからね!?」



 必死に否定する結花。

 その慌てる感じに合わせて、第三者の笑い声が挿入される。


 だけど――視聴者である俺の心臓は、ドクドクと早鐘のように鳴り続けて止まらない。


 えっと。


 だって、結花は今、俺と生活してて。


 きょうだいは今でも、地元の方にいるはずで。


 しかもさっき、『高校生』って言ってたよね?


 ちなみに俺も、高校生。



 ――――つまり?



「私の弟は、とっても紳士なんです。掘田さんの妄想で、穢さないでくださいっ!」



 間違いない。


 これ……俺の話だ。



「何それ。わたしがやばい人みたいに言わないでよ。普通にね? こんな可愛いお姉ちゃんが、家にいてみ? 健全な高校生だったら、ドキドキするんだって!」


「まぁ普通に仲はいいと思いますけど……でも、そんな変な目で私のこと、見てこないですよ? 弟はいつも、二次元にしか興味ないって、言ってますし!」


「それはそれで、やばい子じゃない?」



『弟』の皮をかぶせて『許嫁』の話をしてる――なんという根性。


 綿苗わたなえ結花ゆうか……おそろしい子。



「ちなみに、どんな感じで仲良しなの?」


「えっと。一緒にアニメ観たりとか。学校も二人で行ってますね」


「めっちゃ仲良しじゃん! それ、やっぱり弟くんドキドキしてるって!!」


「んー、私の方がドキドキしてると思います! えっちな意味じゃなくて、大好き的な意味で!!」



 OK、俺は吐血した。


 実際に血は出てないけど、吐血したようなもんだ。


 こんなのもう、公開処刑でしょ。


 バレたら、全国のファンに殺されるよ……本当に。



「ゆうなちゃん、弟くん大好きなんだ」


「はい、大好きです!」


「ちなみに、ゆうなちゃんの弟って、芸能人の誰に似てるとかある?」


「わんこ!!」


「芸能人って言ったんだけど!?」



 掘田さんのツッコミをものともせず、結花は捲し立てるように話し続ける。



「普段はですね、ゴールデンレトリバーみたいなんですっ! 私よりおっきくて、格好良くて、なんか護ってくれる感じで。なんですけど、なんですけどね!? ときどき、なんていうか……チワワみたいなんですっ! ふはぁ、可愛い……食べたい……みたいな? もう可愛い好き! みたいな? 分かります、この感じ!?」


「お、おう……」



 事務所の先輩が、完全にドン引いてるけど!?


 気付いて! そしてもうやめて、結花!!



「最近、一緒に寝てるんですよ!」


「一緒に寝てるんだ!? 弟だよね!?」


「はい、弟です! それである日、夜中に目が覚めちゃったんですよ。そしたら隣で、すぅすぅ寝息を立ててる弟がいるじゃないですか? それが、めっちゃ可愛くて! もう大好き、って思って!!」



 俺が寝てるとき、そんなことしてんの!?


 っていうか、これネットラジオだよね? 全国からアクセスできるんだよね?


 これ以上、俺の情報を流布するのはやめてくれ……本気で。


 だけど結花は、自重することなく爆弾トークを続ける。



「それで私、我慢できなくなって」


「え? 我慢って、ひょっとして」


「はい……やっちゃったんです」


「ヤっちゃったの!?」


「はい……寝てる弟に、こっそり」


「ヤっちゃったの!?」


「駄目、ですかね?」


「法律的にも、番組的にもね!」



 結花の自由すぎるトークによって、掘田さんのテンションが完全にぶっ壊れた。


 っていうかこれ、よくお蔵入りしなかったね?



「え……ちなみに、どこまで?」


「え。ちょっとですよ? 先っぽだけ……」


「全部だったー!!」



 ――――え?


 え? え? 先っぽ? 俺の先っぽ?


 俺の先っぽは、知らぬ間に『童』を卒業していた……?


 結花の言動が暴走。俺の脳内は妄想。


 あぁ……そっか。


 俺はもう、『漢』になってたんだなぁ。


 そういうのはまだまだ、先のことだと思ってたけど。そっかぁ。



 さようなら、子どもだった自分……。



「ほんと、先っぽだけですよ? 指の先っぽで、こう……弟のほっぺたを、ぷにって」


「……はい?」



 掘田さんの声と俺の声が、完全にハモった。


 だけど結花は、変わらないテンションで語り続ける。



「だから、可愛い寝顔だなーって思ったら、我慢できなくて。ほっぺたをぷにって、一回つっついちゃったんです」


「……ほぉ」


「あ、疑ってますね? それ、疑ってる目ですね?」


「いや、はぁ……」


「さすがです掘田さん! ごめんなさい、嘘でした。数十回は、ぷにぷにしました!!」


「あ、そう……」


「ふわぁ、ぷにぷにだぁって萌え死ぬところでした!! ああ、こうして話をしているだけであの柔らかさを思い出し」


「はい、CM入りますー」


―――――――――――――――――――――――――――――――


『今すぐリタイア! マジカルガールズ』のブルーレイが、早くも発売決定!


 一巻の初回生産版には、ミニドラマ『サーモンピンクな日々』を収録。


 魔法少女三人の声優による、サイン入り缶バッチもついてきて、なんと六千三百円。


 あたしたちの活躍、ちゃんと見なさいよ? マジで。



 買わない奴は――お掃除しちゃうゾ☆



          ◆


「ぎゃあああああああああ!?」

「うわぁ!?」


 唐突に挟まれたCMを聴きつつボーッとしてると、絶叫が響き渡った。


 慌てて振り返ると、そこには買い物袋を床に落とした結花の姿が。

 その唇はわなわなと震えていて、眼鏡の下の瞳はうるうるしてる。


「え、なんで、ちょっ……これ聴いちゃ駄目って言ったのに!」


 結花は素早く俺のところまで駆け寄ってくると、PCを強制シャットダウンさせた。



「ああっ!? まだ残り五分くらいあったのに!!」


「ばーか! 聴かないでって言ったのに、なんで聴いてんの!?」


「逆にだよ? なんで俺が、ゆうなちゃんがパーソナリティの神回を、聴かないって思ったの?」


「開き直んないの!」



 いつにない剣幕で、結花が詰め寄ってくる。



「……ひょっとして、さっき『買い物に行っておいでよ。三十分くらい』って言ったの、このためだったの? 信じらんない……私がいない隙を狙って、こんな裏切りを!!」


「え。なんでそんな、他の女を家に連れ込んだみたいなテンションなの? 結花のいないところで、結花の出てたネトラジを聴いてただけで……」


「恥ずかしいからに決まってるでしょっ!!」



 ビシッと人差し指を立てて、結花はぷっくりと頬を膨らませる。

 そして――ぼそっと呟いた。



「……私、調子に乗ってゆうくんのこと、話しまくってるし。それに……バレちゃうから」


「えっと……俺が寝てるときに、俺のほっぺたを」


「あー、やっぱりバレてるじゃんかー!! ばかー!!」



 両腕をぶんぶんと振り回して、ぷんぷんしてる結花。

 そして次の瞬間には……しょんぼりとうな垂れはじめた。



「嫌いになった?」


「なんで?」


「寝込みを襲ったから」


「いや、まぁ……ほっぺただけだし……」


「え? いいの!?」



 一転して、今度はキラキラとした瞳でこちらを見てくる結花。

 そして、そーっと左手を挙げると。



「……すみませーん。じゃあ、ほっぺただったら、触ってもいいんですかー?」


「何その確認!? そういう質問のされ方すると、なんか躊躇するな!?」


「しゅん……」


「あからさまに落ち込まないの!」


「じゃあ、いいのっ!?」


「だーかーら……」



 こうして。


 俺と結花の『ほっぺたを触っていいか』問答は、三十分くらい続いたのだった。





 あ――ちなみに。


 アリラジの続きは、結花の入浴中にちゃんと消化しました。

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