第29話 【アリラジ ネタバレ】ゆうなちゃんが言ってる『弟』ってさ…… 1/2

 マンガを黙々と読んでると、俺のスマホからアラーム音が鳴り響いた。


 俺は即座にマンガを閉じると、スマホを手に取る。

 そしてアラームを消して、急いでパソコンの前に移動した。


 あらかじめ開いておいた、ネットラジオの公式サイト。


 俺は目を瞑り、深く息を吸い込んで。



 ――――ゆっくりと、音源をクリックした。



「皆さん、こんにちアリス! 『ラブアイドルドリーム! アリスラジオ☆』――はっじまるよぉ!!」



 去年末からはじまった、アリステのネットラジオ――通称『アリラジ』。


 この番組の特徴は、決まったMCを設定していないことだ。


 毎回、アリスアイドルが二人ずつ、パーソナリティとして呼ばれて。


 前半はキャラになりきったトーク、後半は声優によるフリートークが展開される。


 アリステファンにとっては、自分の一推しキャラがパーソナリティになるチャンスが回ってくる、夢のような番組だ。



「それでは、今日のパーソナリティ……まずは、わたくしから。それでは、皆さん? お金じゃ買えないもの、一緒に探しに出掛けましょう――でる役の『掘田ほったでる』です。よろしくお願いします」



 でるちゃんは、ランキング二十位内にいつも入ってる、人気アリスアイドル。


 石油王の家庭に生まれて、なんの不自由もなく暮らしてきた彼女は、『お金じゃ買えないもの』が大事だって思い立って。


 結果的に、アリスアイドルになり――みんなに『お金じゃ買えない笑顔』を届けようと、日夜頑張ってるんだ。


「そして、もう一人のパーソナリティです」

「くるぞ、くるぞ……」


 俺は高鳴る気持ちを抑えつつ、PCをじっと見つめる。


 そう、今日のもう一人のパーソナリティは――。



「こんにちはっ! あ、ちょっと、子ども扱いしないでってばぁ!! 今日はゆうなが、めっちゃみんなを楽しませるから……覚悟してよねっ? ――ゆうな役の『和泉いずみゆうな』ですっ! みんな、よろしくねー!!」



 ゆうなちゃん――十四歳、中学生。


 妹のななみちゃんに誘われて、一緒に応募したのがきっかけで、姉妹アリスアイドルになった普通の女の子。


 天真爛漫で元気いっぱい。ちょっと背伸びしたい年頃で、「大人っぽく」見せようとしては、天然なミスを連発するドジっ子。


 ときおり小悪魔っぽく迫ってくることもあるけど、途中で恥ずかしくなってやめちゃうような、ピュアな性格。そして本当は、すっごく甘えっ子。


 ――正直、ランキングだったら、下から数えた方が早いけど。


 ランキングなんて、無意味なものだ。



 だって俺の中では、ゆうなちゃんが――いつだって、ナンバーワンだから。



「……ふぅ」


 呼吸するのを忘れていたことに気付いて、俺は大きく息を吸い込んだ。


 あ、ちなみに。結花ゆうかにはお遣いに行ってもらってる。


 いくら俺が『恋する死神』だと知ってるとはいえ……こんなところ、恥ずかしくて見せられないからな。


 椅子の上で、きちんと正座して。

 俺はアリラジに、全神経を集中させる。


「こんにちはっ、でるちゃん!」

「ゆうなちゃん、今日も元気いっぱいですね?」


 そしてはじまる、ミニドラマ。



「うんっ! 元気なことが、ゆうなの取り柄だからねっ! ゆうなが笑えば、みんなも笑う!! そしたら、みんなハッピーでしょ?」


「素晴らしいですね。まさにお金じゃ買えない幸せ……わたくしも、皆さんに笑っていただきたいです」



 元気満開のゆうなちゃんと、おっとりほわほわ系でるちゃん。


 その見事な案配は、ラジオの空気を素晴らしいものにしている。


 控えめに言って、神回だ。



「それにしても……ゆうなちゃん、おっきいですよね?」


「ん? そ、そうかな……あんま見られると、照れるけどぉ」


「わたくし、石油は家にあるんですけど……胸は、あんまりで。やっぱり大きい方が、いいんですかね……」


「どうかなぁ? 確かに、男の子はおっきい方が好きって、よく聞くけど」



 こいつ! このシナリオ書いた奴!!


 いつだったか、結花に『男の子はみんな巨乳派』ってイメージを植え付けた奴だな、絶対!?



「でも、でるちゃん可愛いからさっ。そんなんじゃ、みんな放っておかないでしょー?」


「その言葉、そっくりそのまま、ゆうなちゃんにお返ししますよ? わたくしも、ゆうなちゃんみたいな、明るくて素敵な女の子になりたいですもの」


「ゆうなは、もうちょい、おしとやかだったらなぁ……とか思うよ? でるちゃん、めっちゃ大人っぽいからさぁ。ゆうなも、もっと大人っぽさ、身に付けてやるんだからっ!!」



 そのままで可愛いよー!!


 子どもっぽいところも、大人に憧れるところも、全部可愛いよー!!




 っていうか、ゆうなちゃんが存在するだけで、世界は幸せで満たされてるんだよ?


 出逢ったあの日から、ずっと――俺はゆうなちゃんに、『恋する死神』だから。

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