第24話 「さすがに一緒にお風呂はヤバくない?」結果…… 2/2

「……ふぁ?」


 脳内の処理速度が追いつかなくて、思わず間抜けな声を出してしまった。


 濡れにくいようにか、いつもより上の方で、ポニーテールを結って。

 曇り対策なのか、眼鏡は外してる。


 スク水の右下あたりには、『綿苗わたなえ結花ゆうか』と名前が書かれていて。

 彼女が身につけてるそれが――『本物』だということを知らしめている。


「ご、ごめんねゆうくん……やっぱり裸は、恥ずかしかったから」

「妥協案として、あたしが提案した」

「お前の仕業か、那由なゆ……」


 そりゃあまぁね、身体を隠してはいるけどさ。

 家の風呂に、スクール水着の同級生がいるって状況も、相当やばいでしょ。


 いっそ裸より、背徳的すらある。


「じ、じゃあ遊くん。入るね」

「お、おう……」


 こうして。


 腰にバスタオルを巻き付けただけの俺が、風呂椅子に座って。

 スクール水着を身に纏った結花が、その後ろに立つという。


 ――異常な空間が、出来上がった。


「お、お背中洗うねー?」

「う、うん……」


 ぺたっ。


「ひっ!?」


 ボディソープのついた結花の手が、俺の背中に触れた。

 ぬるぬると、俺の背中を結花がじかに撫で回していく。


 結花のちっちゃな手が俺の肌に触れてる……そう思うと、次第に頭の中が真っ白になっていく。


「かゆいところないー?」

「だ、大丈夫……」

「もうちょっと、背中まっすぐしていいよー?」

「だ、大丈夫!」


 結花の言葉はありがたいけど、今は前屈みにさせてくれ。


「お腹の方も、洗うねー」

「お、お腹も!?」

「そりゃそうだよっ! きちんと綺麗に洗わないと、意味ないじゃんよ!!」


 にゅるっ。

 結花の手が、脇の下あたりから伸びてきて。

 俺のお腹あたりを――ぬるぬると、洗っていく。


 ときおり身体に触れる生地の感触で、スクール水着を着て泡だらけになってる結花を想像してしまう。



 え、何これ……死ぬ……絶対、死ぬ……。



「……んー」


 昇天直前の俺の耳元で、結花が悩ましげな吐息を漏らした。

 そして、何かを決意したように「よしっ」と呟く。


「遊くん、バスタオル外して?」

「はいっ!?」

「もっとちゃんと、洗いたいから。私――なんか洗うの、楽しくなってきた!!」


 なんでテンション上がってんの!?

 振り返ると、結花はキラキラと目を輝かせてる。



 無邪気すぎるでしょ!?



 水と泡のおかげで、スクール水着はてかてか、ぬるぬる。


 俺はさらに腰を曲げて、エビくらい前傾姿勢になった。


 これ以上やられたら、おかしくなるってのに……あぁ、この天然は本当に……。



「はい、遊くん。脱いでください」

「無理。駄目。できない」


「なーんーでー!? 私は遊くんのお嫁さんとして、全力で尽くしたいのにー!!」

「もう十分嬉しかった! 最高だった! はい、終わり!!」


「やーだー。もっと上を目指したいのー!!」

「駄目なもんは駄目なのっ!! 那由! お前からも結花に、何か言ってくれって!」


「……んー。そだね」



 聞こえてくる那由の声は、いつもより低い。

 あれ? 扉越しで顔が見えないけど……なんか不機嫌?


「那由? おーい、那由?」

「那由ちゃん! 私、頑張るからねっ!! 遊くんの笑顔のために、頑張るからね!」

「……やるね、結花ちゃん」

「やらなくていい! やらなくていいから!!」



 必死にバスタオルを掴んで、脚の付け根あたりを押さえる俺。

 そんな俺のバスタオルを掴んで、必死に奪い取ろうとする結花(スク水)。

 そして、なんか知らないけど、扉の向こうで不機嫌そうな那由。



 ――――なんだよ、この状況は!?



「仲良しなら、いいんじゃない? けっ」




 風呂の外から、那由の声がした気がするけど。


 自分の大事なところを護るのに必死で……ちょっと、なんて言ってるかまでは分からなかった。

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