第23話 「さすがに一緒にお風呂はヤバくない?」結果…… 1/2

「夫婦ってさ。一緒にお風呂入ったりすんの?」


 那由なゆが急にそんなことを言うもんだから、俺と結花ゆうかは思いっきり味噌汁を吹き出した。

 口元を拭いて、深呼吸してから、俺は那由を諭しはじめる。



「那由。そんなことはないから」


「そう! それはちょっと、やり過ぎだよ那由ちゃん!!」


「マジ? 父さんが『俺も若い頃は、母さんと一緒に風呂に入ってたなぁ……死にたい』とか言ってたから、どうなのかと」


「思い出して辛くなるなら、言わなきゃいいのに……で、那由? その発言をした親父を、どう思った?」


「きもい、むり」



 でしょうね。


 俺も同性じゃなかったら、縁切りを検討するレベルだ。


「でも、一理あるとは思って。裸の付き合いって言葉もあるし」

「普通『裸の付き合い』って、同性で温泉に入るときとかに使わない?」

「そう! 男同士で裸の付き合い……先輩の火照った頬に、大きな背中。それを見た後輩は、我慢できなくなって――」


 結花、結花。


 今はBLの話はしてないから。落ち着いて。



「あー、もう……那由。お前はなんで、変な方向に話を持っていくんだよ」


「……兄さんと結婚する以上、兄さんが満足する水準まで頑張ってほしいし」


「俺は今でも、別に不満はないんだけど」


「仲が悪いとは思ってない。でも、なんていうか……夫婦っぽくは、まだ見えないっていうか」


「いいんだって。俺たちには俺たちのペースが、あるんだから」



 那由の言いたいことも、まぁ分かりはする。


 三次元女子と距離を置いてるとはいえ、俺だって健全な高校生男子。

 そういう、悶々とした気持ちになることも、なくもない。


 だけど、「もしかしたら傷つけちゃうかもしれない」って思うと、自分から踏み出す勇気は出な――――。



「や、やります! 私……ゆうくんと、お風呂に入る!!」



 臆病風に吹かれてた俺に向かって、結花が爆弾発言を放った。

 予想もしてなかったその言葉に、俺は動揺する。


「ゆ、ゆゆゆゆゆ結花!?」

「み、未来の夫婦なんだもん。だから、もっと分かり合いたいじゃん? もっと遊くんに、幸せを感じてもらいたいじゃんよ……」

「ふーん。良い心掛けだね」


 いやいや、だいぶ話が暴走してると思うけど?

 なんでそこで、不敵な笑みを浮かべてんだ、うちの愚妹は。



「兄さんが笑顔で毎日を送れるよう、頑張る準備はできてんの?」

「もっちろん! だって私は、遊くんの――お嫁さんだからっ!!」

「……けっ」



 かくして。


 俺と結花は、一緒にお風呂に入る流れとなったのだった。


          ◆


 出しっ放しにしたシャワーが、風呂椅子に座った俺の頭部を、ばしゃばしゃと叩く。

 勢いのある水流を浴びて、俺の頭は少し冷静になる。



 ここは、佐方さかた家の風呂場。


 なので当然――俺は全裸だ。


 下半身にはバスタオルを巻き付けてるけど、上半身は何も纏ってない。


 そう……全裸なのだ。



「ふぅ……」


 シャワーが床を叩く音を聴きながら、俺はこれから訪れる未来に想いを馳せる。



 ――遊くん……あんまりじろじろ見ないでね。

 ――でも、遊くんだったら……触っても、いいよ?



 ばしゃばしゃばしゃばしゃっ!!

 俺はシャワーを手に取って、至近距離から顔面に水流をかけた。


 ただただ痛い。

 唇がぷるぷるする。


 だけど、そうでもしないと――妄想の中の結花が、俺の心をおかしくしそうだから。



「ゆーうくんっ」



 一瞬ビクッとしたけど……落ち着け、遊一ゆういち


 結花とはいえ、相手は三次元の女子。

 二次元美少女みたいに、都合の良い展開にはならないはず。


 期待しすぎて、がっかりするなよ。

 調子に乗って、相手に嫌な思いをさせるなよ。



 ――でも、遊くんだったら……触っても、いいよ?



 ガンガンッ!!


 俺は浴槽の角に向かって、自身の額をぶつけた。

 再び湧き上がってきた、邪な感情を滅ぼすために。


 めちゃくちゃ痛い。


「ちょっ、遊くん!? なんかすごい音したけど、大丈夫!?」

「へ、平気……ちょっと悪魔祓いをね」

「どっちかっていうと、悪魔に憑かれたような物音だったけど……」


 あながち間違いじゃないから、なんも言えない。


「兄さん。煩悩は祓えた?」


 那由の冷ややかな声が、風呂の外から聞こえてくる。

 さすが我が妹、兄の行動はお見通しか。


「じゃあ、結花ちゃん入るから。くれぐれも……仲良くしなよ。けっ」

「なんだよ、『けっ』て!? お前が切り出したイベントだろうが!」

「うっさい」


 俺のツッコミを無下にしたかと思うと。

 風呂の扉が、内側に向かって開く。



 そして、そこに立っていたのは――――。




 ――――スクール水着を身に纏った結花だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る