第17話 陽キャに誘われたんだけど、どうやって断ったらいい? 1/2
「えへー。今日も
ほんわかそう言って、子猫みたいにニコニコしてたのが、数分前の
「朝ですね」
冷たくそう言って、ロボットみたいに無表情にしてるのが、現在の結花。
家での結花と、学校での結花は、相変わらず全然違うな。
完全に別人だし、学校バージョンの方はそもそも「朝ですね」って言葉のチョイスがおかしい。そこ、「おはよう」とかでよくない?
「相変わらず、めちゃくちゃ怖いな……
隣の席からひそひそと、マサが言ってくる。
まぁそうだよな。学校だけで判断したら。
こんな無愛想な女子が、家では明るくて無邪気だなんて。
普通に考えて――誰も想像しないだろうし。
「はーい、みんな! 席について、ついて!!」
そんなことをボーッと考えてると。
ガラッと勢いよく扉を開けて、
郷崎
俺たちのクラス、二年A組の担任を務める――ちょっと暑苦しい先生だ。
「元気が足りないなぁ、みんな!! ほら、もっと大きな声出して! 朝のホームルームからそんなんじゃあ、一日がつまんなくなるよ!!」
「今日も郷崎節全開だな、
「ほんとな……」
ちなみに俺は、郷崎先生のことがあまり得意じゃない。
悪い先生ではないんだけど、俺と方向性が違いすぎるんだよな。
『チームプレイ』とか『一致団結』とか体育会系全開で、陰キャな俺には刺激が強い。
「みんなで元気に、みんなで楽しく! 勉強だってもちろん大事だけどさ。それよりも『仲間』って財産を見つけよう? そうすれば、みんなの人生は――もっと豊かになるんだから!!」
キラキラ瞳を輝かせている郷崎先生を、俺は冷めた目で見つめる。
別に先生が、友達とか仲間を大事に思うのはいいんだけどさ。
ただ――俺とは別世界の人間だなぁって、思ってしまう。
「おーい。おいおい、
そんな俺のことを、斜め前の席から振り返ってニコニコしてる、茶髪の女子がいた。
「佐方さぁ。『別世界の人間ー』とか、思ってたっしょ?」
「エスパーか何かなの、二原さんは」
なんなの。ギャルは人の心を読む能力者なの?
「だって佐方、分かりやすいしー? 顔見りゃ、大体分かるっしょ」
「あー、確かに。遊一はすぐ顔に出るからな」
二原さんのノリに、ニヤニヤ顔のマサが混じってきた。
「そーそー! 全部顔に出ちゃうっていうか? 子どもみたいで、可愛いよねー」
前屈みになって、ケラケラ笑う二原さん。
前傾姿勢になると、着崩したブレザーから胸元がチラッと見えちゃうから、目に毒だ。
「ねぇねぇ、佐方? たまには郷崎節も、どうなのさ?」
「どうって……何が?」
「だからさぁ……」
二原さんが、ニッと微笑む。
その赤い唇は、なんだか艶やかで。
さすがの俺も、思わずドキッとしてしまう。
そんな俺に向かって、二原さんはゆっくりと指先を向けた。
「今日の放課後、どうよって……こ・と☆」
◆
「ってわけでぇ。今日のカラオケは、ゲストに佐方がきまーす! あと、
「なんで俺は、おまけみたいに言うんだよ!!」
パチパチと手を叩いて笑う二原さんと、それにツッコミを入れるマサ。
そんな俺たちの周囲には、男女入り交じった七人くらいのクラスメート。
普段関わらなすぎて、正直名前すら分からない。
「佐方はこう見えてぇ、結構面白いんだよ? みんな、参加おーけー? おーけーね!」
「誰も発言してないけど!?」
慌ててツッコむけど、周りはただ苦笑してるだけ。
ちょっとちょっと。
誰か二原さんを止めて! そして俺たちをハブって!!
「まぁ……桃乃が言うんなら、ねぇ」
ショートカットの名も知らぬ女子が、ぽりぽりと頬を掻く。
「桃は言い出したら聞かないっしょ」
「いつもの思いつき行動だろうしな」
「クラマサは、ちょいびみょーだけどね」
「おい! 聞こえてんぞ!! 俺をクラマサって呼ぶんじゃねぇ!!」
倉井
『倉井』と『暗い』が掛かってるから、マサはその呼び方があんまり好きじゃない。
――って、マサのことはいいんだよ、マサのことは!
「はい、けってーい! 今日の放課後、みんなでカラオケ楽しもうーっ☆」
みんなの拍手が、結構なボリュームで聞こえてくる。
えっ、なんでそんな簡単に受け入れてんの?
すげぇな、陽キャのコミュニティの順応性は。
「待って待って、二原さん。俺はそういうの、あんまり……」
「郷崎先生だって言ってたよねぇ。『仲間』って財産を増やしてみよーって!」
俺がやんわり断ろうとしても、二原さんはぐいぐい迫ってきて。
周囲も段々と、歓迎ムードに変わってきて。
まずい。これは本当に、まずい流れだ。
――――ブルブルッ♪
「あ。二原さん、ちょっと待って!」
俺は慌ててスマホを取り出すと、二原さんから見えない方向に画面を向けて、RINEを起動した。
そこには案の定、結花からのメッセージが届いてる。
『なんか盛り上がってるね。いいなぁ、私も
『カラオケ? って言ってる? えー……カラオケ行くの、遊くん?』
『ぶー。ぶーぶー』
「えー? なになにー? 怪しいなぁ、怪しいよぉ?」
ずいっと、二原さんが画面を覗き込もうとしてきたから、俺は慌ててスマホをポケットにしまった。
「べ、別に怪しくないって。予定空いてたよなぁって、確認しただけで……」
「お! 行く気になってくれたのかぁ!! いいね、いいね。予定空いてたっしょ? じゃあこれから、カラオケにレッツゴーだっ!!」
あぁ……これはもう、断れないな。
仕方なく、俺は首を縦に振る。
行きたいわけじゃないし、結花が気にしても悪いから、本当なら断って帰りたいところなんだけど。
あー……郷崎先生、余計なこと言ってくれたよな。
俺はため息を吐きつつ、その集団についていこうとして――。
「――待って」
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