第17話 陽キャに誘われたんだけど、どうやって断ったらいい? 1/2

「えへー。今日もゆうくんと、一緒に登校だぁー」

 ほんわかそう言って、子猫みたいにニコニコしてたのが、数分前の結花ゆうか



「朝ですね」

 冷たくそう言って、ロボットみたいに無表情にしてるのが、現在の結花。



 家での結花と、学校での結花は、相変わらず全然違うな。


 完全に別人だし、学校バージョンの方はそもそも「朝ですね」って言葉のチョイスがおかしい。そこ、「おはよう」とかでよくない?


「相変わらず、めちゃくちゃ怖いな……綿苗わたなえさん」


 隣の席からひそひそと、マサが言ってくる。


 まぁそうだよな。学校だけで判断したら。

 こんな無愛想な女子が、家では明るくて無邪気だなんて。


 普通に考えて――誰も想像しないだろうし。


「はーい、みんな! 席について、ついて!!」


 そんなことをボーッと考えてると。

 ガラッと勢いよく扉を開けて、郷崎ごうさき先生が教室に入ってきた。


 郷崎熱子あつこ。二十九歳、独身。

 俺たちのクラス、二年A組の担任を務める――ちょっと暑苦しい先生だ。


「元気が足りないなぁ、みんな!! ほら、もっと大きな声出して! 朝のホームルームからそんなんじゃあ、一日がつまんなくなるよ!!」

「今日も郷崎節全開だな、遊一ゆういち?」

「ほんとな……」


 ちなみに俺は、郷崎先生のことがあまり得意じゃない。

 悪い先生ではないんだけど、俺と方向性が違いすぎるんだよな。


『チームプレイ』とか『一致団結』とか体育会系全開で、陰キャな俺には刺激が強い。


「みんなで元気に、みんなで楽しく! 勉強だってもちろん大事だけどさ。それよりも『仲間』って財産を見つけよう? そうすれば、みんなの人生は――もっと豊かになるんだから!!」


 キラキラ瞳を輝かせている郷崎先生を、俺は冷めた目で見つめる。


 別に先生が、友達とか仲間を大事に思うのはいいんだけどさ。

 ただ――俺とは別世界の人間だなぁって、思ってしまう。


「おーい。おいおい、佐方さかた?」


 そんな俺のことを、斜め前の席から振り返ってニコニコしてる、茶髪の女子がいた。

 二原にはら桃乃ももの――陽キャのギャル。


「佐方さぁ。『別世界の人間ー』とか、思ってたっしょ?」

「エスパーか何かなの、二原さんは」


 なんなの。ギャルは人の心を読む能力者なの?


「だって佐方、分かりやすいしー? 顔見りゃ、大体分かるっしょ」

「あー、確かに。遊一はすぐ顔に出るからな」


 二原さんのノリに、ニヤニヤ顔のマサが混じってきた。


「そーそー! 全部顔に出ちゃうっていうか? 子どもみたいで、可愛いよねー」


 前屈みになって、ケラケラ笑う二原さん。

 前傾姿勢になると、着崩したブレザーから胸元がチラッと見えちゃうから、目に毒だ。


「ねぇねぇ、佐方? たまには郷崎節も、どうなのさ?」

「どうって……何が?」

「だからさぁ……」


 二原さんが、ニッと微笑む。


 その赤い唇は、なんだか艶やかで。

 さすがの俺も、思わずドキッとしてしまう。


 そんな俺に向かって、二原さんはゆっくりと指先を向けた。



「今日の放課後、どうよって……こ・と☆」


          ◆


「ってわけでぇ。今日のカラオケは、ゲストに佐方がきまーす! あと、倉井くらいも」

「なんで俺は、おまけみたいに言うんだよ!!」


 パチパチと手を叩いて笑う二原さんと、それにツッコミを入れるマサ。


 そんな俺たちの周囲には、男女入り交じった七人くらいのクラスメート。

 普段関わらなすぎて、正直名前すら分からない。


「佐方はこう見えてぇ、結構面白いんだよ? みんな、参加おーけー? おーけーね!」

「誰も発言してないけど!?」


 慌ててツッコむけど、周りはただ苦笑してるだけ。


 ちょっとちょっと。

 誰か二原さんを止めて! そして俺たちをハブって!!


「まぁ……桃乃が言うんなら、ねぇ」

 ショートカットの名も知らぬ女子が、ぽりぽりと頬を掻く。


「桃は言い出したら聞かないっしょ」

「いつもの思いつき行動だろうしな」

「クラマサは、ちょいびみょーだけどね」

「おい! 聞こえてんぞ!! 俺をクラマサって呼ぶんじゃねぇ!!」


 倉井雅春まさはる、略してクラマサ。

『倉井』と『暗い』が掛かってるから、マサはその呼び方があんまり好きじゃない。



 ――って、マサのことはいいんだよ、マサのことは!


「はい、けってーい! 今日の放課後、みんなでカラオケ楽しもうーっ☆」

 みんなの拍手が、結構なボリュームで聞こえてくる。


 えっ、なんでそんな簡単に受け入れてんの?

 すげぇな、陽キャのコミュニティの順応性は。


「待って待って、二原さん。俺はそういうの、あんまり……」

「郷崎先生だって言ってたよねぇ。『仲間』って財産を増やしてみよーって!」


 俺がやんわり断ろうとしても、二原さんはぐいぐい迫ってきて。

 周囲も段々と、歓迎ムードに変わってきて。


 まずい。これは本当に、まずい流れだ。



 ――――ブルブルッ♪



「あ。二原さん、ちょっと待って!」


 俺は慌ててスマホを取り出すと、二原さんから見えない方向に画面を向けて、RINEを起動した。

 そこには案の定、結花からのメッセージが届いてる。



『なんか盛り上がってるね。いいなぁ、私もゆうくんと喋りたい。ぶー』

『カラオケ? って言ってる? えー……カラオケ行くの、遊くん?』

『ぶー。ぶーぶー』



「えー? なになにー? 怪しいなぁ、怪しいよぉ?」


 ずいっと、二原さんが画面を覗き込もうとしてきたから、俺は慌ててスマホをポケットにしまった。


「べ、別に怪しくないって。予定空いてたよなぁって、確認しただけで……」

「お! 行く気になってくれたのかぁ!! いいね、いいね。予定空いてたっしょ? じゃあこれから、カラオケにレッツゴーだっ!!」


 あぁ……これはもう、断れないな。

 仕方なく、俺は首を縦に振る。


 行きたいわけじゃないし、結花が気にしても悪いから、本当なら断って帰りたいところなんだけど。


 あー……郷崎先生、余計なこと言ってくれたよな。

 俺はため息を吐きつつ、その集団についていこうとして――。



「――待って」

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