第16話 許嫁と一夜を共にした結果…… 2/2

 ……どうやら無意識に、目を瞑ってしまってたみたいだ。



 はぎ取った結花ゆうかの布団を、そっとそばに置いて。

 俺はおそるおそる、目を開けた。


 その視界に映った結花は――。



「…………くぅ」



 すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。


 想定外の事態に、俺は戸惑う。


「……えっと」

「むにゅう……」

「結花? 結花さーん?」

「ふにゅ……」


 あ、これ駄目だ。

 完全に寝落ちてるやつ。


 まぁ、頭から布団をかぶってたら、温かくなってきちゃうしな。

 睡魔が襲ってくるのも、まぁ無理ないけど……。


「……ゆーくん……」


 寝言で俺の名前を呼んで、結花がニコッと笑う。

 そのあどけない表情に、俺はなんだか安心する。


 なんだか、さっきまで悶々としてたのが、馬鹿みたいだ。


 俺はポンポンと、結花の肩を軽く叩いた。


「……ふへへぇ」


 それが気持ちよかったのか、結花は眠ったまま笑った。


 なんて無防備なんだろうな、この子は。

 ため息を吐いて、俺は結花の隣にごろんと転がる。


「……ま。そもそも俺は、二次元一筋だしな」


 自分で自分に言い聞かせる。

 確かに俺たちは、許嫁同士になったけど。



 俺はまだ、結花のことを全部は知らない。

 結花もまだ、俺のことを全部は知らない。



 そんな中で、覚悟もなく『そういうこと』をするのは――やっぱり違うと思うから。



「そもそも。順調に同棲生活を送っていけるのかだって、分かんないしな」


 誰にともなく嘯いて。

 気持ちよさそうに眠っている結花の、無造作な頭に手を乗せる。


 ――――ふわっ。


 触れた俺の指先をくすぐる、ふわふわの髪の毛。

 その感触が心地良くって――俺はそのまま、結花の頭を撫で回した。


「……ふにゃあ……」


 結花が寝返りを打って、こちらに顔を向けてくる。


 唇をすぼめて、くすぐったそうに笑っている、無邪気なその寝顔は。

 なんだか――ゆうなちゃんみたいだった。




 ほんのちょっとだけ……だけどな。


          ◆


 翌朝。

 目を覚ました結花は、この世のものとは思えないほど落ち込んでいた。


「寝ちゃった……なぜ私は、あんな無駄な時間を……」

 呪詛のようにぶつぶつと呟いている結花。


「気持ちよさそうに寝てたし、俺は別にかまわな――」

「私が気持ちよさそうに寝ても仕方ないの! ゆうくんに気持ちよく……あーもぉー、私のばかぁ……」


 俺のフォローにも過剰反応して、結花は布団にうずくまって嘆く。


 そんなに気にしなくていいのに。

 俺としてはむしろ、覚悟を決めずに済んでホッとしてるんだけど……。


「……ん?」


 そのとき。

 結花が自分の髪の毛を、ぐしゃっと握った。


 そして、次の瞬間……。



「いやあああああああああああ!?」



 結花の絶叫が、朝の我が家に響き渡った。


「見ないでえええええええ!!」


 そして、ぼふっと。

 顔面目掛けて、思いきりよく枕をぶつけられた。理不尽。


「ええええ? なんで私、今日はこんなに髪がぼさぼさなのぉぉ? もぉー!!」


 先ほどまでの落ち込みようは、どこへやら。

 今度は慌てた様子で、結花はバタバタと洗面所の方へと走っていったのだった。



 あー……髪の毛。

 多分、俺が夜に撫ですぎたせいなんだろうけど。


 怒られそうだから、取りあえず黙っておくことにしようっと。

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