第15話 許嫁と一夜を共にした結果…… 1/2
――私の方は……覚悟、してたんだけどな。
――女の子に、そういうの聞かないの……ばか。
前回までのあらすじ。
ひょんなことから、クラスメートの
プラトニックな付き合いだったんだけど、雷の晩に同じ部屋で寝ることになって。
そんなとき、結花から意味深な言葉を告げられて――。
どうする
「……
脳内ナレーションを垂れ流している俺を現実に引き戻す、結花の声。
布団で鼻から下を隠したまま、結花は潤んだ瞳で呟く。
「や、やだった……かな?」
「えっ!? い、嫌とかじゃないよ!?」
「だって遊くん、なんか困った顔してるもん」
「あー、まぁ困ってはいるけど……」
「ほら、困ってる。私が困らせちゃったんでしょ……ばーか」
そう言って結花は、頬を膨らませる。
覚悟――結花は確かに、そう言ってた。
俺の瞳に映るのは、結花の澄んだ瞳。
ああ――そんな目で見られたら、さすがにまずい。
俺は段々と、自分の頭が真っ白になっていくのを感じる。
「――え?」
結花が小さく声を上げた。
「あ! ご……ごめん」
気付いたら、俺は無意識に結花の頬に手を当てていた。
慌てて手を離し、結花に背を向ける。
柔らかくて、温かかった……。
その女の子な感触を思い出すと、自分の鼓動が早くなるのを感じる。
「い、嫌……だったよね。ごめん……」
「い、嫌とかじゃないけど……」
「でも、困った顔してたし……」
「こ、困ってはいるけど……これは恥ずかしいっていうか、どうしたらいいか分かんないっていうか……」
振り向くと、結花が布団の中でもじもじと身をよじっていた。
毛布の端っこを、口元に当てて。
潤んだ瞳。上気した頬。
いつもと違って、妖艶な雰囲気をしている結花。
「えっと……優しくしてね?」
それだけ言い残して。
バサッと、結花は頭まで布団をかぶってしまった。
…………。
――優しく?
それって……そういうこと、だよな?
頭の中を、あらぬ妄想が駆け抜けていく。
同時に、中三のときの悪夢が蘇る。
行くべきなのか。行かないべきなのか。
三次元女子との恋愛は、互いを傷つけたくないからって、封印した俺だけど。
二次元しか愛さないって誓った、そんな俺だけど。
こんな状況を無視できるほど――枯れた人間じゃないから。
「ひゃ、ひゃうっ!?」
結花のちっちゃな手を握る。
手のひらから伝わってくる、結花の温もり。
小動物のような叫び声が、耳元を伝わって、脳みそをくすぐる。
……結花は手を握ったまま、離さない。
――――ってことは?
「……いやいやいやいや」
自分の中に芽生えた邪な感情を、強い自我で振り払おうとする。
冷静になれ、遊一。
相手は確かに、俺の愛するゆうなちゃんの声優・
三次元の中では限りなく、ゆうなちゃんに近い存在だ。
だけど、あくまでも結花は――三次元の女の子だ。
これ以上はいけない。
このまま進んだら、また――中三のときみたいに、傷ついてしまうかもしれないから。
反対に、結花のことを――傷つけてしまうかもしれないから。
「……んっ」
結花の憂いを帯びた呻き声が、耳をくすぐる。
その刺激が、俺の前身を痺れさせて。
――プツンと。
俺の中の、何かが切れるのを感じた。
また後悔するかもしれない。
黒歴史を重ねるのかもしれない。
だけど――高鳴る胸の鼓動を止めるためには。
もう、これしかないから。
「結花」
俺は、許嫁の名前を呼んで。
意を決して――彼女の布団を、勢いよくはぎ取った。
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