第11話 【助けて】非モテなのに、浮気を疑われたんだが…… 2/2

 家に帰る途中。

 交差点を渡って、すぐ右に曲がったところ。


 そこで足を止めて、俺は青く澄み渡った空を見上げる。

 今日もこのあたりに、人通りはない。


ゆうくん」


 そうしてボーッとしてると、結花ゆうかが遅れてやってきた。


 ちょっとだけ膨らませた頬。

 ギュッと握った手のひら。


 やっぱ怒ってるよな……。


「まず、説明させてもらえる?」

「はい、どーぞ」


二原にはらさんは、中学の頃の俺を知ってるから、無駄に絡んでくるんだよ。陽キャが面白がってるだけで……多分、俺のことはおもちゃくらいにしか思ってない」


「……まぁ、確かに。遊くんからっていうより、二原さんから来てたもんね。仕方ないと思うよ。別に、私以外と話しちゃいけない決まりなんかないし?」


 ぷくっと頬を膨らませる結花。

 その表情は怒ってるっていうか、なんだか拗ねてるような、そんな印象。


「でもさ、二原さん……ずるいよね」

「ずるいって、何が?」

「……うー。ずるいんだよ、とにかく」


 結花がますます頬を膨らませて、年相応に膨らんだ自分の胸元に手を当てる。


 ああ――そういえば、RINEでも散々、胸の話してたっけ。


「……ゆうなのグラフィックも、大きいじゃんよ」


「公式設定で、Fカップだからね。百四十七センチの小柄な中学生なのに、胸元だけは破壊兵器。キュートとセクシーの化学融合。あのあどけない表情とアンバランスな大人の体つきが、本当に堪らな――」


「遊くん、ばかなの?」


 はい。ごめんなさい。

 さすがに今のは、デリカシーに欠けてました。


 そうしてしばらく、俺が黙ってると。


「……えいっ」


 ぷにょんと。

 腕に触れる柔らかい感触。



 そう――結花がギューッと、俺の腕に抱きついてきたのだ。



 結花のポニーテールに縛った髪から、柑橘系の匂いが、ふわっと香る。


 腕を通じて伝わってくる結花の温度。


 そんな状態で……結花は俺のことを上目遣いに見て、ぽつりと呟いた。


「……なくは、ないでしょ?」

「えっと……何が?」

「二原さんとか、ゆうなほどはないけど……それなりに、あるんだよ」


 ギューギュー。

 結花が俺の腕に、自分の身体を押し付けてくる。


 柔らかい感触が、腕どころか俺の脳までとろけてきた。

 心拍数が一気に上がって、なんかうまく息が吸えなくなってきたし。


 止まらない鼓動に、言葉を失った俺を見て――結花はムッと唇を尖らせた。


「やっぱり、大きい方がいい? 男の子は大きければ大きいほど好きって、業界で聞いたことがあるもん」

「ろくでもないこと言うな声優業界!? 好みによるでしょ、それ!?」

「でも、遊くん――ゆうな好きじゃん?」

「俺が好きなのはゆうなちゃんであって、ゆうなちゃんの胸ではないっ!」


 俺が必死に否定しても、結花は納得しかねるようで。


「むー……覚えといてよ、遊くん」

 結花は俺から身体を離すと、ベーッと舌を出した。



「絶対もっと、大きくなってやるんだからね!」



 まったく、一体何に対抗心を燃やしてるんだか。

 ひとまず機嫌が直ったみたいだから、いいけどさ。




 うん……取りあえず。


 アニメの話題でも、胸について言及するのは地雷だって、肝に銘じとこう。

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