ドッカ~ン! 4-7「『アルスマギカ』だらけだけど。そんな闇に満ちた世界にだって」
「魔法少女……私は、お前たちが、憎い」
ゴキゴキゴキッと、嫌な音を立てながら首を正面に戻すと。
夜の魔女ヴァルプは、鎖で繋がれた鉄球をぶん投げてきた。
「魔法の洗剤スプレー『マジック☆凛々』――竜巻噴射っ!!」
ノズル口から射出した竜巻が、鉄球とぶつかり……空中で火花を散らしながら拮抗する。
「私は、魔法少女に、なれなかった。お前たちと違う、私は、何者でもない……」
ブツッブツッと、声が途切れながら聞こえてくる。
先ほどまでの叫ぶ感じとは打って変わった、まるで壊れかけのラジオみたいな喋り方。
……なんか、やばい予感がする。
「だから、私は、魔女になった。私が、魔法少女に、なれない世界は、壊れればいい。うん、壊れれれれれれれれ、ばいい。きゃはははははっはははははっハハハハハハッッ!!」
その瞬間。
鉄球が爆散したかと思うと――その破片が小さな鉄仮面のような形状になり、わたしの周囲を浮遊しながら囲んでいく。
まるで無数のヴァルプに取り囲まれたかのような、不気味な感覚。
「――――そして、夜が来る。きゃははははっ! 滅びろ、魔法少女も……世界もぉぉぉぉぉぉ!!」
「どんな脳みそしてたら、そこまで魔法少女にこだわるんだよ……あー、怨念の集合体だから脳がないのか。ったく」
わたしはため息を吐きながら――両手に構えた二つの魔法の洗剤スプレーを、重ねた。
瞬間、魔法の洗剤スプレーはひとつの巨大なスプレー缶に変化する。
無数の鉄仮面が、わたしに向かって降り注ぐ。
そんな中、わたしはスプレー缶をシャカシャカと振って――。
「悪意も穢れも、これ一本!」
「――だが、無意味だ」
わたしがスプレー缶を構える直前――ヴァルプの鉄仮面がパカッと割れて、中から銃口が露わになる。周囲を取り囲んだ、小さな鉄仮面状の破片も、同様に。
そして――放たれたレーザーのような形状の黒い光。
三百六十度、全方位から無数に降り注ぐ、凶悪な悪魔のエネルギー。
だけど……この程度で屈する、わたしだと思うなよ!
「サーモン・マーメイドバブルデリーター――アレンジエンドロール!!」
これはかつて、めちゃくちゃ強い敵組織と戦ってた時期に編み出した、わたしの個人技の上位互換。
数年ぶりに使うけど……こいつの威力、なめないでもらえるかしら?
ノズル口から吹き出した泡が地面に着弾すると、わたしの四方を囲うように泡のカーテンが噴き上がった。
そして、無数の泡はわたしを囲うドーム状に変化し――あらゆる攻撃を消滅させる。
当然、ヴァルプのレーザーなんざ、届くわけがない。
「な……なんだと!?」
「驚くには早ぇんだよ、馬鹿!」
そう叫ぶと、わたしは両手を泡のドームの壁面に当てた。
瞬間――すべての泡がわたしの手のひらに集結し、強大な泡の球体となってヴァルプ目掛けて射出される。
「ぎゃああああああああ亜嗚呼阿アアアアアあああっ!?」
泡の直撃を受けたヴァルプの全身から、煙が噴き出す。
最強の浄化技だからね、これ。怨念の集合体なんざ、ひとたまりもないでしょうよ。
「――お仕置き一発、行っちゃうよ!」
わたしの攻撃で隙だらけになったヴァルプに向かって、パウダースノウが右手をかざす。
現れた魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』が、正面からヴァルプを
「パウダースノウ・スノーホワイトアップルドロップ――バイツァポイズン!!」
それはかつて、パウダースノウが編み出したパワーアップ技。
数年ぶりに見るけど……これ、やばいんだよな。
天高く飛び上がった『しずねちゃん』が大きく息を吸い込むと、膨張して赤くなり、まるで巨大な林檎のような球体に変化する。
そのまま凄まじい勢いで回転しながら、ヴァルプに向かって飛び掛かると。
ガリガリガリとヴァルプの身体を削った上で――最後に白熊の形に戻った『しずねちゃん』が、ガブッと肩あたりに噛み付いた。
「な、何を……う!? な、なんだこれは、力が……入らな……」
「この技は、『しずねちゃん』が猛毒を体内に注入する。その毒性は強くて、たとえ生命ではない君のような存在でも……内部から融解させるほどだよ。可愛くないから、あんまり使いたくないんだけど――今日だけ特別、ねっ★」
いや、最後だけ取り繕うなよ。
逆にこえーよ。
「こ、これが、魔法少女、の、力なのか……」
「多分、違うな。あたしたちは、正当派な魔法少女じゃないし」
一番正当派じゃない鉄パイプ女が、なんか言った。
そして――番長は空高く跳躍すると。
「――天誅一撃、覚悟を決めな」
ヴァルプの足下に、ガラス製の畳が広がる。
そして魔法の鉄パイプ『
『巌流武蔵』は、数百本の鉄パイプに分裂し……番長の周囲を浮遊してる。
そして番長が、両手を振り下ろした。
「番長・シンデレラブレイクエンド――リベンジファミリーステップ!!」
鉄パイプが、まるで神話の槍みたいな勢いで、天から地上のヴァルプへと降り注ぐ。
足下のガラスが、鉄パイプで破砕されていく。
そしてヴァルプもまた、槍の如き無数の鉄パイプに、身体を貫かれて。
「ぐ……が……な、なんだ、これは……」
「昔、編み出したんだがな。あまりに悪役染みてるからって、サーモンに禁止されてたやつだ。まぁ――最後くらい、いいだろう?」
「まぁ、いいけどさ……相変わらず極悪な技よね、これ」
なんか気合い入りすぎて、わたしたち全員で大技使っちゃったけど。
ちょいとオーバーキルすぎたかな?
「――どんなに足掻こうと、必ず夜は来る。魔法少女がいる限り、必ず影に私がいる。終わりはないんだよ、人間の戦いにはね……きゃははハハハハハははは!!」
鉄パイプで串刺しになって、泡と毒で全身を少しずつ蝕まれてるくせに、調子に乗ってんな鉄仮面。
一応言っとくけど、鉄仮面とか今どき流行んねぇぞ?
わたしは、ふぅ……と大きく息を吐き出して。
哀れな怨念の集合体――夜の魔女ヴァルプを睨みつけた。
「そりゃあ、夜は来るでしょうよ。生きてりゃ夜は必ず来るし、朝だって絶対に来る。影があったら、光だってある。世界も人生も、そんなもんだって、女子高生のわたしでも知ってるっつーの。だから……そんな当たり前のことを偉そうに語って! 世界を滅ぼす言い訳にすんじゃねぇ!!」
一喝すると同時に、わたしは思いっきり跳躍した。
それに続くようにパウダースノウと番長も、跳躍する。
そして、三人揃って。
「魔法少女になりたかった」なんて、酔狂な怨念から生まれた哀れな怪物に向かって――右脚を突き出した。
「「「チャーミング☆フェアリィィィィ……キィィィック!!」」」
全力の跳び蹴り。
これが魔法少女キューティクルチャームの、もうひとつの合体技――『チャーミング☆フェアリーキック』。
なんであんまり使わなかったかって?
別なシリーズ類を連想するからだよ。言わせんな、版権に関わるから。
「ま、まほ……しょ……う……じy」
「うっさい、ばーか」
ボシュッという、空気でも抜けたような音とともに。
夜の魔女ヴァルプは光の塵となって――霧散した。
さぁ、約束どおり中ボスは倒したわよ。
最後の魔女ヤーガの方は、ちゃんとやってるわけ? 可愛い後輩ちゃんたち。
――――そのとき。
【これが――我の、最後の力だ】
ヤーガの妖艶な声が、ハウリングしながら
そして、大地を揺らしながら現れたのは。
大きな爪で地面を踏みしめ。悪魔のような巨大な翼を広げて。
血のように赤い牙を剥き出しにした――黒いドラゴン。
【我の全魔力を、自身の体内に流し込み、肉体を変容させる禁断魔法。これにより我は、自身の遺伝子を最強の龍へと組み換えた。ドラグヤーガ――とでも呼ぶがよい】
ドラグヤーガ。暗黒の龍と化した、最後の魔女の姿。
かつて
それほどまでに、この世界を憎んでるってのか……すごい覚悟だな。
そして
ほんと、地球を滅ぼす――とかじゃなくって、
あの連中、
でも、今のあんたがやってることは――ただのテロリストだから。
【さぁ――滅びろ、南関東魔法少女。そなたらを消したのちに、我はこの世界を丸ごと消し去る。地球も、
「
【ほざくな。たかが、魔法少女如きが】
ドラグヤーガが、巨大な口を開けて、咆哮した。
その口から吐き出されたのは、凄まじい勢いの青い炎。先ほど、
青い炎は、ディアブルアンジェの三人に向かって、まっすぐに向かっていき――。
「食欲! おいしいものを死ぬほど食べたい!!」
「睡眠欲! くだらない食事より、惰眠を貪りたい」
「性欲! 夜は長いから、寝る間も惜しんで――ヤることヤりたい!!」
「「「三つの欲をひとつに合わせて、この世を生きる糧となれ。エターナル∞トライアングル――バーミューダ△オカルトフレンドシップ!!」」」
それは――わたしたちが魔法少女になる前。
エターナル∞トライアングルがクライマックスでいつも唱えていた呪文。
トライアングルサガ。トライアングルスリーパー。トライアングルイーター。
三人が唱えた懐かしい呪文とともに、わたしたちの眼前には三角形のフィールドが出現した。
そして――ドラグヤーガの悪魔の業火を、何事もなかったかのように消滅させた。
と同時に、わたしの身体がなんかポカポカしてくる。
「な、何これ!? なんかうちの身体――めっちゃ力がみなぎってきたんだけど!!」
「自分も同じくっす。なんすかこの活力……今なら外に出て、走り回れそうな気分っす」
「これって、ひょっとして……回復魔法、なのですか?」
ディアブルアンジェの面々が、思い思いの言葉を口にする。
そんな三人にウインクを決めると、トライアングルサガが豪快に笑った。
「あっはっは! これはエターナル∞トライアングルの必殺技――バーミューダ△オカルトフレンドシップ。敵の攻撃を味方の回復エネルギーに還元しつつ、敵の内在魔力も吸収しちゃうって代物よ」
「つまり、貴様らを回復させるのと同時に、あのカス龍の体力も削ってるというわけだ」
「じわじわ力が尽きてきてるんじゃないかお? ドラグヤーガ」
その言葉とほぼ同時に。
ドラグヤーガの身体が、前傾姿勢に倒れ込んだ。
【ば、馬鹿な……力が、入らないだと?】
「……相変わらずめちゃくちゃなんだよなぁ。先輩たち」
こんなんされたら、わたしたちの立つ瀬がないでしょーが。
まぁ……いっか。
体面とかそういうの、今さら。
だってわたしたちは、もう過去の魔法少女。
これはあくまでも、後輩のピンチに駆けつけた一回限りのゲスト変身。
だから、わたしたちにできるのは――悔いが残らないように、自分たちの全力を出しきるだけだ!!
「……おおお! がん……れぇ……!! ……ターナ……グルゥゥ……!! キューテ…ャャムゥ……!! ディアブ……ジェェェ……!! ……なみ関東……じょおおお……!!」
うわっ!? なんか幻聴が聞こえてきた!?
「これ……『愛と裏切りの魔天に憂う』たちの声? そっか……
「ここ、天空なんだが。あいつらの喉、死ぬんじゃないのか?」
「はぁ……最後の最後まで、マジで恥ずかしいんだけど。ほんっとうに……今すぐ辞めてやりたいわ、魔法少女なんて」
凄まじくモチベーションは削られたけど。
わたしはキッと、弱体化したドラグヤーガを睨みつけて。
パウダースノウと番長に向かって、叫んだ。
「さぁ、行くよ! 二人とも!!」
そして、わたし――サーモンと、パウダースノウと番長は、右手を重ね合わせた。
「響け三つの歌よ!」
番長。サボってばっかで迷惑も掛けられたけど、大事な場面ではいつも頼りにしてたわよ。ありがとう。
「海に大地に空にと溶けて」
パウダースノウ。年々、性別がよく分かんなくなってったけど……いつだって支えてくれてたよね。ありがとう。
「今、一筋の光とならん!!」
サーモン。こんなダサい名前を背負って、恥だらけの格好でよく死なずに頑張った。偉いぞ……わたし。
光のフィールドが、ドラグヤーガの足下に広がっていく。
ぎゅっと、三人で右手を強く握り合う。
三つの声が、ひとつに合わさる。
「「「キューティクルチャーム・チャーミングフェアリテイラー!!」」」
光が収縮して、開かれた状態の巨大な赤い絵本が、ドラグヤーガの下に広がった。
そして、わたし――チャームサーモンが。
チャームパウダースノウが。チャーム番長が。
重ねた右手を、揃えたまま天にかかげた。
巨大な絵本が、地鳴りとともに閉じていく。ドラグヤーガが、赤い絵本に挟まれていく。
だけど――――。
【……まだだ! この程度で、我は終わらぬ!!】
ドラグヤーガが目を血走らせて、チャーミングフェアリーテイラーのエネルギーに対抗している。
【我は滅びぬ! この世界をすべて消し去り……魔女による新世界を創造するまでは!!】
なんか、すっげぇ必死だな。最後の魔女さんよ?
だけど……残念だね。
それでいいんだよ。この魔法で、やられてくれなくたって。
だって、わたしたち……あんたにとどめを刺す気なんざ、さらさらなかったんだから。
この戦いを。
読了するのは――わたしたちなんかじゃ、ないからね。
「トップアンジェ。見せてみろ。お前の、頂点に立つ戦いとやらを」
「言われなくたって、やってみせるから……見ててよ、チャーム番長!」
「PCアンジェ。後はお願いねっ? ゆっきーたちの分まで……世界を救って」
「最後まで奏でてみせるっすよ。世界を救うロックをね。チャームパウダースノウ」
「ノワールアンジェ――
「言われずともなのですよ、チャームサーモン――
ノワールアンジェ。PCアンジェ。トップアンジェ。
今の南関東を背負った三人の戦士――
その背中は、半年前よりもずっとたくましくなっていて……なんだか笑ってしまう。
マジな話、この世界はさ。
魔法連盟やら、魔女連合やら、受験勉強やら、ブラック企業やら、いじめやら、戦争やら――『アルスマギカ』だらけだけど。
そんな闇に満ちた世界にだって……輝く光はあるはずなんだ。
その光に、あんたたちならなれるって、信じてる。信じられるからこそ。
わたしは――魔法少女を、今すぐ辞められるんだ。
トップアンジェが、両手のリングを外し――二つのフラフープへと変化させた。
魔法のフラフープ『
上にホワイトフープを、下にブラックフープを、それぞれ構える。
発現するのは、巨大な魔力を帯びた球体。
その強大な魔力の球体は、ブラックフープに吸い込まれたかと思うと、今度はホワイトフープから現れて、さらにブラックフープに吸い込まれて――エネルギーをどんどん増幅させていく。
そして最後に、トップは二つのフラフープを重ねて――正面に向けた!
「魔天の力が天地を揺らし、歪んだ世界に一人立つ! トップ・オーロラスピニングエナジーバースト!!」
まるでオーロラのような弧を描きながら、神速の勢いで撃ち出された魔力球。
その進行方向にいるのは――PCアンジェ。
しかし彼女はまるで動じることなく、魔法のデスクトップパソコン『ファッキントッシュ』のキーボードをカタカタと叩いている。
そして最後にエンターキーを、ターンッ! ……と、気持ちいいほど思いっきり打ち鳴らした。
その瞬間、デスクトップパソコンの背面に印字されたランプのマークから、PCアンジェのドッペルゲンガーと見紛うような、半透明のアバターが出現する。
「魔天の音符が電子に踊り、狂ったフェスタでシェケナベイベー! PC・ジャスミンアバタープログラム!!」
オーロラスピニングバーストに、ジャスミンアバタープログラムが打ち込まれた。
それにより――名状しがたいオーラと化したそのエネルギーは、まっすぐにノワールアンジェのもとへと向かっていく。
ノワールアンジェが、ゆっくりと髪の毛を掻き上げた。
露出されるのは――魔法のオッドアイ『夜光虫』。
同時に、世界は闇に包まれる。
そして鈴の音が一鳴りし、闇夜に鈍く光る瞳が現れる。
またひとつ鈴の音が鳴る。再び闇夜に、鈍く光る瞳が現れる。
そうして空を覆い尽くす――九十八の瞳。
それは五十九匹の、獅子の形をした魔獣たち。
「嗚呼……魔天の疼きが闇夜に踊り……狂った宴が今宵もはじまる。ノワール・ベルキルヘルスマイル」
ノワールアンジェのオッドアイから射出された、レーザー光線。
それを合図に闇夜を飛び掛かる、獅子の姿の獣たち。
そこに降り注ぐ名状しがたいオーラは、PCアンジェとトップアンジェの魔力が合成された代物。
そして――三つの力が、ぶつかり合って。
「刮目して見るのです! これが、魔を滅し天を司る、殲滅魔天が究極魔法!! 悪魔と天使が溶けあって、今宵の魔天は……世界を照らす!!」
ノワールアンジェが、大きく両手を振り下ろした。
その瞬間。
世界が真っ白なようで、真っ暗なような――言語化できない空間に変化して。
「「「ディアブルアンジェ――
えっと……ごめん。
なんて発音してんのか、全然分かんねぇ。
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