ドッカ~ン! 4-6「九人の南関東魔法少女」

 もゆの服がすべて透明になり、全身が白い光に包まれた。


 右脚、左脚、胸元と順番に叩く。


 そのたびに鈴の音が響いて、コスチュームが纏われていく。



 両腕をクロスさせる。同時に、腰元から黒いひらひらとしたものが生えてくる。


 そして最後に、もゆが髪の毛をたくし上げると――黒い超絶ロングヘアに変化するとともに、金色の輝きを湛えた左目を覆い隠した。



 可愛くアレンジした学ランのようなコスチューム。学帽風のキャップ。


 キャップから白い羽根が、腰元から羽根のような黒いひらひらとしたものが、まるで天使と悪魔の羽根のごとく彩りを添えている。




 百合紗ゆりさの服がすべて透明になり、全身が白い光に包まれた。


 頭上に浮かび上がった魔天の鏡が、白銀のランプに変化する。傾いたランプから、とろりとした黄金の液体が滴り、全身を包んでいく。


 指をパチンと鳴らす。同時に、全身を濡らしていた液体がコスチュームに変化する。


 落下するランプ。そして、巨大なデスクトップパソコンと、魔法のチェアとデスクへと変化して――百合紗はどっかりと、そのキャスター付きチェアに腰掛けた。



 紫色のショートヘアと、同色の瞳。


 頭からかぶった薄紫色の半透明な布と、口元を覆う分厚い同色の布。


 薔薇でできたビキニのようなトップスと、裾の大きく広がったパンツスタイル。



 そんなアラビアンなコスチュームは、お腹を大きく露出させていて、艶めかしいへそが覗いている。




 雛舞ひなむの服がすべて透明になり、全身が白い光に包まれた。


 魔天の剣が、竹刀から長剣へと変化を遂げる。


 その長剣を使って天を裂くと、赤い光が滝のように降り注ぎ、全身を包んでいく。


 両手を大きく広げる。同時に、全身を包んでいた光がコスチュームに変化する。


 そして最後に、空から降ってきた黒と白のリングが、両手に装着された。



 赤髪のロングヘアと、そこに付けられた白いヘッドドレス。


 裾や袖にフリルをふんだんに盛りつけた、メイド服のようなコスチューム。


 膝上の長さのスカートから覗く脚には、白いニーハイソックスとガーターベルトが身に付けられていて、可愛さと妖艶さの絶妙なブレンドになっている。



 そして、背中には巨大な剣。両手には黒と白のリング。




「さぁ……はじめますよ」



 もゆが、一歩踏み出した。

 そして、オッドアイを覆い隠す長い髪を揺らしながら――演出上現れた月の光を浴びて、宵闇の中で振り返る。



「常闇 混沌 深淵 ……雨。漆黒の乙女、我が名はノワールアンジェ」



 百合紗が、キャスター付きチェアから立ち上がった。

 そしてエアギターを、得意げに一撫でする。



「ネットの中だけ溢れる勇気。電脳の乙女、我が名はPCアンジェ」



 雛舞が、ビシッと右手の人差し指を天に向かって突き上げた。

 そしてその手を、大きく横に薙ぐ。



「夜空に輝く一番星は、不敵に無敵なナンバーワン! 最強の乙女、我が名はトップアンジェ」



 ノワールアンジェ。PCアンジェ。トップアンジェ。


 魔を滅し天を司る殲滅魔天せんめつまてんの三人が、揃い立つ。



 中央のノワールが、左手で唇を押さえ、右手の人差し指で右目を拭った。



「生まれし罪に悪魔の接吻キスを。戦う罰に天使のるいを」


「「「我ら選ばれし民。殲滅魔天ディアブルアンジェ」」」



 そして三人は――頬に両手を当てて目を閉じると、苦悶するように腰を捻った。



「「「嗚呼……今宵も魔天は、血に濡れる」」」




「クソ魔法少女があああアアアあああ!! もう一回、ぶっ潰してやるううアアアああ!?」


「うっせぇんだよ、この鉄仮面馬鹿が!」



 ディアブルアンジェの変身に殺気立った声を上げたヴァルプの腹部を……わたしはガチな威力で蹴りつけた。


 鈍い音とともに、ヴァルプは少しだけ宙に浮いた。



 そして地面を抉りつつ吹っ飛び……魔女宮殿バベルの壁面に激突し、粉塵を巻き上げる。



 ざまぁみろ、変態仮面。


 長年ニョロンを蹴り飛ばしてきた、この右脚は――伊達じゃないんだよ。



「さぁ、取りあえず空気読めない阿呆にゃ、一時退場してもらったわよ」


「あっはっはっは! チャームサーモンも大概ね? さっすが、私の後継者だわ!!」


「それ、全然嬉しくないから。むしろ罵倒に近いから……トライアングルサガ」


「あははは……ありがとうございます。諸先輩方」



 軽口を叩き合うわたしとサガに、深々とお辞儀をするノワール。


 そんな魔法少女の狂宴を見ていた、最後の魔女ヤーガは……わなわなと震えながら、激情を露わにする。



魔法連盟アルスマギカの飼い犬どもが……っ! 揃いも揃って、我の邪魔をしようと言うのか!!」


「邪魔するに決まってるにょろ! 魔法連盟アルスマギカを逆恨みして、地球で暴れ回ってるユーのような悪鬼は――魔法連盟アルスマギカの聖なる戦士が、必ずや倒すにょろよ!!」


「うわっ!? 蛇が化けて出た!」



 なんか唐突にカットインしてきたニョロンに、わたしは思わず声を上げちゃう。


 トライアングルイーターが「ふーちゃんの『スイーツバイキング』で回復させたんだお」って教えてくれたけど――それよりこの馬鹿蛇、なに妄言吐いてんだよ?



 勝手に人を、『魔法連盟アルスマギカの聖なる戦士』なんて不名誉な名前で語るなよ。


 わたしに言わせりゃ、魔法連盟アルスマギカ魔女連合サバトもたいして変わんねーからな?



「ヤーガ……汝の気持ちは、痛いほど分かるでござるぱお。拙者もかつて、汝と同じように魔法連盟アルスマギカに不信を抱き、反旗を翻したぱおから。しかし、汝の破滅主義は――到底、見過ごせるものではないでござるぱお。世界は……汝だけの物ではない!」


「そうがぶ! 僕ちゃんは……殲滅魔天ディアブルアンジェは!! 魔法連盟アルスマギカだとか魔法少女だとか、関係なく――魔を滅し、この世界に光をもたらす、魔天がぶから!!」



 インド象妖精パオンが。

 ワニ妖精ガブリコが。


 それぞれ、それなりにいいことを言った。



 奇しくも、白蛇妖精ニョロン(笑)だけが、なんか微妙な発言をした形になる。



「……ま、いっか。じゃあノワール、ビシッと決めたら、あの魔女気取りと最終決戦だ――もう、負けんじゃねーぞ」


「当然なのです。わらわは……わらわたちは、神の子ですから」



 そんなわたしたちのやり取りを楽しそうに見ながら、サガが豪快に笑った。



「あっはっは! じゃあ、最初は私たちからね!!」



 トライアングルサガ、有絵田ありえだ麦月むつき

 トライアングルスリーパー、塔上とうじょうどくみ。

 トライアングルイーター、穂花本ほかもと風仁火ふにか


 最強と謳われた、先々代の魔法少女。



「「「鳴り響け、希望の福音! 魔法乙女隊エターナル∞トライアングル!!」」」



 チャームサーモン、有絵田ありえだほのり。

 チャームパウダースノウ、雪姫ゆきひめ光篤みつあつ

 チャーム番長、新寺しんでら薙子なぎこ


 八年以上も戦い続けたわたしたち、先代の魔法少女。



「「「世界に轟く三つの歌は、キュートでチャームな御伽のカノン。我ら魔法少女! キューティクルチャーム!!」」」



 ノワールアンジェ、鈴音りんねもゆ。

 PCアンジェ、茉莉まつり百合紗ゆりさ

 トップアンジェ、緒浦おうら雛舞ひなむ


 わたしたちの意思を受け継いだ、現役の魔法少女。



「「「生まれし罪に悪魔の接吻キスを。戦う罰に天使のるいを――我ら選ばれし民。殲滅魔天ディアブルアンジェ」」」



 そして――トライアングルサガ、チャームサーモン、ノワールアンジェで並び立ち。


 声を揃えて。



「「「我ら……南関東魔法少女!!」」」




 こうして、時代を超えて揃い踏みした九人の南関東魔法少女は。


 隊列をなして、最後の魔女ヤーガを見やる。



「……なるほど。どこまでも、邪魔をすると言うのだな? 南関東魔法少女ども」


 そんな九人を睨んでいたヤーガは――ふっと、身体を弛緩させた。



「それならば、我も――全力をもって、そなたらを滅ぼすとしようか」



 そう告げると同時に。


 ヤーガの全身を、黒いオーラが包み込んでいく。



 なんか分かんないけど……こいつはやばそうね。



「ちょっとおおおおおオオオオ!! 私のこと、忘れないでよねええええエエエッッ!!」



 カッと、眩い光が視界を奪ったかと思うと。


 魔女宮殿バベルの一部が、瓦礫となって吹き飛んだ。



 そこからぬっと、現れたのは――夜の魔女ヴァルプ。


 なんだけど……。



「うげっ!? 何あいつ、首が絶対向いちゃいけない方向に曲がってるわよ!?」


「それに、あの鉄仮面の割れてるところ! あそこ……なんか、モザイクみたいに変な空間が広がってるよっ!!」


「普通に、気持ち悪いな」



 わたしたちキューティクルチャームが好き勝手言ってると、ガブリコとパオンが補足してくれる。



四死天使ししてんし五番目・・・の魔女――夜の魔女ヴァルプ。あれは、他の魔女とは異質がぶよ」


「ヤーガがかつて、魔法連盟アルスマギカを追放された……それよりもずっと以前。魔法連盟アルスマギカを強襲した、怪物がいたでござる。後に『夜の篝火ヴァルプ・ギルス』と名付けられた、魔法連盟アルスマギカの騒乱。その末に捕らえられ、『魔法少女文化管理局』の地下深くに百年近く幽閉されていた怪物――その大罪人の名を、ヴァルプと呼ぶぱお」



「はぁ、百年近く!? 何者なのよ、あの鉄仮面! なんか首もやばい方向に曲がってるし。おいニョロン、説明しろ!!」


「し、知らないにょろよ! ミーでも知らないような秘密が、世界には眠って……」



「幽閉した状態で、魔法連盟アルスマギカが研究した結果――ヴァルプの正体は、『魔法少女になれなかった者』たちの怨念の集合体と判明したがぶ。常識がぶよ、ニョロンさん?」


「勉強不足でござるぱお、ニョロン」


「……ぐぬぬぬぬ、にょろ」



 だっさ!


 びっくりした! だっさ!!


 いつも後輩にマウント取ってたくせに、結局お前が一番無知なんじゃねーか!



「――キューティクルチャームの先輩方。夜の魔女のお相手、お任せしてもよろしいですか?」



 そんなドンチキ騒ぎをしてるわたしたちに――ノワールが真面目な声色で言う。


 ノワールは目薬を差していた。


 そしてPCとトップも、ノワールに続いて目薬を差す。



 ――『漏斗誓約ろうとせいやく』。


 差すだけで魔力が回復する、トップ製の強力な目薬だ。



「わらわたちが、最後の魔女と決着をつけます。露払いをお願いするのは、気が引けますが……」


「いいんだよ、それで。劇場版にゲスト出演する先輩キャラは……中ボス戦くらいが、ちょうどいいんだから」


「じゃ、私ら先々代はディアブルアンジェの後方支援――ってことでいい? 二人とも」


「もちろんだお。ふーちゃんたちが前に出すぎると、番組乗っ取っちゃう系になるお」


「だが、現役ども。貴様らが不甲斐なければ、私たちが最後の魔女を叩くぞ? だらしない戦いをするな」



 エターナル∞トライアングルの面々が、好き勝手なことを口にする。


 それを聞いたディアブルアンジェ勢は――。



「言ってくれるじゃん? じゃあ見せたげるよ――最強の歴史を塗り替える瞬間をさ!」


「フェスもオーラスが近いっすからね……魂燃やして、ロックを奏でてやるっすよ!」


「その意気なのです、血の盟友たち! さぁ、行くのです――この強大なる魔を滅し、世界に天の祝福を与えるために!!」



 気合いの入ったセリフを吐いて、黒いオーラを纏ったヤーガに向かっていく、頼もしい後輩たち。


 先輩たちも後輩たちも、めちゃくちゃアドレナリン出してるじゃない。



「まーほーうー……しょうじょおおおおオオオ悪悪悪悪おおおおおおォォ!!」



「怨念の集合体ってことは、生き物じゃないんだよな? よし分かった……る気で、鉄パイプを振れる」


「魔法少女になれなかった者たちの怨念――つまり、『魔法少女になりたかった人たち』の、無念が生み出した怪物ってことだよね? ごめんね、ゆっきーたちだけ魔法少女を楽しんで……でも。ちょーっと、おいたが過ぎたかな?」


「魔法少女になりたかっただぁ? 冗談は死んでから言え! こちとら、やりたくてやってたんじゃねーよ馬鹿!! 二人とも――アドレナリン最高潮で、ぶっ潰すよ!!」



 そして、わたしたち魔法少女キューティクルチャームは。


 夜の魔女ヴァルプに向かって――駆け出した!

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