ドッカ~ン! 3-6「悲しいけど、これが――かつて魔法少女に選ばれた人間の、末路なのよね」
――時計の針が、深夜〇時を指し示してる。
そんな中、わたしはつい……物思いに耽っていた。
まぁ仕方ないけどね。今日は色んなことがあったんだから。
ディアブルアンジェのメンツともいつぶりかに会って話して……懐かしい一日すぎて、受験勉強なんて現実を逃避したくもなるわよ。
「あー……でもさすがに、もうちょっと勉強して寝なきゃなぁ。あー……だる」
独り言ちながら、わたしはガシガシと、丸めて床に置いた布団を蹴りまくる。
だけど、なんだかすっきりしない。
やっぱり蹴り心地が違うな――どこぞの化け蛇を蹴るときの爽快感は、半端なかったんだけど。
すると――――ドゴォォォォォォッ! ……なんて。
絶対に家の中で聞こえちゃいけない、やばめな音が響き渡った。
「な、なに!?」
わたしは慌てて、部屋から飛び出る。
「なんだよ、今の音……姉ちゃん、受験勉強でイライラしたからって、家壊すなよ……」
「壊さねーよ、ふざけんな!」
廊下でばったり会ったのは、目元をこすってる完全に寝起きな愚弟・かぶと。
取りあえず一発、かぶとの頭をはたいてから。
わたしたちは、一緒に一階へおりた。
すると、玄関のところにお父さんが立って――なんかおたおたしてる。
「お父さん? 何してんの? っていうか、さっきの音は……」
「おい。起きろ、色情魔」
――――ドゴォォォォォォッ!
とんでもない音とともに、にへらっとした笑いを浮かべた赤ら顔のお母さんが……ずるずるっと靴箱を背にへたり込んだ。
わたしの担任教師・
これが、さっきから繰り返されてた轟音の正体か。
控えめに言って、地獄みたいな光景だった。
「起きないな。どうせなら、このまま永眠すればいいのに」
「ふーちゃんに任せるお……投げても駄目なら、こうだお!」
――――ドゴォォォォォォッ!
再び凄まじい轟音が響き渡る。
今度は玄関のたたきに、顔面から叩きつけられている、わたしのお母さん。
控えめに言って、悪夢みたいな光景だった。
「……起きないお」
「とどめを刺したんじゃないか? 貴様の全体重を乗せた叩きつけだ。クジラのボディプレスより重いだろう?」
「はぁ……これだから、鶏ガラ女は。ふーちゃんはこの半年で、三キロ痩せたんだお。考えなしに言葉を発するのはやめたら? 骨粗しょう症女」
「――ぷっ。これで三キロ痩せた? 小粋なぶーぶージョークか? 痩せてこれなら、全盛期の貴様は脂肪率五十パーセント程度はあったんことにならないか? 調子に乗る暇があるなら、エアロバイクにでも乗ってろ、脳みそフォアグラ女が」
「よし、殺すお」
「上等だ……今からこの玄関先を、赤く染めてやろう」
やめろ。マジで。
はぁ……とんでもない場面に出くわしちゃったもんだわ。
いい大人が、人の家の玄関先で、ガチの殺し合いをしようとするとか――普通じゃ考えられないよね。
でも残念ながら、わたしのお母さんの旧友は……そういう常軌を逸した連中なわけ。お母さんも、常軌を逸した変人だけど。
悲しいけど、これが――かつて魔法少女に選ばれた人間の、末路なのよね。
「二十七にもなって、フリーター生活のゴスロリ女め。生きてることを恥じろ、風仁火」
バキィッと。
塔上先生の放った先制アッパーが、風仁火さんのアゴを捉えた。
――その腕を、風仁火さんが掴んで。
「そういうどくみは、もう四十一だお? 公務員のくせに行き遅れとか、自分の欠点と向き合ったらどうだお!」
グシャアッと。
見事な背負い投げによって、塔上先生が玄関のドアに叩きつけられた。
――――とんでもない喧嘩してんな、魔法乙女隊エターナル∞トライアングルのOG連中は。
「や、やめてください! どくみさんも、風仁火さんも……この家のローン、まだまだ残ってるんですから!!」
堪えかねたらしいお父さんが、すげぇ情けない感じで叫ぶ。
その声に、キャットファイトを繰り広げてた二人は、ピタッと動きを止めて。
「……貴様に指図される筋合いはないんだが? 色情魔をたぶらかした、性獣が」
「粋がるのはいいけど、相手を選んだ方がいいお。夜道で急に、ブロックで殴られても文句言えないお?」
えっと……うちの父母、嫌われすぎなのでは?
自分の両親が命を狙われるレベルで憎まれてるとか、子どもに消えない傷を残しかねないからね? 真面目に。
「あっはっはっはっは! どくちゃんもぉー、ぷにちゃんもぉー……元気だなぁ!」
そんな、殺伐とした空気を切り裂くように。
ガバッと立ち上がったお母さんが――塔上先生と風仁火さんの肩に、腕を回した。
真っ赤な顔の酔っ払いに、肩を組まれる形になった塔上先生と風仁火さん。
「酒臭いから顔を近づけるな。まったく……貴様は相変わらず、酒癖が悪いな。麦月」
「どくみが調子に乗って呑ませすぎたからでしょうが。麦月は絡み酒だから、昔っからうざいんだお……」
「どくちゃんー! ぷにちゃんー! 大好きだよー!! あははははははっ!」
「安心しろ。私は、貴様が大嫌いだ」
「はいはい。ふーちゃんも、好きすぎてぶっ殺したいおー」
すげぇ暴言が飛び交ってるけど。
はたから聞いてたら、通報レベルのやり取りだけど。
酔っ払ってニッコニコのお母さんの両サイドで――塔上先生も風仁火さんも、ため息交じりに苦笑いを浮かべている。
まったくもって、どうしようもない三人組だけど。
こんな関係性も……ひとつのチームのあり方なのかなとか、思ったりする。
絶対に真似したくないけどな。
でも――こうやって腐れ縁が、いつまでも続いてるってところだけは。
わたしたち後輩への引き継ぎなんだと、思っておくことにしよう。
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