ドッカ~ン! 3-6「悲しいけど、これが――かつて魔法少女に選ばれた人間の、末路なのよね」

 ――時計の針が、深夜〇時を指し示してる。


 そんな中、わたしはつい……物思いに耽っていた。



 まぁ仕方ないけどね。今日は色んなことがあったんだから。


 雪姫ゆきひめ薙子なぎこと、久しぶりに幼なじみ三人で再会して。


 ディアブルアンジェのメンツともいつぶりかに会って話して……懐かしい一日すぎて、受験勉強なんて現実を逃避したくもなるわよ。



「あー……でもさすがに、もうちょっと勉強して寝なきゃなぁ。あー……だる」



 独り言ちながら、わたしはガシガシと、丸めて床に置いた布団を蹴りまくる。


 だけど、なんだかすっきりしない。



 やっぱり蹴り心地が違うな――どこぞの化け蛇を蹴るときの爽快感は、半端なかったんだけど。



 すると――――ドゴォォォォォォッ! ……なんて。


 絶対に家の中で聞こえちゃいけない、やばめな音が響き渡った。



「な、なに!?」


 わたしは慌てて、部屋から飛び出る。



「なんだよ、今の音……姉ちゃん、受験勉強でイライラしたからって、家壊すなよ……」


「壊さねーよ、ふざけんな!」



 廊下でばったり会ったのは、目元をこすってる完全に寝起きな愚弟・かぶと。


 取りあえず一発、かぶとの頭をはたいてから。


 わたしたちは、一緒に一階へおりた。



 すると、玄関のところにお父さんが立って――なんかおたおたしてる。



「お父さん? 何してんの? っていうか、さっきの音は……」

「おい。起きろ、色情魔」



 ――――ドゴォォォォォォッ!


 とんでもない音とともに、にへらっとした笑いを浮かべた赤ら顔のお母さんが……ずるずるっと靴箱を背にへたり込んだ。



 わたしの担任教師・塔上とうじょうどくみ先生が、わたしの母親・有絵田ありえだ麦月むつきを、全力で靴箱にぶん投げる行為。



 これが、さっきから繰り返されてた轟音の正体か。


 控えめに言って、地獄みたいな光景だった。



「起きないな。どうせなら、このまま永眠すればいいのに」

「ふーちゃんに任せるお……投げても駄目なら、こうだお!」



 ――――ドゴォォォォォォッ!


 再び凄まじい轟音が響き渡る。


 今度は玄関のたたきに、顔面から叩きつけられている、わたしのお母さん。



 穂花本ほかもと風仁火ふにかさん(二十七歳・フリーター)が、わたしの母親・有絵田麦月(三十七歳・専業主婦)の顔面を床にぶつける行為。



 控えめに言って、悪夢みたいな光景だった。



「……起きないお」


「とどめを刺したんじゃないか? 貴様の全体重を乗せた叩きつけだ。クジラのボディプレスより重いだろう?」


「はぁ……これだから、鶏ガラ女は。ふーちゃんはこの半年で、三キロ痩せたんだお。考えなしに言葉を発するのはやめたら? 骨粗しょう症女」


「――ぷっ。これで三キロ痩せた? 小粋なぶーぶージョークか? 痩せてこれなら、全盛期の貴様は脂肪率五十パーセント程度はあったんことにならないか? 調子に乗る暇があるなら、エアロバイクにでも乗ってろ、脳みそフォアグラ女が」


「よし、殺すお」


「上等だ……今からこの玄関先を、赤く染めてやろう」



 やめろ。マジで。


 はぁ……とんでもない場面に出くわしちゃったもんだわ。



 いい大人が、人の家の玄関先で、ガチの殺し合いをしようとするとか――普通じゃ考えられないよね。



 でも残念ながら、わたしのお母さんの旧友は……そういう常軌を逸した連中なわけ。お母さんも、常軌を逸した変人だけど。



 悲しいけど、これが――かつて魔法少女に選ばれた人間の、末路なのよね。



「二十七にもなって、フリーター生活のゴスロリ女め。生きてることを恥じろ、風仁火」



 バキィッと。


 塔上先生の放った先制アッパーが、風仁火さんのアゴを捉えた。


 ――その腕を、風仁火さんが掴んで。



「そういうどくみは、もう四十一だお? 公務員のくせに行き遅れとか、自分の欠点と向き合ったらどうだお!」



 グシャアッと。


 見事な背負い投げによって、塔上先生が玄関のドアに叩きつけられた。



 ――――とんでもない喧嘩してんな、魔法乙女隊エターナル∞トライアングルのOG連中は。



「や、やめてください! どくみさんも、風仁火さんも……この家のローン、まだまだ残ってるんですから!!」



 堪えかねたらしいお父さんが、すげぇ情けない感じで叫ぶ。


 その声に、キャットファイトを繰り広げてた二人は、ピタッと動きを止めて。



「……貴様に指図される筋合いはないんだが? 色情魔をたぶらかした、性獣が」


「粋がるのはいいけど、相手を選んだ方がいいお。夜道で急に、ブロックで殴られても文句言えないお?」



 えっと……うちの父母、嫌われすぎなのでは?


 自分の両親が命を狙われるレベルで憎まれてるとか、子どもに消えない傷を残しかねないからね? 真面目に。



「あっはっはっはっは! どくちゃんもぉー、ぷにちゃんもぉー……元気だなぁ!」



 そんな、殺伐とした空気を切り裂くように。


 ガバッと立ち上がったお母さんが――塔上先生と風仁火さんの肩に、腕を回した。



 真っ赤な顔の酔っ払いに、肩を組まれる形になった塔上先生と風仁火さん。



「酒臭いから顔を近づけるな。まったく……貴様は相変わらず、酒癖が悪いな。麦月」


「どくみが調子に乗って呑ませすぎたからでしょうが。麦月は絡み酒だから、昔っからうざいんだお……」


「どくちゃんー! ぷにちゃんー! 大好きだよー!! あははははははっ!」


「安心しろ。私は、貴様が大嫌いだ」


「はいはい。ふーちゃんも、好きすぎてぶっ殺したいおー」



 すげぇ暴言が飛び交ってるけど。


 はたから聞いてたら、通報レベルのやり取りだけど。



 酔っ払ってニッコニコのお母さんの両サイドで――塔上先生も風仁火さんも、ため息交じりに苦笑いを浮かべている。



 まったくもって、どうしようもない三人組だけど。


 こんな関係性も……ひとつのチームのあり方なのかなとか、思ったりする。



 絶対に真似したくないけどな。




 でも――こうやって腐れ縁が、いつまでも続いてるってところだけは。


 わたしたち後輩への引き継ぎなんだと、思っておくことにしよう。

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