ドッカ~ン! 3-4「……びっくりするだろ? 魔法少女の話なんだぜ、これ」
それは
この組織が誕生した背景には、魔法少女キューティクルチャームが最後に戦った『ミッドナイトリバイバルカンパニー』の騒動が関わっていたりする。
パオンと
パオンを殺処分し、事態を隠蔽した上で、従来の魔法少女システムを維持しようとする保守派。
これを機に、大きな軋みが生じている魔法少女システムの見直しを行い、
これまで
魔法少女を管理する、
そんな保守派のやり方に異を唱える連中は、昔からいたらしいけど……それらはすべて異端として、追放に処されてきていた。
……びっくりするだろ? 魔法少女の話なんだぜ、これ。
どんな悪の組織よりも内部が腐ってやがる。
そんな、ブラック企業も裸足で逃げ出す、凝り固まった保守的思考の連中が中枢を占めていた
その結果……革新派が、『魔法少女文化管理局』の中心となり。
魔法少女の定数是正やら、現役長期化防止策やら、これまで黙認されていた諸問題にメスが入れられることとなったってわけだ。
――と、まぁ。
ここで終わってれば、
けど……それだけじゃあ終わらないのが、
革新派が権力闘争に勝利する、その少し前。
そのクーデターの中心にいたのは、かつて保守派に異を唱えて追放された……
ヤーガは『
次元変換コンバーターという、妖精たちを地球に送り込むときに使用する装置を奪取し、
自らを『魔女』と名乗る
だから――「もう魔法少女のいる地球丸ごと破壊してしまえ」という思想に至り。
現在、殲滅魔天ディアブルアンジェが……地球を護るために戦ってるってわけだ。
――結局ぜーんぶ、
もう滅びろよ、あのクソ異世界め!!
「おい、ほのり。こっち見ろ」
――ゴンッと。
ディアブルアンジェのニュースを観てるうちに、
「いったぁ!? ちょっ、なに!?
「誰が
ため息交じりにそう言うと、なんか細長い杖を振り回してるやばい奴は、ドカッとわたしの隣の席についた。
正面に座ってる
――ポニーテールに結われた、艶やかな黒髪。
スレンダーで長身だけど、出るところはしっかり出ているスタイルの良さ。
つり目気味な目元に加えて、くるぶし丈のクロップドパンツ&ごわごわしたパーカーなんて格好が、ヤンキーっぽさに拍車を掛けている。
そんな――わたしのもう一人の幼なじみ・
当たり前のように、タバコをくわえた。
「って! いきなり出てきて、なに喫煙しようとしてんのよ薙子!? この店、最近禁煙になったんだけど!?」
「ん? そうなのか……喫煙者には、世知辛い世の中になったな」
ぼやきながら、タバコと猫のぬいぐるみをしまう薙子。
ちなみに、この猫のぬいぐるみ――ファンシーな灰皿なんだぜ? こいつ以外、使ってるの見たことないけどな。
「まぁ、あれだ。久しぶりだな、ほのり、雪」
「うわぁ、薙ちゃんだぁ……変わんないねぇ、ほのりんっ! このけだるげで、フリーダムな感じっ★」
「はぁ……いや、変わんないね。良い意味か悪い意味かは微妙だけど。っていうかあんた、さっきぶん殴ってきたその細長い杖、マジでなんなの?」
「ああ、これか? これは……禁鉄パイプ用の、な」
……はぁ?
どうしよう。昔からどうかしてると思ってたけど、久々に話したらさらにどうかしてるぞ、こいつ。
「禁煙をするとき、ガムを代わりに噛むとか。禁酒をするとき、ノンアルコールビールを代わりに呑むとか。そういう代替品、あるだろ? だから、禁鉄パイプのために……何がいいのかを考えたわけだ。で、杖」
「……あん?」
「鉄パイプの代わりに、金属バットを持ち歩いてたら、警察に呼び止められるだろ? バールのようなものでも、同じく。それで色々と考えた結果――杖に落ち着いたわけだ」
「……あん?」
八年間の鉄パイプ後遺症で、どうかしちゃってんなこの馬鹿。
普通の人間は、鉄パイプの代用品がなくても、生活に支障ねーからな?
てか、杖だろうと鉄パイプだろうと、人を殴ったらアウトだから。通報すんぞ。
「って、わけでぇ……久しぶりにほのりんに会うんだったら、薙ちゃんも呼んで、三人集合したいっ! ――ということで、サプライズに連絡してみましたっ★」
「ん。サプライズだぞ。驚けよ、ほのり」
「そんなことより、いきなりぶん殴られたことに驚いたわよ……いい大人のくせに」
「大人だから殴らない、というのは思い込みだな。暴行罪で逮捕される大人が、どれだけいると思ってる?」
開き直んなよ、脳筋め。
はぁ――と本日一番のため息を吐いてから。
わたしはぐでーっと、喫茶店のテーブルに突っ伏した。
「なんか……気が抜けたわ。ずっと肩凝ってたけど、脱力した感じ」
「それ、アレでしょ? 受験のストレス的な。久しぶりにゆっきーたちと話して、ちょっと肩の力抜けたんじゃない?」
「相変わらず、学級委員みたいにクソ真面目な奴だな、お前は。肩たたきでもしてやろうか? ちょうどいい杖、あるし」
嫌だよ。あんた絶対、力加減できないんだから。青痣になるわ。
なんて、ふざけた会話をしているうちに――わたしは無意識に、頬が緩むのを感じた。
「……ま。暴力は振るわれたけどさ。ありがとね、二人とも。なんか……元気出たよ」
「感謝しろ。前に会ったときは、死んだサーモンみたいな目してたからな、ほのり?」
「まぁまぁ。仕方ないでしょ、薙ちゃん? ほのりんはぁ、受験勉強で疲弊してるし……魔法少女ロスが、抜けきってないんだからっ★」
――はい? 魔法少女ロス?
何言ってんだ、この十八歳の男の
「馬鹿なこと言わないでよ、雪姫。わたしは魔法少女なんて、罰ゲームみたいな役割をおりれて……マジでせいせいしてるんだから」
「ほんとにぃ? なんだかんだ言って、寂しかったりするんじゃないのぉ? ちなみに、ゆっきーはちょっと寂しいな。八年間すっごく、楽しかったからっ!」
「あたしは、この八年の記憶がない」
両極端だな。楽しかったって奴と、なかったことにしてる奴。
わたしは――その中間くらいな気がするわ。
寂しいってほど感傷には浸ってないけど、魔法少女? 何それ? ってほど記憶に蓋もしてない。
ただただ、TVとか観ながら……わたしたちの跡を引き継いだ、誇らしい後輩たちに頑張ってほしいって。それだけを願ってる。
ああ……そういえば、もゆたちにも随分会ってないな。
元気にしてるかな――あの、どうしようもない三人組は。
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