第3話 お色直し☆それからの魔法少女

ドッカ~ン! 3-1「有絵田ほのり、十八歳。受験間近の高校三年生」

◆特集 代替わりから半年を経て――南関東魔法少女は今?


 南関東魔法少女とは、千葉・埼玉・神奈川・二十三区を除く東京都を管轄する魔法少女のことを指す。


『勾玉』『鏡』『剣』をモチーフとした『三種の魔器』と呼ばれるアイテムで変身する、三人組の魔法少女で、代々『勾玉』の魔法少女がリーダーを務めてきた。


 本特集では、先代に当たる『キューティクルチャーム』について迫ってみたいと思う。



◆魔法少女キューティクルチャームとは?


 南関東魔法少女として、約八年三か月活動していた魔法少女。後任は現在活躍中の、殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェである。


 就任していた期間は現時点では最長となっており、次点の魔法乙女隊エターナル∞トライアングルの約四年五か月の約二倍という長さである。



【当時のメンバー】


○チャームサーモン=有絵田ありえだほのり

  変身アイテム:キューティクル勾玉

  魔法アイテム:魔法の洗剤スプレー『マジック☆凛々』


○チャームパウダースノウ=雪姫ゆきひめ光篤みつあつ

  変身アイテム:キューティクルミラー

  魔法アイテム:魔法の白熊ぬいぐるみ『しずねちゃん』


○チャーム番長=新寺しんでら薙子なぎこ

  変身アイテム:キューティクルソード

  魔法アイテム:魔法の鉄パイプ『巌流武蔵がんりゅうむさし


○白蛇妖精ニョロン



【戦ってきた敵組織】(抜粋)


 1番目の敵組織  ブラックチャクラ

 3番目の敵組織  デススウィーツワールド

 59番目の敵組織  ブラックエボニーダークネス王国

 71番目の敵組織  ネタ・バレル社

 76番目の敵組織  メタボン

 78番目の敵組織  悪魔銀行

 81番目の敵組織  秘密結社 風神鉄道団

 83番目の敵組織  ホットメロンソーダ教団

 84番目の敵組織  オリハルコンオデュッセイキングダム

 85番目の敵組織  (株)エビルランジェリー

 86番目の敵組織  パンダさんジャイアント

 87番目の敵組織  電脳ライブハウス

 88番目の敵組織  カレースパイス◎カラカラ

 89番目の敵組織  ミッドナイトリバイバルカンパニー



          ●  ●  ●



「……はぁ」


 わたしはファストフード店でため息を吐くと、その不快なネット記事が表示されてるスマホの画面を消して、カバンの中に放り込んだ。


 そして、広げっぱなしのノートもそのままに、ぐたっとテーブルに突っ伏す。



 なんで今さらになって、個人情報漏洩されなきゃいけないんだよ……フルネーム載せんな、フルネームを。



 普通に民事訴訟でも起こしてやろうかと思ったけど、面倒くさいからやめた。


 そんなことに使う時間なんて――受験生のわたしに、あるわけないからね。



 有絵田ほのり、十八歳。受験間近の高校三年生。



 最後の戦いが終わった数日後、十八歳の誕生日を迎えたわたしは――久しぶりに『普通の女の子』として年を取った。


 いや、別に年を取りたかったわけじゃないけど。




 そして季節は巡り――二月。


 大学受験を間近に控えたわたしは、ただいま追い込み勉強の真っ最中だ。



「勉強の休憩時間に見るような記事じゃなかったなぁ……テンションだだ下がりなんだけど、これ……」



 独り言ちながら、わたしはもう一回大きなため息を漏らした。


 魔法少女キューティクルチャームが現役を引退してから――早いもので、もう半年以上が過ぎた。


 地獄みたいな魔法少女労働を強いられてるときは、一日が長くて仕方なかったけど……そういう責務がなくなってからは、本当にあっという間だったな。


 部活を引退した運動部の人たちって、こんな気分なのかね。


 運動音痴のわたしには、体育会系の気持ちなんざ微塵も分かんないけど。



 ――ちなみに、大学共通試験はまずまずな結果だった。



 あれだけ、悪夢の魔法少女タイムに時間を削られていた割には、この半年強でよくここまで成績を上げれたもんだわ。我ながらちょっと感心する。


 薙子にそんなこと言ったら、「さすがは学級委員タイプ」って苦笑されそうだけどね。



 あー……そういや雪姫も薙子も、元気かなぁ。


 ちょっと前までは、一緒にご飯食べたりしてたけど。


 受験が近くなってからは、余裕なさ過ぎて連絡してないな。



 どうしよっかな……会いたいけど、勉強を疎かにはできないしなぁ。なんたって一学期まで魔法少女に時間取られてたせいで、他の高三より出遅れちゃってるわけだし。



 ――なんて、思ってると。



 カバンの中からブルブルッと、スマホの振動音が聞こえてきた。


 誰だよ……って、雪姫じゃん。



 店内だと迷惑になるから、私はトイレまで移動してから電話に出た。



「もしもし。雪姫?」


『やっほー、ほのりんっ! うわぁ、久しぶりのほのりんボイスだねっ★』


「まぁ、受験前で学校ない日が多くなったしね」


『そう! ゆっきーが、ほのりんと全然会えてない――これは深刻な、ほのりん不足だよっ!! ほのりんCが不足して、死んじゃうかもしれない!!』


「なんだよ、ほのりんCって。わたしはビタミンか」


『ちなみにCは、キューティクルのCだよっ!』


「余計意味分かんないでしょうが! なんだよ、『ほのりん毛髪』って!!」



 あー……なんかこんな会話するのも、もはや懐かしいな。


 私と同じ気持ちなのか、雪姫も「あははっ」と笑い声を上げた。



『ってわけでぇ……明日、久しぶりに会えないかなっ? 積もる話もあることだし?』


「えー……あんたはいいわよ、そりゃ。推薦で大学決まって、楽しいモラトリアムを謳歌してるんだから。こっちはね、魔法少女時代のクソみたいな悪の組織よりも恐ろしい――受験という名の怪物と戦ってんの」


『相変わらず真面目なところが魅力なのは変わらないね、ほのりんっ★ まぁ、たまには息抜きも必要だよ。「たまには休め、馬鹿真面目め」――なんて、薙ちゃんに言われちゃうよぉ?』



 ああ、あいつはそういうこと言いそうだな。


 休んでばっかの、サボり魔だもんな。薙子は。



 はぁ……とため息をひとつ吐いて、わたしは雪姫のお願いに応じる。



「ま、たまにはいっか。あんまり長くは時間取れないけど、ちょっとだけお茶するくらいなら」


『うんっ! 楽しみにしてるね、ほのりんっ★』



 そんな約束をしてから電話を切ってスマホを仕舞いつつ――自然と笑みが零れる自分に気付いた。



 ああ、そっか。


 なんだかんだ、わたしも……久しぶりに幼なじみに会うのが、楽しみなんだな。

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