ドッカ~ン! 2-7「終わりにするお、パオン」
「あ、ありがとうございましたですです! 南関東の皆さん」
ぺこぺこ頭を下げながら、申し訳なさそうにそんなことを言うのは、
栃木県の『ゆる魔法少女』で名を挙げた現役魔法少女だ。
「別に、わたしたちに謝んなくていいから。っていうか、謝るんなら群馬の人たちにしなって。群馬を死の大地に変えた責任は、あんたたち北関東魔法少女にあるわけだし」
「うぅ……申し訳ないのですです。ゆるキャラの強豪・ぐんまちゃんがいるから、大丈夫だと思ってたのですですが……」
ぐんまちゃん、そういうパワーとかないから。
「二人で茨城・栃木・群馬を管轄するってのが、北関東のルールでしょうが。仲直りしろとは言わないけどさ……喧嘩に周りを巻き込まないこと。分かった、春苺?」
「……はい。ちゃんと、話し合ってみますます……」
とまぁ、北関東に一応の光明が見えたところで。
わたしはぐるっと、群馬の地を見回した。
「それにしても……見違えたわね、群馬」
ぺんぺん草も生えない、黒く湿った大地。
カラスばかりが目立つ黒く染まった空。
そして、見渡す限りの廃墟群。
そんな群馬が――なんということでしょう。
地面からは、生き生きとした緑の草が生え。
空は青く澄み渡り、心地よい空気が辺り一面に流れ込み。
廃墟群はきれいに整備されて、人が住めるような美しい家に。
「えっへん。これが、もゆたちの魔法の力なのです!」
黒いローブに身を包んだもゆが、ドヤッとした顔をしながら目薬を差している。
「もゆの魔力を、ユリーシャの魔法で強化して放ったこの……『
「県ごと再創造するなんて、ほんっとロックっすよね、もゆは。『群馬県でガンマ線◎』なんて、歌のイメージもできたっすよ!」
「ちょっとぉ! そんな膨大なエネルギーを使えたのは、『
「ふふ……分かってるのですよ、ヒナリア。ありがとうなのです。ユリーシャとヒナリアがいてこそ……
「わ……分かってんなら、いいけどさ!」
そんな、仲良しこよしなやり取りをしてる、わたしの可愛い後輩ちゃんたち。
やったことは群馬の再創造だから、尋常じゃない功績なんだけどね。マジで。
「終わったね、ほのりんっ」
後輩たちをぼんやりと見つめてたわたしの背中を、ポンッと
屈託のないその笑顔は、本当に美少女そのもので、ちょっと羨ましい。
「鉄パイプも、使い納めか。寂しくなるな」
そんな妄言を漏らしつつ、
あんた、それ……魔法少女辞めた後にやってたら、職質されっからね?
ま、それはそれとして――。
わたしは、妖精インド象に寄り添う三人の先輩たちの方へと、視線を移した。
「あっはっはっは! パオンってば、相変わらず大きいねぇ? どくちゃんがどんどんガリガリになってるから、体重差が半端ないんじゃない? 昔のどくちゃんと昔のぷにちゃん足したら、同じくらいだったかな? なんちゃって、あっはっはっは!」
「おい、象。ちょっとだけ右足を横に動かせ、そしてそこの性欲の塊を踏め。安心しろ……その女、百人乗っても大丈夫な色情魔だ」
「うっさいわね、あんたたちは! ちょっと静かにするか、死んでなさいよ!!」
相変わらずの暴言パラダイスだな、元・魔法乙女隊エターナル∞トライアングルは。
どの悪の組織よりも凶暴なそのやり取りに、ため息しか出ないわたし。
そんな中――
「パオン……ふーちゃんのわがままで、振り回しちゃったね。ごめん」
「……謝る必要はないでござるぱお、風仁火。拙者も、風仁火と同じ思想だったぱおから。
「今はどー思ってんの? ぷにちゃんも、パオンも」
お母さんが屈託のない笑顔で、二人を見る。
そんなお母さんを一瞥して――風仁火さんとパオンは「あははっ」と声を揃えて笑った。
「もういいお。嫌なこともいっぱいあったっていうか……嫌なことの方が大半だったけど。後輩がきちんと育ってるのを目の当たりにしたら、ふーちゃんたちがやってきたことも意味があったんだって――思えたから」
「拙者も同様でござる。辛い記憶ばかりに捕らわれて、怒りと恨みに胸を焦がしていたぱおが……おいしくバナナを食べていた、そんな時間もあったことを、思い出せたぱお。だから、もう……いいでござるぱお」
「終わりにするお、パオン」
「ぱお。再雇用魔法少女を産み出し、
こうして、構成員であるパオンと風仁火さんの二人が解散を表明したことによって。
第八十九番目の敵組織にして、最後の敵組織――『ミッドナイトリバイバルカンパニー』との戦いは、静かに幕を閉じた。
「はぁぁ……なんか、すっごい疲れたなぁ」
「最後の最後で、久しぶりに本気で戦ったって感じだったね、ほのりんっ★」
「まぁ、いつもの変質者どもよりは、マシだったな。ほのり、雪」
わたしと雪姫と薙子は、思い思いにそんなことを口にしてから。
ちらっと、もゆの方を見た。
「よし、それじゃあ千葉に帰るとしよっか」
「……もゆに、
「枯渇した魔力は『漏斗誓約』で元に戻れるんだから、気にすんな」
「ドラゴンボ○ルみたいな理論っすね、ほのりさん……」
うっさいわね、文句言わないでよ後輩たち。
こちとら、久々にマジなテンションで戦ったんだから――それくらい、多めに見てちょうだいよね。
春苺と、別れの挨拶を交わしてから。
ノワールアンジェの
ちなみに応援団の連中は置いてきた。
連中には自腹で、群馬から千葉まで帰ってきてもらうとしよう。
それともゆは、瞬間的に百倍痛いドライアイでのたうち回ってたけど……百合紗と雛舞が慌てて『漏斗誓約』を差したからセーフ。
こうして、『魔法少女不在の荒廃した土地』群馬県まで飛び出した、わたしたち南関東魔法少女の戦いは――ようやく完全に終わった。
そう。そして、この戦いの終わりは……。
…………魔法少女キューティクルチャームの、終幕を意味している。
「ニョロン。
「……そうにょろ。これで、魔法少女キューティクルチャームは……引退にょろよ」
引退。
それは、わたしがずっと望み続けてた言葉。
だけど、いざ真っ正面から言われると……なんとも言えない感情が、溢れ出してくる。
「……ん。そっか」
そんなごちゃごちゃの気持ちを抑えて、わたしは簡潔にそれだけ応えた。
雪姫がギュッと、わたしの腕に絡みついてくる。
「おつかれさま。ほのりん、よ……よかった……ねっ?」
「……なんで泣いてんのよ、雪姫」
「ご、ごめんね……引退するときは『ほのりん、よかったね』って言うって……や、約束してたのに……あれ、なんで、涙が止まんな……」
「無理するな、雪。それで十分、ほのりには伝わってるよ。お前の気持ち」
そんな雪姫の肩をポンッと叩くと、今度は薙子がまっすぐにわたしのことを見下ろしてきた。
立ったまま見つめ合うと、背が高くてすらっとしてるよね。相変わらずスタイルの良い、格好良い幼なじみだよ……あんたは。
「薙子。おつかれ」
「ん。お前もな、ほのり」
「ってか……なんで、あんたまで涙滲ませてんのよ。らしくないわよ」
「お前だって、目が赤くなってるぞ」
「うっさい」
そんな軽口を言い合ってから。
わたしは、ゆっくりと――後輩たちの顔を見回した。
「もゆ。
「当然なのです。なんたって、もゆたちは……神の子なのですから」
ディアブルアンジェを代表して、もゆがすっとお辞儀をした。
それは多分、この八年間――南関東のために戦ってきたわたしたち、魔法少女キューティクルチャームへの、精一杯の敬意。
「……んじゃ。一人ずつ、一言でもどうよ?」
「なんだその、学校行事みたいなのは。相変わらず学級委員みたいな奴だな、お前は」
「まぁいいじゃない、薙ちゃんっ。最後なんだし? 後輩たちに伝えたいこと……薙ちゃんだって、あるんじゃない?」
「……さて、何かあるかな」
そんな会話を交わしてから。
わたしたち魔法少女キューティクルチャームから、殲滅魔天ディアブルアンジェへの――最後の引き継ぎが、はじまった。
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