ドッカ~ン! 2-2「地面に埋まったまま、ピクピク震えてるぅぅ……」

「「「――――チャームアップ!!」」」

「「「――――今、咲き誇れ! 百花繚乱!!」」」



 そして、わたしたち六人の魔法少女は――巨象の前に立ちはだかった。



「泡立つ声は海をも荒らす! チャァァァムサーモン!!」

「林檎がなければ毒を喰え! チャームパウダースノウ!!」

「ガラスの靴を叩いて壊す! チャームゥゥゥ……番長!!」



「「「世界に轟く三つの歌は、キュートでチャームな御伽のカノン。我ら魔法少女! キューティクルチャーム!!」」」




「常闇 混沌 深淵 ……雨。漆黒の乙女、我が名はノワールアンジェ」

「ネットの中だけ溢れる勇気。電脳の乙女、我が名はPCアンジェ」

「夜空に輝く一番星は、不敵に無敵なナンバーワン! 最強の乙女、我が名はトップアンジェ」


「生まれし罪に悪魔の接吻キスを。戦う罰に天使のるいを」

「「「我ら選ばれし民。殲滅魔天せんめつまてんディアブルアンジェ」」」




 そしてキューティクルチャームのリーダー・チャームサーモンと、ディアブルアンジェのリーダー・ノワールアンジェで、並び立ち。



「ちまたに溢れる社会のクズ共! この魔法少女キューティクルチャームが、今日もシュシュッと……お掃除しちゃうゾ☆」

「嗚呼……今宵も魔天は、血に濡れる」



 恥ずかしさに溢れた決めゼリフ。


 だけど今はそんなことよりも……目の前のパオンチャクラーを止めることで、頭がいっぱいだ。



「サーモン……ごめんなさいだお」



 わたしたちの後ろにへたり込んだままの風仁火ふにかさんが、俯いたまま呟いた。



「どうか、お願い。一人で闇に呑み込まれてるパオンのことを……助けてあげて」


「謝罪する気持ちが本心からのものならば、もっと顔面を地面に擦りつける必要があると思うがな」



 ――ガンッと。


 塔上とうじょう先生に抑えつけられるようにして、風仁火さんが額から地面に直撃した。



「あっはっはっはっは!! まぁ、どくちゃんの言うとおり! ここまで大ごとにしたんだから、きちんと謝る必要はあるよねぇ」



 地獄みたいな仲間の状況を豪快に笑ったかと思うと、お母さんも風仁火さんの頭を掴んで――さらにドゴォッと、その顔を地面にぶち込んだ。


 ひぃぃ……風仁火さんが地面に埋まったまま、ピクピク震えてるぅぅ……。



 えっと。単純に怖いんだけど、この人たち。


 風仁火さんまで『負の感情』を増幅されて、ぷにぷにチャクラーになったらどうすんだよ。マジで。



「とはいえ……あの黒いのに取り憑かれた象を、どうするべきだろうな? 基本的には殺処分するしかないと思うが――そこの魔法少女とかいう社会の底辺ども、頼めるか?」


「誰が社会の底辺だ! 先生だって昔、やってたことでしょうが!!」


有絵田ありえだ、いや鮮魚。いつからそんな偉そうな口を、担任教師に向かって吐ける身分になった? 既にメイド喫茶をやっていた戸塚とつかよりも下な貴様の内申点を、マイナスに書き換えてやっても構わないのだぞ? 未来まで奪ってやろうか、色情魔の忌み子め」


「あっははははは! どくちゃんってば、教育委員会に訴えたら社会的に死ぬのはそっちだからね? ただでさえアラフォー独身ってだけで社会的にヤバいのに、仕事もなくなったら社会的に死ぬのはそっちだよ? あっはっはっは!!」


「死ね」



 塔上先生がノーモーションで、お母さんの顔面にハイキックを繰り出した。


 血飛沫が上がるけど、なぜか嬉しそうに笑ってるお母さん。


 もうやだ、この人たち。



 ってか、さっきの感動の雪解けはどうしたのよ!? もう氷点下くらい、関係性が凍りついてんじゃねーか!


『負の感情』ここにありますよー? ブラックウィザードさーん?


 下手したらこの連中、お前よりずっと邪悪な存在だからな?



「……色情魔。どくろ女。ちょっと黙って」



 そんな、カオスとしか形容できない状況下で。


 グググッと、風仁火さんが地面から顔を上げた。


 よかった、生きてた……。



 そして、風仁火さんは――『黒き混沌』に取り憑かれた、パオンを見つめる。



「魔法少女キューティクルチャーム、殲滅魔天ディアブルアンジェ。こうなった責任は、このクズどもに言われるのはしゃくだけど……確かにふーちゃんにあるお。だからここは、ふーちゃんが再雇用魔法少女ミッドナイトリバイバルとして……ケリをつけるお」



 そう言ってギュッと、風仁火さんはリバイバルナイフを片手に構えるが……。



「ぷにちゃんの馬鹿! スポンジ脳!!」

「げふぅ!?」



 そんな風仁火さんの頬を……お母さんがマジな勢いでビンタした。


 ゴキュッという、絶対鳴っちゃいけない音とともに風仁火さんの首は横に曲がり――手に持っていたリバイバルナイフが、からんと地面に落ちた。



 そのナイフを、塔上先生がひょいと拾い上げて。


 ――ぽいっと、パオンチャクラーの方に向かって放り投げた。



「って、何してんの!? これじゃ、リバイバルイーターに変身できないでしょうが!!」


「しなくていい。というか、するな単細胞」


「再雇用魔法少女ミッドナイトリバイバルは、魔法連盟アルスマギカに反してぷにちゃんが造った、いわば『負の遺産』でしょ? そんなの使って、ぷにちゃんがまたブラックウィザードに取り込まれたらどうすんのさ?」


「……それは」



 言い淀む風仁火さんの右肩を、お母さんが。


 左肩を、塔上先生が。


 それぞれポンッと叩いた――痛くないレベルで。



「私たちはもう、魔法少女じゃない。引き継ぎはずっと前に、終わってるんだから。戦うのは……ぷにちゃんじゃないし、私やどくちゃんでもないよ」


「まぁ頼まれたところで、御免だがな。魔法少女をもう一度やるなんて酔狂なこと、貴様くらいしか進んでやろうとは思わないだろうよ、風仁火。麦月むつきの言うとおり、私たちにできるのは――現役の連中を、見守ることだけだ」



 そう言って。


 お母さんが。塔上先生が。風仁火さんが。



 わたしたち六人のことを――まっすぐに見つめる。



「頼んだよ、ほのり……ううん。チャームサーモンたち」


「恥じらいもなく魔法少女を続けているんだ。世界のひとつくらい、救ってみせろ。お前たちなら、できるだろう?」


「お願いだお……ふーちゃんたちの代わりに、戦って。みんな」



「…………はぁ。今すぐ辞めたい」



 なんて、口癖みたいに言ってから。


 わたしは顔を上げて――パオンチャクラーと化した、かつて魔法乙女隊エターナル∞トライアングルの妖精だったインド象を見据える。



 そして……そんなパオンに取り憑いた、わたしたちの最初の敵だった『ブラックチャクラ』の支配者・ブラックウィザードを、睨みつけて。


 高らかに、言い放った。




「さぁ、みんな――アドレナリン全開で行くよ!!」

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