第2話 ぴちぴちボイスで☆さよならを

ドッカ~ン! 2-1「悪の組織との戦闘中に、不意打ちで味方を吹っ飛ばす汝らが――」

 時の宝珠『リバイバルクリスタル』が。


 その中に蘇っていた混沌の支配者・ブラックウィザードが。



 パオンに取り込まれたかと思うと――パオンは黒いオーラを身に纏い、巨大化した。



 ただでさえ普通のインド象くらい大きかったパオンが、全長数十メートルくらいに!


 もう妖精でもなんでもないな、あれ。


 まぁ、もともと妖精っぽくなかった気もするけど。



 今は本当に、ただの――怪物だわ。



「パオン……」



 風仁火ふにかさんが、おそるおそる手を伸ばす。


 しかし無情にも、その手は長すぎる鼻先で弾かれた。



「気安く呼ぶなでござるぱお。汝もしょせん、魔法乙女隊の一人でござろう?」



 漆黒に染まった瞳で風仁火さんを――そしてお母さんと塔上とうじょう先生を見て、巨大なパオンは雄叫びを上げる。



「拙者が……汝ら魔法乙女隊の喧嘩のせいで、どれだけ心を痛めてきたか、分かるぱおか? 戦闘中だろうとオフのときだろうと、暴力を伴った諍いばかり。悪の組織との戦闘中に、不意打ちで味方を吹っ飛ばす汝らのことが――拙者は、嫌いだったでござるぱお。麦月むつき。どくみ。そして――風仁火」


「……パオン」


「戯れ言だな。おい、黒いの。さっさとそこの象から出て、土下座でもしてみせろ」


「そーそー。私たちの相棒妖精を乗っ取って……罰当たりもいいとこだっての!!」



【……確かに我は、この者の身体を支配している】



 塔上先生とお母さんの呼び掛けに対して、暗く湿った地の底を揺らすような――ブラックウィザードの声が、どこからともなく響き渡った。



【だが、我が混沌の力は……その者が持つ『負の感情』に寄生して、初めて効果を発揮する。魔法少女キューティクルチャーム、貴様らが一番よく知っているだろう?】



 ――ちっ。


 わたし、そして雪姫ゆきひめ薙子なぎこも、ブラックウィザードの問い掛けに応える。



「人間の『負の感情』に寄生して『チャクラー』を覚醒させ、人間界すべてを混沌に陥れる……それがあんたら『ブラックチャクラ』のやり口だっけね。覚えてるわよ」


「今のパオパオは――『パオンチャクラー』。心の闇が広がって、負の感情に取り憑かれちゃって、心の中がぐっちゃぐちゃってことだよねっ?」


「相も変わらず、面倒な敵だ」



「拙者は――汝らが喧嘩をすることが、大嫌いだったでござるぱお」



 パオンチャクラーが、長い鼻を振り上げた。


 その口元から溢れ出す言葉はなんだか……とても哀しいものに聞こえる。



「戦闘中に怒りが頂点に達して、風仁火が麦月にまたがって、ボコボコにしたこともあったぱお。悪魔城の上で決戦をしたときは、風仁火がどくみに突き落とされたぱお。どくみが雪山の中に放置されたことも……あったぱおね」



 あれ、魔法少女の過去話してるんだよね?

 どこぞの少年の事件簿の話じゃね、それ?



「あったねぇ……さすがにあのときは、救急車で運ばれたわ。あっはははははは!」


「雪山で二日過ごしたときか。さすがに死を覚悟して、幽霊になったら呪い殺してやろうと考えていたよ」


「悪魔城、富士山より高かったなぁ。変身してたとはいえ、死ぬかと思ったお」



 三人が三人とも、なんかあっけらかんと語ってるし。


 敵じゃなく味方のせいで、死と隣り合わせ。


 それがデフォだったのが、魔法乙女隊エターナル∞トライアングル――マジで見習いたくねぇ。



「拙者は、三人が力を合わせて世界を救う……そんな魔法少女の妖精になる日を夢見て、人間界に来たぱお」



 ニョロンとガブリコが、うんうんと深く頷いてる。

 お前らの信念は、この際どうでもいい。



「だけど、その結果が――そんな喧嘩ばかりの毎日ぱお。拙者は悩んだ。悩みすぎて、神経性胃炎を起こして、入院したこともあったぱお。頭痛がひどくて眠れない夜も続いてたぱお。それも一重に――魔法連盟アルスマギカに、見る目がなかったからでござるぱお!」


「それは違うにょろよ、パオンさん!」



 なんも違わねーよ。黙ってろバカ蛇。


 一方のガブリコは、おろおろしながら、ディアブルアンジェの方を見る。


 そんなガブリコの頭を、もゆが優しく撫でて。



「心配しなくてよいのですよ、ガブリエル。もゆたちは血の盟約で結ばれた、前世からの関係。たとえ小さな諍いがあったとしても、最後には一緒に――笑っているのです。ねぇ、ユリーシャ、ヒナリア?」


「自分は、他に友達もいねーっすからね。もゆと雛舞ひなむと騒がしい毎日を過ごすのも……なかなかロックで好きっすよ。退屈しないっす」


「うちは仲直りにおいても頂点に立つ女! たとえ喧嘩したって、うちがトップスピードで解決してやるっての!!」



 もゆ。百合紗ゆりさ。雛舞。


 個性派揃いのどうしようもないメンバーだと思ってたけど、いつの間にか――まとまってきたなぁ。



 しみじみと、わたしがそんなことを考えていると。



【惑わされるな……しょせんは戯れ言。貴様が傷を負った過去は、変わらない】


「うう……拙者は、拙者は……っ!!」


魔法連盟アルスマギカを、自分の手で滅ぼせ。そうすれば二度と、貴様のような哀しみを味わう妖精は……いなくなる。それが貴様の、願いだったのではないか?】


「うううううう……パオオオオオオオオオオッッッ!!」



 激しい象の咆哮。


 それと同時に、パオンチャクラーは二本の前脚を何もない空間に伸ばす。


 そしてググッと力を入れると――ピシピシッと、嫌な音がして。



 ――――なんか空間が、裂けはじめてる。



「大変にょろよ、ほのーり!」


「ちょっとニョロン、あの裂け目はなんなのよ!?」


「あれは次元の裂け目にょろ! 魔法連盟アルスマギカとこの世界は、別な次元に存在するにょろが……もしもあの裂け目が、完全に開いてしまったら……」


「パオンさんたちが直接、魔法連盟アルスマギカに突入してしまうがぶ!」



 OK。分かった。


 つまり、このままいけば――魔法連盟アルスマギカが直接侵略されちゃうってわけね。



 ……あれ?


 それって別に、なんのデメリットもないのでは……?



「ほのりんっ! 多分おばかさんなこと考えてるだろうから言っとくけどねっ? もしも魔法連盟アルスマギカが侵略されたら……魔法連盟アルスマギカのシステムを利用した、地球侵略が可能になるんだよっ? ほら、今だって魔力供給を行ってるのは魔法連盟アルスマギカなわけだし★」


「まぁ、相手はあの、ブラックウィザードだ。雪の言うとおり……その供給路を使って、人間の負の感情を操るだろうな」


「そ、そんなの大変じゃないっすか! どうすんすか、それ!?」


「ビビんなくたって平気だっての。なんたってここに――トップレベルの魔法少女たちが、揃ってんだし!」


「……嗚呼。次元が裂け、すべてが混沌に還り――黄昏の刻ラグナロクがはじまる。さぁ、行きましょう。世界の終わりを、終わらせるために」



 それぞれが好き勝手なことを言うもんだから、わたしは思わずため息を吐いた。


 そして、気合いを入れて顔を上げる。



「……分かったわよ。やるしかないんなら、やってやる。世界のひとつくらい、救ってみせるっての!」



 わたし。雪姫。薙子。

 もゆ。百合紗。雛舞。



 六人の魔法少女が並び立ち、次元を裂こうとするパオンチャクラーに視線を向けた。



「それじゃあ、みんな――変身するわよ! ださくて仕方ない……魔法少女にね!!」

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